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山口の自然 ミサゴ羽ばたく青海島 海上アルプスの四季 日本海では珍しい海の生物も

  • 2024年04月26日

山口県長門市、日本海の沖に浮かぶ青海島。北側には、波と風が侵食することによってできた独特の地形が続き、「海上アルプス」とも呼ばれています。一方、穏やかな海が広がる島の南側では古くから漁業が盛んで、およそ1000人ほどが暮らしています。仙崎湾を挟んで青海大橋で結ばれているため陸路で行くことができ、観光スポットとしても人気です。北と南で違った顔を持ち、人の暮らしのすぐ近くに豊かな自然が広がる青海島で今回カメラが捉えたのは、島に生息する野生動物たち。自然の恵みを受けて命をはぐくむ生き物たちの四季を追いました。

日本海に浮かぶ 「海上アルプス」

山口県長門市の北部、日本海に浮かぶ青海島。周囲およそ40キロメートルで、島の北側には、切り立った崖や荒々しい岩場といった複雑な地形が16キロメートルに渡って続いています。長い年月をかけて日本海の荒波と風に侵食されることによってできたその景観は「海上アルプス」とも呼ばれています。

特技はホバリング! ミサゴの子育て

ミサゴ

この海上アルプスの地形を生かして子育てをしているのが、タカの仲間ミサゴです。全長60センチメートルほどですが、翼を広げると、翼の端から端までは大きなものでは170センチメートルほどにもなります。青海島は県内有数の生息地で、およそ50羽のミサゴがいます。

ミサゴはふだんは1羽で過ごしていますが、春に繁殖の時期を迎えると、夏にかけて子育ての季節を夫婦で過ごします。巣を作るのは切り立った崖の上。陸から離れた岩が点在する北側の島の形は、卵やヒナを狙うイタチやヘビなどがやってくる心配がないため、子育てに最適なのです。

空中で静止するミサゴ

この時期は雄が狩りを担います。ミサゴの得意技が「ホバリング」です。空中の1点に静止して水中の獲物を探し、狙いを定めると一直線に急降下します。そのスピードは時速130キロメートルにもなると言われています。捕った魚はまず雌へ。雌は生まれてくるヒナのため、巣で体力を蓄えます。

減少する青海島のミサゴ

じつはミサゴは、環境省と山口県の準絶滅危惧種に指定されている鳥です。日本野鳥の会山口県支部の三谷栄治さんによると、こうして夫婦で協力しながら卵を守っても、すべてが無事にふ化できるわけではなく、青海島でも数が減ってきているとのこと。我々が撮影を始めた2023年は、6~7月にかけて記録的な大雨が島を襲いました。こうした天候も、ふ化を妨げる要因になると三谷さんは言います。

日本野鳥の会 山口県支部 三谷栄治さん

日本野鳥の会 山口県支部 三谷栄治さん
(観察を続けていたミサゴは)大雨までは卵を裏返したりして座って抱卵していました。あれだけの大雨がダーっと体から全部伝わって卵を冷やして、それで恐らく冷えたことによってふ化しなくて諦めたんじゃないかね。ふ化は思ったようにならないことがほとんどです。それだけが必ず理由とは限らないけど、いろんな理由で青海島のミサゴは減ってきています。

親鳥の愛情受け 巣立ちへ

ミサゴのヒナ

大雨を乗り越えて卵からかえった2羽のヒナをカメラで捕らえることができました。生後1か月ほどで親鳥と同じ大きさにまで成長します。

親鳥(左)とヒナ(右)

自分で魚をちぎって食べることはまだできないため、父親が一口ずつ子どもたちへ与えます。

親鳥の愛情をいっしんに受ける子どもたち。9月には、巣立ちを迎えます。

冬の海に訪れた変化

青海島 北側の海には入り組んだ岩場が広がる

ミサゴが狩りをする青海島の海の中にも、複雑な地形が広がっています。入り組んだ岩場は魚たちにとって格好の隠れ家となり、天敵から身を守ってくれます。海藻の森や砂地の海底も点在し、多くの命を育んでいます。

ソラスズメダイ

近年、この青海島の冬の海で、珍しい魚が見られるようになりました。その一つがソラスズメダイです。

南の海から海流にのって日本海までやってくるソラスズメダイは、もともと冬を越せずに死んでしまっていました。これを「死滅回遊」と言います。ところがここ数年、青海島の海での繁殖が頻繁に確認されるようになり、数も増えてきているそうです。ここ数年のことだといいます。

アカホシカクレエビ おなかには卵が

同じく南の海から来た、体のほとんどが透明なアカホシカクレエビも、2023年に初めて青海島での繁殖が確認されました。

青海島に潜って25年のガイドダイバー 笹川勉さん

青海島に潜って25年のガイドダイバー 笹川勉さん
日本海側って北方系の生物が多くて、青海島の海も、もともとはそういう海だったんですけど、だんだん南方系の生物が増えてきたり、両方の生物が見られたりします。だから生物層としては日本海の中ではおそらくいちばん色んな生物が集まるんじゃないですかね。

海の中の“ブサカワ”アイドル

紫津浦

複雑な地形が広がる日本海側とはうってかわって、南側には穏やかな海が広がります。その中でも特に穏やかなのが、ここ紫津浦(しつうら)です。1年を通して、サバやタイなどの養殖が行われています。ここは奥まっているため大型の回遊魚が入ってきづらく、小さな魚にとって安心して過ごせる場所です。深いところでおよそ20メートルです。

ダイバーたちのアイドル クサウオ

この紫津浦に、冬の時期にだけ現れる“アイドル”が、クサウオです。ずんぐりとした姿が「キモカワイイ」と、ダイバーに人気です。体長はおよそ50センチメートル。まだ謎の多い魚ですが、ふだんは深さ100メートルほどの海底で暮らしていて、冬にだけ繁殖のため紫津浦へやってきます。移動してくる距離は、数十キロ以上とも言われています。

網に産み付けられた卵を守るクサウオ

古い網のそばに卵が産み付けられていました。卵の数はおよそ数万個。波に流されないよう、網にからめて産み付けられています。卵を守るのはオスの役目です。卵に向かってひらひらとヒレを動かし、周りの海水を絶えず循環させています。

カメラにも臆せず突進するクサウオ

卵を狙う天敵や、繁殖場所を狙う別のオス…撮影するカメラにも、近づくものには容赦なく突進。卵がかえるまでの2週間、必死で卵を守り続けます。穏やかで、海底にこうした産卵場所もある紫津浦は、クサウオにとって貴重な環境なんです。

  • 藤本珠美

    NHK山口放送局 ディレクター

    藤本珠美

    リポーターからディレクターに転身。2022年入局。
    休日はホルンを吹いています。

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