国内放送事情

「多文化社会化」に放送はどう向き合うべきか①

~静岡県浜松市における「送り手」調査の結果を中心に~

国内に在住する外国人登録者の数は、約221万人(08年12月現在)、その数はここ15~20年のあいだに急増しており、日本にも欧米なみの「多文化社会」状況が早晩到来するという可能性が近年現実味を帯びている。

そうした「多文化社会化」の中で放送は、どのような役割を果たすべきだろうか。本稿では、今年3月、6月の二回に渡り静岡県浜松市で行ったヒアリング調査の結果を報告するものである。浜松市は自治体としては国内最多の約1万8000人のブラジル人が生活しており、ブラジル人を対象としたポルトガル語メディアや、ブラジル人関連の情報を扱う国内メディアが複数存在している。

これらのメディアの担当者へのヒアリングから、浜松におけるメディアの現状と課題等を分析・報告し、多文化社会における放送の役割・機能について展望する。

本稿では、エスニック・メディア(ポルトガル語メディア)から、①「ラジオ・フェニキス」(=インターネットラジオ局)、②「インターナショナルプレス紙」(=ポルトガル語の週刊新聞)を、また国内のメディアからは、③静岡新聞、④FM Haro! の4つのメディアを取り上げ、その担当者、制作者の話を紹介。これらの4つのメディアが、それぞれの社会的役割を果たしながら、全体として他の地域にはない独特のメディア・情報空間を形成している状況が明らかになった。

また、これらのメディアのあいだには、メディア相互の連携と呼びうる動きが起きており、これらの動きは、既存のメディアの壁を越えた情報・文化・言語の新しいメディア公共圏(多文化的なメディア公共圏)が作りだされる可能性をも持っている。

なお、今回のヒアリングでは、メディアの「送り手」側だけでなく「受け手」であるブラジル人達へのインタビューも行っており、その結果については、本誌12月号でその詳細を報告する予定である。

メディア研究部(海外メディア)米倉 律