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政治的論評への政治家の苦情申立てBRCが厳しい指摘

視聴者からの放送に対する苦情を審理する第三者機関・BRC(放送と人権等権利に関する委員会)は2006年9月13日,民主党衆院議員2人による,テレビ朝日『報道ステーション』の民主党代表選挙報道で名誉を侵害されたとする苦情申立ての審理結果を発表した。

民主党衆院議員の仙谷由人氏と枝野幸男氏は2006年4月4日,5日に放送されたテレビ朝日の『報道ステーション』の民主党代表選挙に関する報道で,「憶測や思い込みで政治的謀略的筋書きを流すことによって視聴者に誤った印象を与え」,著しく名誉を侵害されたと主張し,謝罪と訂正放送を求めていた。

両氏が問題とした放送内容は,4日に出演した政治コメンテーターが「挙党体制の確立を妨害しようとしている~その張本人が岡田さん,前原さんを担いだ若手グループ,そして,その後見人が仙谷さん」と発言した部分。さらに5 日に同じコメンテーターが,末松氏立候補の動きに関連して,「末松さんが出てきたってことは,万万が一,この人に20 人貸して,20人の推薦人を集めて出るということは,小沢さんへの批判票をとにかく1 票でも多くつくりたいっていうのが,この仙谷さん,枝野さんという今この執行部を1 年半やってきた,まあ前原さんたちの思惑なんです」と発言した部分。両氏は,“反小沢グループ”の行動として一方的に断じており,末松氏の立候補表明とはまったく関係がなく,これらの報道は事実に反している,と主張した。

これに対してテレビ朝日は,「コメンテーターの論評は,小沢・菅・鳩山三氏が一つになって,野党第一党としての確固たる地盤を築いてもらいたいとの望みを込め解説したものと認識している」「論評は申立人らの社会的評価を低下させてはいない」と反論した。

BRC は,「本件放送は,申立人らの立場から見れば,申立人らが民主党代表選において小沢代表の選出に対して一定の消極的ないし対立的な言動をとったとの印象を与えたかもしれない。しかし,一般視聴者の立場から見るかぎり,それは政党人として当然ありうるべきことであって,申立人らの,政治家としての,あるいは人格的な面での否定的評価に結びつくとは考えられず,社会的評価が下がったと認めることはできない」とし,名誉毀き損は成立しないと判断した。

その上でBRC は,両氏が政治家として著名な存在であり,「このような立場にある政治家は,その政治的動向,時にはそのプライバシーを報道,論評されることにおいて,公共性,公益目的があるとされる場合が多く,一般私人よりも受忍限度は高く,寛容でなければならない立場にある」とし,本件は「名誉毀損をもって論じるケースではないし,申立人らが民主党の有力な政治家であり,自らも,メディアを通じて,その批判について反論する機会を有するだけの政治的な力量を持つ以上,むしろこのような自由な論評は甘受すべきであり,本件放送を論難することについては,報道の自由を堅持し,政治的干渉からの自由を擁護することを通じ,民主主義を維持発展させるという観点から疑問なしとしない」と苦情申立てに厳しい指摘をした。

BRC が政治的論評に対する政治家の苦情申立てに対する審理を行い,判断を示したのはこれが初めてである。

奥田良胤