放送現場の疑問・視聴者の疑問

「肉汁」の読み

いわゆるグルメ番組や料理番組で「肉汁」のことを、「ニクジュー」と「ニクジル」の2通りの言い方をしているのを最近耳にします。放送での使い方はどうなっているのでしょうか。

放送では、なるべく伝統的な言い方である「ニクジュー」を使うようにしています。

解説

国語辞書で「肉汁」を引くと、「①牛肉などからしぼりとった液汁。肉漿。②鳥獣の肉を煮出した汁。スープ。③肉を焼くときにじみ出る汁。」(『広辞苑』岩波書店)、「①肉を煮出した汁。スープ。②肉から搾り取った汁。肉漿にくしょう」(『大辞林』三省堂)など、記述に微妙な違いがみられます。しかし、読み方については、どの辞書も主見出し語を「にくじゅう」として語釈をつけており、「ニクジル」「ニクシル」を主見出し語にしている辞書はありません。また、昭和18年に発行された『日本語アクセント辭典』(日本放送協會編)でも「ニクジュー 肉汁」と記載されており、「肉汁」については、「にくじゅう」を伝統的な読みとして放送でも使ってきました。しかし、同じ「肉」の付く「肉厚(にくあつ)」「肉色(にくいろ)」「肉太(にくぶと)」「肉細(にくぼそ)」など、ほかの語の重箱読みにも引きずられたのでしょうか、若い世代を中心に「肉汁」を「ニクジル」と読む例が目立ってきました。NHKが2000年11月に行った「ことばのゆれ調査」でも、「肉汁」を「ニクジル」と読むと答えた人が7割を超えました(71%)。このような調査結果を受けて、翌2001年2月に開いた放送用語委員会で審議した結果、「肉汁」の読みについて、これまで[ニクジュー]のみを認めていたものを、[1.ニクジュー 2.ニクジル]と決め、「ニクジル」についても認めることになりました。このように用語委員会の決定で、「第1――」「第2――」と示す場合、一般に放送では「第1――」の語形をまず推奨するものです。このため、放送の現場では、なるべく伝統的な「ニクジュー」という言い方・読み方をするようにしています。

(『日本語アクセント辞典』P672、『新用字用語辞典』P419参照)

(メディア研究部・放送用語 豊島 秀雄)