ことばウラ・オモテ

最近の若い人のことば

「若者ことば」というのは、日本語研究の中でも1つのジャンルを形成するほどさまざまな動きがあります。

それぞれの大学内で使われる一種の「方言」である「キャンパスことば」を研究する人も多くいます。

「流行語」を含め日本語の変化は若者が発信源ということも言われています。

最近、20歳前後の人たちと、話をしたり、書いたものを見たりしていると、いくつかの点に気づきました。

人称の変化と、接続詞の変化です。

人称で気になるのは、自称(一人称)男女差、地域差が少なくなってきたこと、種類が減ってきたことです。

女性のほとんどが普通の会話では「あたし」を使っています。あらたまった場合に「わたくし」を使うのは、かなりことばづかいが出来た人です。

以前は聞くことが出来た「あたい」「あちし」は聞かれなくなりました。

男性に一時使われた「自分」は5、6年前に比べると少なくなったように思えます。
「おれ」が多くなり、「ぼく」は相対的に減っているようにも聞こえます。

むしろ、若い男性では主語の一人称を使わないで済ます方向にあるのかもしれません。しかし、体育会系の学生や、サラリーマンの一部には「自分」を使っている人も残っていて、根強い需要があるようにも思えます。

この「自分」は二人称として使われることもあり、「自分自身」の代わりに使われています。「あたしはこう思うんだけど、自分はどうなのよ!」(「私はこう思うのだが、あなたはどう考えるのか」の意味)という使い方です。

男性が使う二人称「君」も減って、「あなた(あんた)」が増えているように思えます。

接続詞で気になるのは、「なので」を文頭接続詞として使う例が多く見られます。
「私はファストフード店でアルバイトをしています。なので、人と話すのは平気です。」「私は小さいころから走るのが速かったです。なので、陸上部に入りました。」
などという使い方です。

こういうように文頭接続詞として使われると、60代以上の人の中には「なんかおかしいぞ」と思うかたがいらっしゃるようです。

たしかに、最近よく聞きますし、筆者も抵抗感を持ちます。そこで辞書を見ると、三省堂国語辞典は用例として「準備万端整った。なので心配していない。」を載せています。接続詞として。「前を受け、そうであるから、だから」という説明です。
『新明解国語辞典』も、2番目の意味として接続詞で扱い、「前に述べたことと、それを原因・理由として導かれる帰結とを結びつけることを表す。『外で食事は済ませてきた。なので、今は何も欲しくない』」とかなり詳しく記述しています。
ほかの辞書を見ると項目として「なので」を項目にしているものは少なく、『広辞苑』は掲載がありません。『大辞林』は、連語として扱い、接続詞としては認めていません。
古くは、形容動詞になり得る名詞に「な」と「ので」という助辞が付いたと解することが主流でした。
平成14年以降の辞書には接続詞として認めるものが出てきたようです。

接続詞としての使い方に抵抗を示す人は、「若者の頭のレベルを知る、あるいは、ことばづかいをはかるバロメーターとして使っている」という人もいます。

たしかに、「なので」を接続詞として使う人たちには共通した傾向を見ることも出来ます。多くは論理的な表現ができ、知的レベルも平均以上の若者です。

この表現に抵抗を覚える人の心の中には「わたしって、コーヒーが好きじゃないですか」に対する抵抗と同じようなものがあるようです。

原因と帰結を結びつける負担を聞き手に強いるからというのも1つの理由になります。

「なので」を接続詞として認めない『広辞苑』では「ので」の項目に「『から』と類似の意を表すが、主観的判断を根拠とする文脈には使わない」と特筆しており、「なので」という接続詞に抵抗を感じる人も「主観的判断」によるという意識があってより抵抗派になるのでしょう。

抵抗派は、「な」+「ので」という形をまず考え形容動詞的な使い方をする「貧乏」「熱心」+「なので」という表現であれば、それも客観的な事実に基づいた表現なら許してくれるのでしょう。

もうひとつは、「なので」接続詞を使う若者の文章には、やはり、どこかに聞き手の心情や思考を省略しているところがあるかもしれません。もう一言二言付け加えてくれればいいのにというところがあります。

かなり詳しく文章を点検しないと、何が不足しているのか指摘できないこともあります。抵抗派、守旧派に対する若者から年寄りのことばのレベルを試されている挑戦状とも思えます。

最近、こういう「なので」接続詞を使う人には、まず、論理構造を褒め、話し手、受け手の心理状態、理解レベルを細かく考えながら何が不足しているかをいっしょに考えるようにしています。

すると、年配者の前ではだんだん「なので」を使わない表現を考えるようになってきます。話し手としてのレベルが上がって、聞き手の状況にも配慮できるように、そして自分の表現を細かく考えるようになるのだろうと思います。

なので、この「なので」接続詞にちょっと注目していただければと思います。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)