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TBS『サンデージャポン』保育園イモ畑報道で名誉侵害

~BPO放送人権委員会が勧告~

放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は2009年8月7日,TBSの『サンデージャポン』が放送した「保育園イモ畑の行政代執行」をめぐって,重大な放送倫理違反があったとして,TBSに再発防止策を講じること等を勧告した。

『サンデージャポン』は,大阪府門真市の保育園のイモ畑が高速道路建設のために強制収用されることになった問題で,08年10月19日に行政代執行の模様をとり上げて放送した。この際,保育園が行政代執行に反対して,イモ畑をつくった園児たちを現場に動員して並ばせたように見える映像を流した。また,収用裁決の取消しを求める訴訟が大阪地裁で棄却されたと放送した。さらに,動員されたように見える園児の映像を見たスタジオ出演者が,「園児を利用している」という趣旨の断定的なコメントをして,保育園を批判した。

ところが,園児が並んだ映像は行政代執行当日ではなく,前日に撮影したものであった。そして,収用裁決の取消訴訟はまだ大阪地裁で係争中であった。

保育園から抗議されたTBSは,指摘された事実を認め,放送2週間後の08年11月2日,同番組の終了後のコーナーで,園児を現場に連れていった事実はなかった,強制収用の取消しを求めた訴訟が地裁で棄却されたと伝えたがまだ裁判所の判断は下されていない,とお詫びして訂正した。

しかし,この訂正放送に保育園が納得せず,放送人権委員会に審理を申立てた。

放送人権委員会は,

  • VTR 映像構成は,前日に撮影したイモ畑の園児の映像を行政代執行当日の映像で挟み込む構成となっているが,園児の映像に取材日が明示されていない,
  • 冒頭の高速道路の映像も,現場とは関係のない場所で撮影したものを使用している,
  • たまたま行政代執行当日に通園してきた園児が混乱に驚いて泣き出した映像をつかって,「泣き出すこどもたち」とのナレーションとテロップが流され,全体として前日撮影の収用地に並んでいた園児全員が泣き出したような印象を与える構成にしている,
  • 収用裁決の取消訴訟の司法判断はまだ出ていなかったにもかかわらず,大阪地裁では棄却されたと報じた,

など,取材・編集にあたって制作者が守るべき基本が守られず,初歩的な問題に制作現場が十分な注意を払っていなかった,と指摘した。その結果,司法判断が出たにもかかわらずそれに従おうとせず,実力で阻止しようとしている印象を視聴者に与えかねない放送内容となった。加えて園児を動員したと思わせる構成は,保育園の悪者イメージを増長させたと判断した。

さらに,誤った認識に基づく出演者の発言を放送中または直後に訂正しておらず,保育園の社会的評価を低下させ,少なくとも申立人の名誉感情を侵害したとして,重大な放送倫理違反があったとした。

また,訂正放送に関しても,間違いを認めてはいるものの視聴者に対し誤った個所がどこで,正しい内容と事実はどうだったのかを伝えてはいないとし,訂正放送も不十分であったと指摘した。

奥田良胤