メディアフォーカス

苦境に立つ米ネットワークニュース

~鮮明になった視聴者離れと経営悪化

米3大ネットワーク(NBC,ABC,CBS)のニュース番組の凋ちょう落傾向に歯止めがかからない。ワシントンDCに本拠を置くジャーナリズム研究機関であるPEJ(The Projectfor Excellence in Journalism)は毎年3月,過去1年間のアメリカのニュースメディアの状況を詳細にレビューする報告書「The Stateof the News Media」を発表しているが,その「09年版」からは,ニュース番組の視聴者離れが続いている状況や親会社の経営悪化のあおりを受けて苦境に立たされるニュース部門の現状が浮かび上がっている。

同報告書によると,08年には大統領選,米金融危機,イラク戦争,北京五輪など,ビッグニュースが相次いだにもかかわらず,3大ネットワークのニュース番組を視聴する人の減少傾向には歯止めがかからなかった。例えば,08年における夜のメインニュースの1日当たりの視聴者数は,3局あわせて平均 2,280万人とすでにアメリカの人口の10%を割り込んでいる。07年からの減少幅は1%と比較的小さかったものの,ビッグニュースが多かったことを考慮すれば,状況の深刻さは明らかである。また,1980年のデータと比較すると約2,900万人の減少で,毎年100万人以上減少し続け,28年間に 53%も減少してしまった計算になる。ちなみに近年のアメリカの人口は,年平均280万人の増加が続いている。

報告書は,こうした傾向の背景には複合的な要因があると指摘する。すなわち,夕方の在宅人口の減少,論説・解説を重視するケーブルテレビのニュース番組を好む視聴者の増大,インターネットをニュース情報源とする人の増大などである。特に目立つのはケーブルテレビのニュース番組(チャンネル)による激しい追い上げである。例えば,去年11月の大統領選挙投票日の夜,地上3大ネットワークは平均で3,290万人の視聴者を獲得したが,これは04年の選挙時と比べて9%の減少であった。一方,CNN,FoxNews,MSNBCというケーブルテレビの3大ニュース専門チャンネルは,04年比58%増の 2,720万人と,地上3大ネットワークに肉薄しつつある。

こうした状況は,ネットワーク各社の経営悪化によってさらに深刻になりつつある。特に深刻なのはCBSで,同社テレビ部門の08年の経常利益は,前年比 14%減の15億1,250万ドル,ラジオ部門は同29%減,出版部門も11%減などと,すべての部門で前年割れとなっている。各社はニュース部門だけの収支や広告費の詳細を公開していないため正確な状況は不明だが,報告書はニールセンやTNSなどの調査会社のデータを総合した結果,ABC,CBSのニュース部門はすでに赤字部門化しており,NBCだけが唯一黒字だと推測する。しかし,そのNBCも,ジェフ・ズッカーCEOが,地上ネットワークは,このままでは「自動車や新聞業界のように危機的状況に陥る可能性がある」と語るなど(ニューヨーク・タイムズ2月28日),見通しは明るくない。

去年9月の金融危機以来,アメリカのメディア産業は大きな混乱に陥っており,トリビューン社の破たんなど,特に新聞業界でその深刻な状況が伝えられているが,ネットワークニュースへのダメージも大きい。今後の経済状況によっては,凋落傾向にさらに拍車がかかることが懸念される。

米倉 律