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英Ofcom,デジタル時代の公共サービス放送の青写真を発表

イギリスの放送と通信分野を規制するOfcom(Office of Communications)は1月21日,第2回公共サービス放送レビューの最終報告書「視聴者を最優先(Putting Viewers First)」を発表し,今後10年間の公共サービス放送(PSB)を維持・強化するための青写真を示し,商業放送部門の構造変更を政府に勧告した。

イギリスでは, 受信許可料を財源とするBBCと広告を財源とするITV(チャンネル3の地域免許保有者によるネットワーク),チャンネル4,Fiveが,電波の希少性を基にした優先的な電波割り当てと,異なる財源の独占という2つの制度的措置によって,すべての人に娯楽番組だけでなく,ニュース(全国・地域・国際)やドキュメンタリー,子ども,芸術など公共サービス番組の放送を保障してきた。しかし,デジタル化によるテレビ・プラットフォームの多様化と競争が進み,商業公共サービス放送部門が現行サービスを維持するには,デジタル完全移行の2012年まで毎年2億3,500万ポンドの資金不足に陥ると試算されている。 Ofcomは,この問題に対処しなければ,近い将来BBCだけが公共サービス番組を提供することになり,イギリスにおけるPSBの多元性を保つことは困難であるとし,次のような勧告を行った。

  1. 受信許可料を財源とするBBCは,PSBの中心として,新しいデジタル・プラットフォームの発展とコンテンツの利用をすすめるパイオニア的役割を果たす。
  2. ITVの地域ニュース放送や,Fiveのオリジナル番組制作など,両者に課せられたPSB義務を段階的に緩和あるいは撤廃する。
  3. ITVに代わり地域ニュースを制作するコンソーシアムを新設し,ITVの放送枠で放送する。
  4. BBCに対抗する新しい強力なPSB事業者として,チャンネル4が他の事業者とのパートナーシップ,ジョイントベンチャー,合併などによって組織強化を図り,ニュース・時事問題・年長の子ども向け・ロンドン以外の番組制作・全般的なデジタルメディア・コンテンツの提供など新しい公共サービス義務を果たす。

Ofcomは,チャンネル4の将来について,BBCの商業活動部門であるBBC ワールドワイドとのパートナーシップやFiveとの合併を具体的な選択肢として示した。また,Ofcomは,地域ニュース制作事業者の設立など新しい PSBシステムの確立に必要な財源として,BBCの受信許可料の一部を割り当てるという「トップ・スライシング」の考えを否定した。しかし,2007年度から2012年度までの受信許可料の値上げの取り決めでは,総収入のうち,年間1億3,000万ポンドはデジタル移行支援に充てられ,その目的以外の使用を禁止されていることから,デジタル移行の余剰金を利用する可能性も示唆している。

こうしたOfcomの勧告に対し,BBCの監督機関であるBBCトラストは,Ofcomの勧告を歓迎し,BBCがITVやチャンネル4やその他の事業者とのパートナーシップで,PSBの発展に貢献すると述べた。

中村美子