今回は「防災のコンテスト」を大特集!防災活動などに取り組む子どもや学生の“晴れ舞台”「ぼうさい甲子園」。小学生が身の周りの知られざる危険をマップにする「ぼうさい探検隊」。アドバイザーの助言で防災力がさらにアップする「防災教育チャレンジプラン」。コンテストには、子どもならではのユニークな視点や工夫が盛りだくさん。その取り組みから、BOSAIキッズ団と一緒に学んでいきましょう!!
今回の「BOSAIアクション」は、防災コンテスト特集!BOSAIキッズ団とともに、ユニークな防災の取り組みを見ていきます。
ナビゲーターは、“ヤモリン博士”こと、京都大学防災研究所の矢守克也さんです。
3つの「防災コンテスト」
ぼうさい探検隊
「ぼうさい探検隊」は、自分たちが住むまちを探検し、防災マップにまとめて発表する教育プログラム。小学生を対象としたコンクールを毎年実施しています。
防災教育チャレンジプラン
「防災教育チャレンジプラン」は、全国の学校や団体から「こういう活動にチャレンジしたい」という防災教育のプランを募集。選ばれた団体の活動を1年間にわたって支援します。防災の専門家などアドバイザーからのサポートを受けながらプランを進化させます。
ぼうさい甲子園
阪神・淡路大震災をきっかけにスタートしました。2023年度には77の学校と団体が参加。防災の取り組みを評価して、グランプリなどの賞が贈られます。
ユニークな取り組みから防災アイデアを探せ
「巾着に愛を込めて」 岩手県大槌町立吉里吉里中
東日本大震災で大きな津波の被害を受けた岩手県大槌町の吉里吉里(きりきり)地区。震災後、高さ12.8メートルの防潮堤が新たに造られました。
2023年度の「ぼうさい甲子園」では、大槌町立吉里吉里中学校の皆さんの取り組みがグランプリを受賞しました。
グランプリを受賞した3人、佐野未侑さんと倉本麗さん、卒業生の関谷璃美さんです。手元には今回の取り組みのアイテムの「巾着」が。
巾着の中には、アメやキャラメルが入っています。“愛”とは、甘いお菓子のこと!
「これはお年寄りが巾着を避難場所に持っていって子どもたちにお菓子を配る活動です!」
まず中学生たちが、お菓子=愛をたっぷり詰めた巾着を手作り!
それを地域の高齢者の皆さんに配っておきます。
災害が起きたとき、高齢者の皆さんに巾着を持参して避難所に逃げてもらえるよう、日頃から中学生たちがお願いしておきます。
避難所では、この巾着のお菓子を、災害におびえる小さな子どもに配ってほしい、ということなのです。
つまり、高齢者が、お菓子を配るという役割を持つことで『積極的な避難』につなげる。
そして、お菓子を受け取った子どもたちの不安やストレスをやわらげようという狙いです。
「お孫さんとかと同じ年代の子にお菓子を配ったほうが、高齢者の方はうれしいかなと思って」
アイデアのきっかけは13年前の東日本大震災。この地区で、津波で亡くなった方・行方不明の方の95人のうち、およそ7割が高齢者だったことでした。
「どうして高齢の方が逃げなかったのか。当時を知っている人に聞いてみると、中には避難を呼びかけられたけれども『自分は高齢者だから逃げなくていい』と考えた人もいたそうです」(ぼうさい甲子園での表彰式から)
避難を促すために役立てたいと、2023年の夏休み、ポケットに入るサイズの巾着を50個縫い上げて配りました。
巾着を受け取ったひとり・芳賀さんは、去年の地域合同の避難訓練で、中学生が願ったとおり、お菓子を配ったそうです。
「(この取り組みは)すごくいいと思いました。あたたかい気持ちになった。我々の命を守ってくれる巾着かなと」(芳賀さん)
「巾着を地域の人に配ったときにありがとうって言ってくれたことがうれしい」(生徒・倉本さん)
「ハッピー&セーフティ」。ユニークな発想から生まれた、新たな防災活動となりました。
「お年寄りの特徴を子どもたちがよく見抜いた、すごいアイデア。自分の特技や地域の特徴を生かすことが大事なんじゃないかと思いました」(ヤモリン博士)
他のコンテストにも、ユニークな防災の取り組みがあります。
出張ふれあいルーム 災害時を想定した車中泊プロジェクト(プチ家出の練習) 和歌山県上富田町
2023年度の「防災教育チャレンジプラン」で防災教育優秀賞を受賞しました。
「災害のときは、避難所や避難場所以外に、車の中で『車中泊』をする場合があります。その練習、訓練をするチャレンジです。
エコノミークラス症候群が心配な高齢者などが気をつけなければいけないことを、日頃から体験して練習しておこうという取り組みです」(ヤモリン博士)
災害モンスターで防災力アップ! 千葉県柏市
2024年度の「防災教育チャレンジプラン」に選ばれました。
「災害モンスター」は災害のリスクをキャラクター化しています。
例えば、「ガシャーン」というモンスター。地震や台風などで物が飛ばされてきて窓ガラスが割れてしまう危険を表しています。
キャラクターカードに「ATK」と書かれているのは、「アタック=攻撃」という意味。「DEF」は、「ディフェンス=防御方法」です。
「ガラスを割るという恐ろしい攻撃を仕掛けてくるキャラクターも、『カーテンバリアー=カーテンを閉じておく』、『守護のスリッパ=スリッパを準備』をしておけば、万一ガラスが割れても、ケガしにくいということです」(ヤモリン博士)
このように、いろんなキャラクターを通して防災のことを学んでもらうのが目的です。
「災害モンスターは、防災とキャラクターデザインを掛け合わせた取り組みです。
同じように、防災と何かをかけ合わせると、BOSAIアクションのいいアイデアが浮かんできそうです。こんなことができるんじゃないかということを探してみましょう」(ヤモリン博士)
子どもと大人の連係プレー
高知県四万十町立興津小学校 「ぼうさい甲子園」2023年度大賞
今後、発生が予想される南海トラフ巨大地震。国の想定では、30メートルを超える津波により、この地域の平野部の多くが浸水するといわれています。
興津小学校の子どもたちが力を入れたのは、防災マップ作り。
専門家のアドバイスも受けながら毎年、子どもたちが訓練で見つけた課題などを書き加えて20年以上継続してきました。
例えば、「海の近くの保育園が津波で確実に浸かる」という課題。
これを地域の防災シンポジウムで子どもたちが発表したところ、大人たちも賛同。この課題が行政にも伝わったことで、実際にこの保育園は安全な高台の場所に移転されました。
2023年には、高齢者のために作ったマップが「ぼうさい甲子園」小学生部門で大賞を受賞しました。
タブレットを使った授業で作り上げたという『防災パワフルウォーキングマップ』です。
このマップの最大の特徴は“防災と健康”。
マップを見ながら災害に備えて事前に歩くことで、避難経路や避難場所、また危険個所がわかるだけではなく、体力づくりにも役立つというのです。
例えば…。
『津波から避難するためのタワーの階段は86段あります。私たちは1分2秒でのぼれました。皆さんは2分ピッタリでのぼってみてください』
ほかにもウォーキングに飽きないようにとクイズを書き込むなど、ユニークな視点や工夫が大きく評価されました。
「避難訓練への参加者が少なくなってきている課題があった。地域全体の高齢化が進んでいるからです。まず玄関まで出て、そこから高い場所まで行っていただく。そのためには体力づくりが必要。(高齢者は)子どもたちと歩くと楽しいという、新しい発見があったと聞いています」(元校長の坂本益英さん)
地域の大人や専門家も巻き込み、防災活動に取り組んできた興津小学校ですが、2024年3月で閉校となりました。
廃校になった校舎内には、子どもたちが作った防災マップなどを展示する「興津ぼうさいミュージアム」がつくられています。
「子どもたちには、遠くの学校に通うようになっても、地域との関わりを大切にしてほしい。
興津で学んだことには、大切なことがたくさんあると思います。自分自身が感じたことを大事にして、この学習に自信と誇りを持ってそれぞれの立場でがんばってほしい」(元校長・坂本さん)
「僕と同じくらいの小学生がマップ作っていて、クイズとかも入れて、工夫がされているのがいいって思いました」(BOSAIキッズ団・鈴木楽さん)
「大人じゃ思いつかないような考えが出てきて、それを言葉に表して、それが実際に役立っているっていうことがすごいなと思いました」(BOSAIキッズ団・鶴田陸撰ロコウアさん)
■「ぼうさい体験隊」の提言でまちが改善!
「ぼうさい探検隊」に集まった防災マップからは、実際のまちづくりに取り入れられた例が他にもあります。
福島県相馬市川原町児童センター
「通学路に崩れそうなブロック塀があって、危ない」という子どもたちの提言がもとになって、老朽化したブロック塀が行政の予算でフェンスに改修されました。
愛媛県愛南町立福浦小学校「風の子サポーターズ」
「地域に高齢者が多く、避難道に手すりがあったほうがいい」との提言がありました。そして、実際に手すりがつけられました。子どもたちの頑張りで住民の防災意識も上がって、4月17日の愛媛県での地震でもいち早く避難できたそうです。
「このアイデアはすごいなとか、この発見は素晴らしいとか、真似したい気づきを見つけましょう」(ヤモリン博士)
日頃の備えが地域の力に
石川県能登町立小木中学校
過去に「ぼうさい甲子園」で大賞を受賞した石川県能登町立小木中学校。能登町は能登半島地震で最大震度6強の揺れを観測しました。
小木中学校も避難所となりましたが、日頃の備えが地域の力となりました。
能登半島地震での被害を、教頭の柿本義浩さんに聞きました。
「学校の建物自体は、ガラスが数枚割れた程度。大津波警報も出たので、高台にある中学校に皆さん避難してこられた。体育館も各教室や廊下も含めて800人弱。生徒は31名いたが、全員無事でいてくれた。日頃からの意識は大きかったのではないか」
中学生が日頃行っていた防災への取り組みが、「大きな津波を想定し、高台まで急ぎながら、周囲の住民にも大声で避難を呼びかけて逃げる訓練」です。
こうして“地域の人とともに避難する防災”を考えてきました。
さらに、回覧板などで参加を呼びかけ、生徒と一緒に住民が避難経路を歩くという訓練が一体感を育んできました。
住民にいつでも防災を意識してもらおうと、地域の大学生と一緒に「防災の歌」も作りました。
小木中学校は、地域の防災力アップに貢献してきました。
その中で起きた元日の地震。生徒たちは避難所で自発的に行動したといいます。
「避難所にいる方は皆さん顔見知り。その避難所に届く物資の受け取りや整理、配布するっていう手伝いをしていた生徒もたくさんいる」(柿本さん)
今年3月の卒業式。ふるさとのためにと行動した生徒たちに思いがけないサプライズがありました。
「避難所になっていた体育館を、避難していた人たちが快く半分開けてくれて、卒業式を行いました。また避難した方から、メッセージの寄せ書きや横断幕を作ってもらって、卒業生を勇気づけてくれました」(教頭・柿本さん)
式には地域のたくさんの人たちも参加しました。
「一生のうちでナンバーワンに近い卒業式だったと思います」(教頭・柿本さん)
避難所で小木中学校の生徒たちは、仕切りの設置を行ったほか、子どもたちから「勉強などをする部屋が欲しい」という声が上がって、「子ども本部室」という部屋もつくったそうです。
■小木中学校卒業生のインタビュー
実際に避難所で中心となって行動した小木中学校の卒業生で、現在は能登高校の2年生、南山玄英さん、灰谷悠翔さんに話を聞きました。
二人は、避難していた人たちを笑顔にしたいと、避難所の間仕切りに絵を描きました。
「避難所の仕切りの設置は毎年1回の町内合同の避難訓練で練習していたので、実際に今回の地震でも役に立ちました」(灰谷さん)
描いたのは、能登町の「イカキング」などのキャラクター。
「なごむ感じの面白い絵を描きました」(南山さん)
「卒業してからも、ふるさとや中学校のことを思うその気持ちが、防災の基礎として大事だと思いました」(ヤモリン博士)
■まとめ
子どもたちの防災の取り組みを見たBOSAIキッズ団たち。この日、学んだことを発表しました。
鈴木夢さん
「地域の交流で、今まで積み上げてきた対策の良さを生かしながら、備えを進化させていくのがすごい。私も勉強になりました」
鈴木楽さん
「地震や災害が起きて不安な気持ちを楽しくする工夫がちゃんとされているのがわかりました」
鶴田陸撰ロコウアさん
「災害が起きた後に、地域の人々にかかるストレスを少しでも減らす活動ができたらいいなと思いました」
BOSAIキッズ団の言葉を聞いて、ヤモリン博士はこうまとめます。
「すべてとても深く学んでくれたと思える言葉ばかりでした。防災は、しっかり守る、防ぐことも大事だし、起こってしまったときには、少しでも早く戻れるようにお手伝いをすることも大事だと気づいてくれました。これからも子どもが大人の力を引き出しつつ、連携プレーで、防災も、元気になっていくお手伝いも、一緒に頑張っていきたいと感じました」
この記事は、明日をまもるナビ「チャレンジ!BOSAIアクション 第7弾」(2024年5月5日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。