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スイス議会,新放送法を可決

スイスの議会両院は3 月24 日,「連邦ラジオ・テレビ法」(Bundesgesetz uber Radiound Fernsehen)を可決した。これは1991年に成立した現行の放送法を全面的に改正するものである。2000年1 月に連邦政府が改正についての意見書を発表して以来の6 年越しの議論に,ようやく決着がついたことになる。発効は2007 年1 月の予定である。

改正は,国際化する放送市場のなかでスイス独自の放送サービスを強化することと,デジタル化や放送と通信の融合などの技術発展に見合った法的枠組みを整えることを目的としている。このため新放送法は主に,①スイス放送協会(SRG SSR)による競争力のある公共サービス放送の維持,②ローカル放送への受信料配分,③商業放送への規制の緩和,を定めている。

1. 競争力のある公共サービス放送の維持

新放送法は,これまで通りSRG SSR を公共サービス放送を担う第一人者として認め,受信料の大部分を配分するよう定めている。競争力のある公共サービス放送の必要性が強調され,SRG SSR に特別な地位が認められる背景には,スイス独特の事情がある。

小国スイスの放送市場は,全体の経済規模が小さいうえ,ドイツ語,フランス語,イタリア語,レト・ロマン語の各言語地域に分割されている。さらに隣国(ドイツ,フランス,イタリア)のテレビが多く視聴され,いずれの言語地域でも,視聴シェアの約3 分の2 を外国放送が占めているのが特徴的である。

こうした資金の豊かな隣国の放送事業者と競争しつつ,各言語地域の文化とニーズを反映し,スイスのアイデンティティの基盤となる放送サービスを守るためには,少ない財源を集中させる必要がある,というのが政府と議会の判断であった。またSRG SSR の広告・スポンサー収入もこれまでどおり認められた。

2. ローカル放送への受信料配分

スイスではこれまでも,SRG SSR の全国および各言語地域全域向けの公共サービス放送を補完するものとして,ローカル放送事業者への受信料配分が行われてきた。新放送法はこの効率性を見直すとともに,配分額を拡大する。額の拡大については,SRG SSR の減収につながるため反対もあったが,最終的にラジオ受信料とテレビ受信料のそれぞれ4% が,監督庁の認定を受けたローカルラジオ・テレビ事業者に配分されることに決まった。ただし,効率的な配分を行うため,認定事業者数の上限が定められる。事業者の選定手続きは,今後省令によって具体化される予定である。

3. 商業放送に対する規制の緩和

現行法では,すべての放送事業者は監督庁の認可を受ける必要があるが,新放送法では,受信料配分を受ける事業者と地上放送用の周波数を使用する事業者を除き,認可申請手続きは不要となり,登録制となる。さらに商業放送には,これまで禁止されていたアルコール広告と番組途中の広告が許可され,財源の拡大の可能性が開かれた。

このほか,政府が受信料の1% までをデジタル放送など新技術への支援に使用できること,SRG SSR の一組織である国際放送Swissinfo/SRI の財源の半分までを政府がまかなえること,などの規定も新たに加わった。

杉内有介