メディアフォーカス

通信・放送の法体系論議 コンテンツへの行政関与に警戒感

~「中間論点整理」への意見~

通信と放送の融合と連携が進むなかで,新たな法体系を検討している「情報通信審議会」の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」(主査・長谷部恭男東大教授)は,これまでの検討結果を「中間論点整理」として公表し,今後の検討の方向性について,各方面からの意見を募集していたが,2008年7月 25日,寄せられた意見を公表した。

今後重点的に審議すべき主な論点とその検討の方向性について,メディア団体,経済団体,通信団体等から80件の意見が寄せられているが,以下に新たな法体系によって,行政のコンテンツへの関与に警戒感を強めている民間放送連盟,新聞協会,NHKに限定してその意見を紹介する。

「中間論点整理」で同委員会が提起した主な論点と方向性は以下のとおりである。

  • (1) メディアの垣根を越えた新ビジネスの創出と自由な事業展開のためには,事業ごとに細かく仕切られた規律体系を廃し,できるだけ規律対象を大括りに捉え,これらに共通する必要最小限の規制を課す。
  • (2) 放送法や電気通信事業法,電波法など関係する法規定を,情報・流通のなかでの位置づけや役割の違いに応じて再編成し,整合化・合理化するとともに,伝送,プラットフォーム,コンテンツといったレイヤー間の関係が明確化された体系に転換する。
  • (3) 安全・安心なネット社会を構築するため,発信者を含めすべての当事者の配慮事項を法に明記する。しかし,この規定は情報の自由な流通を萎縮(いしゅく)させないよう倫理規定とする。
  • (4) コンテンツ規律に関しては,特別な社会的影響を持つコンテンツサービスを「メディアサービス」(仮称)とし,従来の放送と今後登場するであろう“放送”に類似可能なサービスを規制対象として検討する。規制の範囲は従来の放送法の概念にとどめる。
  • (5) メディアサービスに対する規律を,特別な公共的役割を担う「特別なメディアサービス」とそれ以外の「その他のメディアサービス」に分け,具体的に見直しや合理化を図る。
  • (6) インターネットのホームページ等メディアサービス以外の「公然性を有する情報通信コンテンツ」については,表現の自由と他の法益との衝突を調整する規律とする。また,違法・有害情報対策に関しては,プロバイダ責任制限法を適用し,当面行政機関は直接関与しない。

以上の「中間論点整理」に対して民間放送連盟からは次のような意見が出された。

  • ▽ 地上放送のレイヤー型法体系への転換は,メディアサービスの類型化や審査などを通じて行政の関与を認めることになるので反対である。転換の方向性は産業振興の観点に偏っており,レイヤー型に転換する意義や効用についての合理的な説明を欠いている。
  • ▽ 放送法の理念・目的を継承する視点が欠落している。放送が民主主義の発展に寄与し,生活に不可欠な情報基盤として視聴者に貢献できる制度を堅持すべきである。
  • ▽ 情報を流通させるすべての者が本来遵(じゅん)守すべき最低限の配慮事項を法で規定することに反対する。罰則を伴わない倫理規定であっても,表現の自由を萎縮(いしゅく)させる危険性を否定できない。
  • ▽ 放送の自主自律を損なう行政処分等の制度化は厳に避けるべきである。
  • ▽ 情報の「地域性」を積極的に継承すべきである。
  • ▽ 通信・放送の区分にとらわれない柔軟な電波利用を検討する際にも,(1)視聴者から期待される放送の機能・役割・責任を損なわない,(2)割り当てられた周波数は放送事業者の自律的運用に任せる,等を議論の大前提とすべきである。
  • ▽ 新たな法体系を検討するうえで,NHK を枠外に置くのは望ましくない。

また,新聞協会が提出した意見の概要は,以下のとおりである。

  • ▽ レイヤー型の法体系に転換するにしても,伝送設備,伝送サービスに関する規律だけで,その目的は達成される。コンテンツに対する法による規制は,表現の自由を侵しかねない。
  • ▽ 配慮事項を倫理規定にするとしているが,刑罰が伴わなくても,法に明記されると事実上の規制根拠となり,公権力の介入を招く。
  • ▽ メディアサービスの範囲に関して,その規制を従来の放送の概念にとどめるのであれば,新たに類型化する必要はない。
  • ▽ インターネット上の情報については,現行法で対応すべきである。また,違法・有害情報対策について,当面行政は関与しないとあるが,行政は本来コンテンツ規律に関与してはならない。
  • ▽ メディアサービスの区分で,「特別な公共的役割」とあるが,定義が不明確で,し意的な解釈が入り込む余地がある。メディアを報道や情報の内容で分類すること自体,公権力の表現内容への介入を招くおそれがある。
  • ▽ マスメディアの集中排除原則を,伝送設備規律でなく,コンテンツ規律として位置づけることは不適当である。

そして,NHKからは概要以下のような意見が提出された。

  • ▽ 政府のコンテンツに対する干渉を排する趣旨から,引き続き放送による表現の自由の確保等の保障規定が必要である。
  • ▽ 放送法のNHK関係規定と電波法を包括化の対象とすることが適当かどうか,十分な検討が必要である。
  • ▽ 「規制」と「規律」という二つの表現が使われている。行政による「規制」が広範におよぶと,現行法の趣旨にそぐわない。コンテンツにかかわるものについては「規制」という表現を「規律」に改めるよう要望する。
  • ▽ NHKに関する放送法の関係規定を見直すにあたっては,機械的に新たな法体系に整合するよう置き換えるだけでは不十分であり,新たな社会・経済状況に適合するものとする必要がある。
  • ▽ 有限希少な資源である電波による送信手段がどのように確保されるかは,大きな論点であり,放送事業の継続性を図る観点から検討すべきである。

同委員会は,寄せられた意見等を参考にしてさらに調査・研究を進め,2009年12月を目途に「情報通信審議会」が総務省への答申を行う予定である。

奥田良胤