山口　画家・香月泰男 没後５０年～ふるさと・家族への思い～

 

　　　　　  日本を代表する洋画家の１人、香月泰男。代表作は、自身の過酷な抑留生活を
　　　　　  描いた「シベリア・シリーズ」。６２歳で亡くなるまで作品を描き続けました。

　　　　　　　　「シベリア・シリーズ」の１つ、「涅槃」（ねはん）です。
　　　　　　　　　黒を基調に描かれた作品は見る人に強い印象を与えました。

　　　　　香月泰男美術館では３月８日から、没後５０年にあわせた企画展が始まりました。
　　　　　展示されているのは、香月が画家として活躍した初期に描いた作品およそ５０点。
　　　　　暗い絵のイメージとは異なり、明るく色鮮やかな絵が並んでいます。

 

　　　　　　次男の香月理樹（かづき・みちき）さん７５歳。
　　　　　　ふるさとが好きだった父の姿が、忘れられないと言います。

　　　　　　長門市三隅で生まれた香月泰男。画家をめざして東京美術学校に進学後も、
　　　　　　ふるさとの風景や身近なものをモチーフに作品を描き続けました。

　　　　　《兎》は、下関市で美術教師をしていた時、学校のうさぎ小屋を描いた作品です。
　　　　　色の濃淡と線の方向だけで遠近感を表現し、おりの直線に対してうさぎの曲線を、
　　　　　強調したことが評価され、当時の文部省の展覧会で特選に選ばれました。

しかし、画家としてこれからという時、太平洋戦争で旧満州に出征します。

　　　　　　敗戦後、待ち受けていたのは、シベリアでの厳しい抑留生活でした。
　　　　　　マイナス３０度のなか、まともな食事も与えられず、強制労働に従事させられました。
　　　　　　この経験から、ふるさとへの思いが強くなり、後の作品に大きな影響を与えます。

　　　　　 ２年間の抑留後、日本に戻ってきた香月。ふるさとですぐに作品の制作を再開します。

　　　　　　１９５０年代の中頃まで、食材を多く描いていた香月。
　　　　　　あまりにも多く描くので「厨房の画家」という異名をとっていました。
　　　　　　シベリアで厳しい抑留生活を経験した香月だからこそ、何気ない日常を表現しました。

　　　　　　《会話》というタイトルの作品。自宅で飼っていた犬とカタツムリが
　　　　　　　見つめあう様子からは、香月のユーモアと温かな視点が感じられます。

　　　　　　香月は、自分の思いを児童たちに伝えたいと、母校の校舎に壁画を残しています。
　　　　　　小さな子どもを抱えて見つめる夫婦、自然豊かな場所で暮らす家族の絵には、
　　　　　　「なにげない日常を大切にしてほしい」という思いが刻まれていて、
　　　　　　没後５０年となった今も、その思いは児童たちに引き継がれています。

　　　　　　家族を愛し、何気ない温かな日常を大切にしてきた画家・香月泰男。
　　　　　　残された作品には、ふるさとや家族への思いが込められています。