メディアフォーカス

独ARD,オンラインVOD サービス 「ARDメディアテーク」を開始

ARD(ドイツ公共放送連盟)が5月11日,無料のオンデマンドサービス「ARDメディアテーク」を開始した。ARD加盟の州放送協会が制作したテレビ・ラジオ番組を集め,インターネットで配信するプラットフォームで,ストリーミング再生での視聴のほか,テレビのニュース・情報番組やラジオ番組等を,利用者のパソコンや携帯端末へダウンロード,保存することができる。当面約50のテレビ番組を提供する。ニュース番組については,テレビ放送と同時に配信するライブ・ストリーミングも行っている。ARDは今後,地域放送コンテンツの提供数を増やすなど,さらに充実を図るとしている。(http://www.ardmediathek.de/ ドイツ国外からも利用可能。)

傘下の州放送協会の多様なコンテンツへの入口

ARDは当初,2007年内にも「ARDメディアテーク」を開始する計画で,2007年9月のIFA(ベルリン国際コンシューマー・エレクトロニクス展)で,この名称とサービス像を公表した。公共放送のZDF(第2ドイツテレビ)は,IFAの開催と同時に,インターネットのVODサービス「ZDFメディアテーク」を開始したが,ARDは,9つの州放送協会と国際放送ドイチェ・ベレの連合体であるため,加盟局相互の調整を行う時間を要した。「ZDFメディアテーク」の提供コンテンツは,1つのテレビチャンネルのものだが,これに対し,「ARDメディアテーク」では,州放送協会のラジオ放送も含め,60を超えるチャンネルのコンテンツが束ねられている。コンテンツは,それぞれ制作元の州放送協会のサーバに保管され,それらを番組名やキーワードで一括検索できるように設計したため,セキュリティ面でもテストを重ねた。また,総合ポータルの「ARDメディアテーク」とは別に, 「DasErste(第1テレビ)メディアテーク」というサブポータルも設け,そこでは提供コンテンツをDasErsteのテレビ番組に絞り,利便性を高めている。

アーカイブサービスを志向

公共放送のVODサービスの1つのモデルとして,イギリスBBCの「iPlayer」が挙げられる。放送後7日間,インターネットで番組をダウンロードでき,“キャッチアップサービス”や“見逃しサービス”と呼ばれる。「ARDメディアテーク」では,単なる“キャッチアップ”にとどまらない,過去の番組を蓄積して,インターネットでのオンデマンド利用に供する“アーカイブサービス”が志向されている。例えば,2002年以降の毎日の放送がアーカイブされたニュース番組や,2004年以降の放送がテーマ毎のクリップ形式で視聴可能な科学教育番組がある。ARDは,「放送後7日間しか提供しないのでは,視聴者のニーズに応えられない」と,米大統領選挙やチベット問題の時事解説を例として挙げた。

公共放送サービスへの規制強化の可能性

ドイツでは,公共放送による番組のオンライン提供の期間について,原則として放送後7日間に限定する条項を含む法案が作られ,まもなく審議が始まる。これは商業放送や新聞・出版業界の公共放送批判に端を発している。ARDは,インターネットなど多様な伝送路で視聴者にコンテンツを提供し,時間や場所にしばられずに利用してもらうことで,公共放送として知識社会に奉仕するという信念で,逆風のなか,「ARDメディアテーク」を開始した。

伊藤 文