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被災地で特産のキウイ復活を!

春から農家~若者の挑戦~
  • 2024年04月11日

被災地で特産のキウイ復活を!
春から農家~若者の挑戦~


東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から13年。福島第一原発が立地する福島県大熊町では町の一部で避難指示が解除され復興が進んでいます。この春、和歌山大学を卒業した、原口拓也さん(23)は大熊町に移り住み、農家として一歩を踏み出しました。農業を通して復興の力になりたいと挑戦する原口さんを昨年秋からことし3月にかけ取材しました。             (和歌山放送局 報道カメラマン 柏瀬利之)
 

《被災地で農家に挑戦》

 

キウイの苗木を植える原口さん(取材時 和歌山大学4年生)

和歌山大学4年(取材時)の原口拓也さん。2月25日、まだ寒さが残る福島県大熊町の畑に原口さんの姿がありました。植えているのは“かつて大熊町の特産品”だった「キウイ」の苗木です。およそ600本のキウイの苗木を東京の大学に通う阿部翔太郎さんと2人で植えています。
東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、大熊町でキウイを栽培する“最初の農家”になります。

原口さん

「本当においしいキウイが実るように願いながら、1本1本植えています。」

《夢は農家・原点は和歌山》

和歌山大学でシステム工学を学んでいた原口さん。大学2年生の時、コロナ禍で授業が休講になると“みかんの収穫のアルバイト”をしていました。みかんの収穫を経験したことがきっかっけで「農家になりたい」という思いが芽生えたそうです。

有田川町のみかん農家のみなさんと原口さん(写真中央)

原口さんは大学4年生の時に1年間休学。和歌山を代表する“みかんの産地である有田川町”の農家でみかんの栽培や販売の方法などを学び、農家になるための実践的な経験を積みました。このとき味わった“収穫後の喜び”が農家になることの原点となりました。

原口さん

「急な斜面で肥料をまいたり、草を刈ったりして苦労しましたが、収穫したみかんのおいしさと食べた人が笑顔になってくれたことに感動しました。こうした感動を多くの人に届けたいと強く感じたので、農家になりたいと思いました。」

《特産のキウイを復活させたい》

福島県大熊町

原口さんは農家になるための勉強や経験を積むかたわら、どこで就農しようかと全国各地の農園巡りもしていました。そして3年前、知人から紹介された大熊町の農園を訪れました。大熊町を訪れたのはこのときが初めてでした。

東京電力福島第一原発が立地する大熊町は原発事故で一時、町の全域が避難区域に指定され、すべての町民が避難しました。梨やキウイなど果樹の生産が盛んだった大熊町ですが、原口さんは特産品のひとつだったキウイの栽培が途絶えてしまっていることを知りました。

キウイ農家の関口元樹さんと原口さん

自分にできることはないかと考えていた時に出会ったのが、大熊町で100年以上果樹農園を営んできた、5代目の関本元樹さん(23)でした。原発事故でふるさとを離れるしかなかった関本さんは悔しい思いを抱えながら、いまは避難先の千葉県でキウイを栽培しています。

関本さんからキウイは、町の人たちにとって大切なふるさとの味であったこと。そして代々受け継がれてきたキウイを避難してでも守り続けたいという熱い思いを聞き、原口さんは大熊町でキウイを栽培する農家になることを決心しました。

原口さん

「もし和歌山で“みかん”の栽培ができないようなことになったとしたら、どうなってしまうのかと考えてしまいました。人ごととは思えませんでした。これはもう、なんとかしたいと思いました。」

《乗り越えなければならない課題》

大学卒業までの1年間、原口さんは休みのたびに夜行バスに乗って和歌山と大熊町を10時間以上かけて往復して農家になるための準備を進めました。畑に水をまくために使う水路は長年使用されていなかったため大量の泥や落ち葉がたまっていました。仲間と一緒に水路が使えるように手作業での作業を続けました。

キウイ栽培に適した土壌の改良に取り組む日々

さらに、畑は除染によって栄養分のある土が剥ぎ取られてしまっていたため、土壌の改良も進めなければなりませんでした。先輩農家の関本さんや専門家からアドバイスをもらい、キウイの栽培に適した肥料を探し求め、試行錯誤しながら土壌の改良に取り組みました。

原口さん

「乗り越えなければならない壁はいっぱいあると思います。特産品を復活させてほしいという町の人の思いもあるので、頑張りたいと思います。」

《地元の人の期待を胸に》

大学卒業を控えた3月9日、原口さんは地元の人たちに農家としてスタートすることを宣言するイベントを大熊町で開きました。

農家としてスタートすることを宣言する原口さん

「キウイを通じて、みなさんに笑顔になってもらえるように、これからキウイの栽培を進めていこうと思います。」

会場には原口さんを応援しようとおよそ50人が集まりました。そこにはキウイ栽培の魅力を教えてくれた先輩農家の関本元樹さんの姿もありました。関本さんから原口さんに熱いエールが送られました。

原口さんへの思いを語る関本さん

「途切れてしまった町の大切な産業を取り戻そうと、移住してきた若い人たちが動き出したことは価値のあることです。町民として原口さんの取り組みに感謝しています。原口さんのキウイで町を彩ってほしいです。」

絵馬には原口さんたちへの期待があふれる

駆けつけた地元の人たちが絵馬に書いたメッセージは“ふるさとの味の復活”、大熊町の復興に向けた願いが込められていました。

原口さん

「おいしいキウイを作って町のみなさんに食べていただきたい。そしてこの町を果樹であふれる町したいと思います。それに向かってひたすらキウイ栽培と向き合っていこうと思っています。」

キウイで町を笑顔にしたい。小さなキウイの苗木は原口さんの大きな夢への最初の一歩です。


【取材後記】
満開の桜が咲き誇る大熊町で、いま原口さんは仲間や地域の人たち、行政からの支援を受けながら、新人農家として一歩を踏み出しました。この冬に植えた小さな苗木は、2年後の秋に実りを迎える予定です。全身泥だらけになりながらキウイの苗木に向き合う原口さんの「農家としてやっていくことに不安はありません」と力強く話す姿が印象的でした。若い人たちの挑戦が、いま大熊町の復興の新たな原動力として期待されています。これからも、和歌山から被災地に思いを寄せる人たちや原口さんのように復興に向けて行動する人たちを取材したいと思います。

  • 柏瀬利之

    和歌山放送局・報道カメラマン

    柏瀬利之

    福島局、東京・報道局を経て昨年から和歌山局で勤務

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