メディアフォーカス

グーグル社シュミット会長,英国テレビ業界との「良好な関係構築」を呼び掛け

英国メディア界の重鎮が一堂に会し, エディンバラで開かれた国際テレビ祭で8月26日,グーグル社のエリック・シュミット(Eric Schmidt)会長が講演し,グーグルとテレビ業界は敵対関係にあるのではなく,協力してテレビの新たな未来を築いていけると訴えた。

エディンバラ国際テレビ祭の基調講演では,ニューズ・コーポレーションのジェームズ・マードック氏やBBC会長など,毎年話題の人が壇上にあがり,時には物議を醸す過激なスピーチを行うことで注目されている。その講演者に今年選ばれたのはグーグル社のエリック・シュミット会長で,テレビ業界以外からの人選は初めてである。

講演の冒頭,シュミット氏は,グーグルとイギリスのテレビ業界が協力すれば,テレビの未来は楽観できると呼び掛けた。そして,現在20億人以上の利用者がいるインターネットはテレビの将来にとって不可欠だと指摘し,「ネットと融合することで,伝統的なテレビではできなかった,視聴者が求める新たなサービスが可能になる」とアピールした。その例として「多チャンネル時代には,個々人の見たいコンテンツを,送り手側が推薦できるかが生命線だ。究極的には,常に魅力的で,関心を持てて,時間をかけても見る価値のある番組が見られるようになるだろう」と,視聴者一人ひとりのニーズにきめ細かく対応したサービスが生き残りのカギになると将来像を語った。

このように視聴の個人化(Personalisation)を予測する一方で,シュミット氏は,テレビ視聴の双方向性,社会性を強調し,「多くの人は,テレビを通して社会との関わりを求めている。テレビ視聴がすべてオンデマンドになるとは思わない。リアルタイムで見たいという需要は常にある」と述べて,視聴者が自分の世界に閉じこもるのではなく,社会的(Social)なつながりを求め,番組に関わるようになると分析した。

視聴者のアクティブな参加については,BBCも2006年春に発表した「放送の創造的未来」と題した構想の中で重視する意向を示し,見逃しサービスiPlayerの開発やソーシャルメディアの番組での活用を進めてきた。こうした動きを踏まえ,シュミット氏は「私はBBCのiPlayer開発チームに最大の敬意を払う」と述べるなど,イギリスのデジタル時代への取り組みに賛辞を惜しまなかった。イギリスでは,2012年初頭にも「You View」の名称でインターネット接続テレビのサービスが開始される予定であり,それを前に良好な関係を築きたいという思いが背景にみえる。

講演の最後にシュミット氏は,「デジタル時代に見事に対応してきたイギリスのテレビ業界は,世界を舞台に成功できる」と呼び掛け,「グーグルは,皆さんの敵ではなくパートナーになりたい」とラブコールを送った。

グーグルは,アメリカではABCやCBSなど地上放送局とコンテンツの使用を巡ってぎくしゃくした関係にある上,プラットフォームビジネスではアップルなどライバル社との競争も視野にある。国際テレビ祭の講演として,シュミット氏にテレビ業界に対する,より過激な発言を期待する向きもあったようだが,結果は,コンテンツ提供のカギを握るテレビ業界と仲良くしておきたいというメッセージが際立つスピーチとなった。

田中孝宜