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裁判員裁判始まる 裁判員全員が判決後に記者会見

全国で初めての裁判員裁判が,2009年8月3日から東京地裁で開かれ,8月6日に判決が言い渡された。判決後に裁判員をつとめた7人(補充裁判員を1人含む)全員が東京地裁内で記者会見に応じた。

初めての裁判員裁判は,東京都足立区で女性が刺殺された事件をめぐって開かれ,殺人罪に問われた男性被告に懲役15年(求刑懲役16年)の判決が言い渡された。

裁判員に対する取材は,容疑者段階で犯人視報道をしたり,容疑者の過去を事件と関連付けるようなかたちで報道したりするなど,行き過ぎた事件報道が裁判員に予断を与え,裁判の公正を害するおそれがあるとの指摘があったことから,裁判員法で規制されている。

裁判員の個人情報は公開されず,裁判員への直接取材も規制される一方,裁判員側にも守秘義務が課せられていて,裁判員への取材はほとんどできない状況であった。

NHKや民放キー局も加盟する日本新聞協会は,裁判員に直接取材できる場として,判決後に記者会見を設定することを求めて,最高裁と折衝していたが,裁判員の意向を尊重するなどの条件で最高裁との合意が成立した。このため新聞協会は2009年2月26日,「裁判員となるみなさんへ」を発表し,判決後の記者会見に出席するよう呼びかけた。呼びかけのなかで新聞協会は,裁判員の個人情報は明らかにせず,評議の秘密など法に定められている守秘義務を守ると約束し,国民の知る権利に応えるメディアの使命を果たさなければならない立場を説明して協力を求めた。

これを受けて,裁判が間近になった09年6月12日,新聞・放送・通信15社が常駐する東京の司法記者クラブが東京地裁と記者会見の持ち方について合意した。

合意によれば,

  • ① 会見への出席要請は,記者クラブから直接するのではなく,裁判所を通して行う,
  • ② 出席するかどうかは,裁判所が確認する,
  • ③ 氏名などを公表するかどうか,会見の冒頭2分間の音声なしの撮影に応じるか否かも裁判所が確認する,
  • ④ 会見には裁判所の担当者が立会い,守秘義務に係わる質問や回答があった場合には,裁判所が可否についての意見を述べる,
ことになっている。

記者クラブ側は,録音・録画を強く要望したが実現せず,今後の検討課題となった。

8月6日の判決後の記者会見は,司法記者クラブと東京地裁との間に交わされた合意に基づいて行われた。

当日は,記者クラブが要請した裁判員7人全員が記者会見に出席した。メディア側からは,新聞,放送,雑誌の記者やカメラマン約100人が取材した。

裁判員7人のうち5人は,テレビカメラの撮影を承諾し,会見の冒頭約2分間音声なしの撮影に応じた。7人とも氏名は明かさなかった。

記者会見は1時間あまり続き,裁判員からは,評議は大学のゼミのような雰囲気だったなどの率直な感想が披露された。

会見後の追加取材には3人が応じ,3人の意向に従って,音声はOKだが顔は出さないとの条件で撮影が行われた。

奥田良胤