ことばウラ・オモテ

鼻濁音は消えるのか

放送のことばについての質問を受けていると、その中に外部からのNHKに対する注文や意見もあります。

アナウンサーのことばづかいから、服装についての忠告やメーキャップなど、さまざまな問題が持ち込まれます。

東北地方の方から、テープ同封で「アナウンサーの中に鼻濁音ができない人がいる。即刻首にしろ。」という事例がありました。

「鼻濁音」ときいてすぐに分かる人は、かなり音声言語にくわしい方でしょう。日本語の「ガ行」は音としては実は2つの音を指しています。「わたしは映画が好きです。」と書いた場合、発音は「ワタシワエーガガスキデス」となり「は」は「わ」と読むのと同じように「が」も「が」と書いて濁音の「ガ」と鼻にかかった「ンガ」という音があります。

大まかに言って、語頭の「が」は濁音ですが、語中の「が」や、助詞の「が」は鼻濁音になります。

苦情を寄せられた方は東北在住の方でしたが、中国地方、九州地方などでは、この鼻濁音で発音する習慣が無く、余り問題にされません。

放送では共通語を使いますから、鼻濁音の発音は欠かせないと言えます。

ところが、最近若い人を中心に東日本でも鼻濁音がなくなりつつあります。演歌ではきれいな鼻濁音を使っていますが、ニューミュージックといわれ始めた頃から濁音化が歌の世界でも広がっています。『津軽海峡冬景色』は「ツガルカイキョーフユゲシキ」で「が、げ」は鼻濁音になります。

荒井由美の『卒業写真』は「ソツギョーシャシン」で「ギョ」は濁音で歌われています。

若い人の中に鼻濁音ができない層が増えていることの一つの理由として、区別を書き表わす方法が一般の表記にはないことがあげられます。(専門的には濁音は「ガ」、鼻濁音は「カ゜」として半濁点で表記します。)

「見た目で違いがないなら、発音は同じ」とする合理主義なのでしょうか?

この傾向は新人アナウンサーにも見られ、入局当初に鼻濁音ができる人の割合は、年々低くなっています。

新人研修では、鼻濁音のほかにも無声化など専門的な発音を徹底させるのですが、教習方法はマンツーマンの教え方しかありませんでした。最近のパソコンの発達により、これまで特別な機械でなければできなかった音声分析が手軽にできるようになりました。用語班では、研修にも使える分析方法を研究し、濁音と鼻濁音の違いをある程度客観的に視覚上区別できるようにしました。

詳しくは『放送研究と調査』11月号に報告します。この方法で新人アナウンサーが任地でトレーニングをしてくれるようになればと考えています。

(メディア研究部・放送用語 柴田 実)