能登半島地震の教訓 南海トラフで避難所孤立 どう行動する?
- 2024年03月07日
能登半島地震の被災地では、今も多くの人が避難生活を余儀なくされています。自治体の支援が行き届かない避難所では、当初、被災した住民みずから食糧の準備や衛生環境の整備をしなければならない状況が続きました。
孤立した避難所で住民はどう行動すべきなのか。能登半島地震を受けていち早く対策を始めたのは、南海トラフ巨大地震で被害が想定されている徳島県阿南市でした。
3月8日(金)夜7:30放送のあわとくのテーマは防災。
1月に発生した能登半島地震を受け、徳島県内で巨大地震への対策の見直しが始まるなか、番組では専門家を招き「避難所の運営」「建物の耐震化」という課題を考えていきます。
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能登半島地震で課題となった避難所の「孤立化」
災害時、各自治体は地域の人たちが一定期間避難できるよう、学校などに「指定避難所」を設置します。
しかし、能登半島地震では、道路が寸断されるなどして避難が難しかったり、避難所が混雑して入れなかったりして、地域の人たちがみずから「自主避難所」を設けて運営するケースがありました。こうした避難所は、開設された避難所の一時、半数以上に。発災後しばらくは自治体の職員が派遣されず、自治体が設置場所を把握するまでに時間がかかるうえ、食料品や飲料水などの支援物資が一切届かなかったり、衛生状態が極端に悪化して新型コロナなどの感染症がまん延したりしました。
南海トラフ巨大地震に備え、動き出す阿南市
南海トラフ巨大地震が発生した場合、阿南市では最大8メートルの津波が想定される地域もあり、最悪の場合、人口約7万人の6割以上を占めるおよそ4万5000人が避難する可能性があると見込まれています。
能登半島地震から1か月が過ぎた2月、阿南市は大規模な災害が発生した際に住民が避難所を運営する「避難所運営訓練」を初めて行い、300人以上が参加しました。訓練が行われた新野町は内陸部にあり、津波は到達しないとされています。しかし、沿岸部からの避難者を受け入れる可能性があり、住民による運営がよりいっそう求められます。
避難所の運営って?
阿南市が指定する避難所は実におよそ140か所。避難所の開設は基本的に市の職員が行いますが、大規模災害の場合は手が回らず、住民が運営しなければならないかもしれません。何をすればいいのでしょうか。
例えば、阿南市の「避難所運営マニュアル」では、開設時の業務として12項目を挙げています。
① 避難所施設の解錠・点検
② 避難所準備組織の立ち上げ
③ 避難スペースの確保
④ 居住区の編成
⑤ 避難者名簿の作成
⑥ ペットの登録、飼育場所設置
⑦ 負傷者、要配慮者への対応
⑧ 設備、備蓄品の確認
⑨ 災害対策本部への連絡
⑩ 避難所設置の広報
⑪ 避難所生活ルールの掲示
⑫ 本格的な避難所運営本部の設置・避難所運営の中心人物を選出
ほかにも、「避難所内外の情報収集」「食料・物資の調達」「医療活動の支援」などもあり、役割分担が重要になります。
実際にやってみると・・・
訓練の参加者は、南海トラフ巨大地震が起きて2日目を想定して、避難所を運営していくための模擬会議を体験しました。停電や断水で自治体などの支援が望めない中、参加者は「物資調達」「保健・衛生」「防犯」などの役割を分担し、課題や対応策を挙げていきました。「暖房器具がなく燃料も少ない。」「炊き出しに使うガスボンベが1つしか確保できていない。」「暖を取るためのたき火ができれば寒さをしのぐのに効果的ではないか。」参加者は、次々に起こる問題をみずから解決していかなければならないことを実感した様子でした。
避難者の声をもとに困っていることをその時点で対策していくことはいいことだなと思った。
いろんな要望があると思うのでどこまで応えられるかというのもある。
訓練を見るだけでも、いろんな人が見ておくべきだと思う。
参加した地元看護師の思い
訓練に参加した、看護師の池田奈津美さんは76歳の母親・林千代美さんと2人で暮らしています。高齢化が進む地域では、自分の世代が避難所運営の中心になっていくのではないかと思い、学ぼうと決断しました。池田さんは、避難所で高齢者や障害者など特別な配慮を必要とする避難者に寄り添った意見を出す「要配慮者支援班長」として意見を述べました。
昨夜は寒くて避難者の多くの人が眠れなかったようです。
特に高齢者の方が避難所の床に直に寝て、低体温症と床のほこりが原因で肺炎となり、避難者の多くの方が亡くなっているとの調査があるので、ブルーシートが確保できるのであれば床に敷きましょう。
室内テントは数が少ないので使用者を検討する必要がありますね。
テントはプライベート空間が確保できるほか断熱シートもついており簡易ベッドも設置できますがそれほど数がないので感染症対策を必要とし、寒さがこたえる要配慮者に使用していただくのが適切かと思います。
池田さんは被災者である住民が協力し合って避難所を運営していかなければ、避難所が機能しないと痛感しました。
避難してきた人の意見や生活の中で気が付いたことをもっと吸い上げていく必要があるのではないか。誰かの指示を待つのではなく、みずから動かないといけないと思った。
このほかの運営業務をみると・・・
この日の訓練で、池田さんたちは実際に住民が関わるさまざまな業務について手順を確認しました。
車中泊受け入れ訓練
多くの人が詰めかける避難所生活でストレスを感じたり、持病があるため周りに迷惑かけたくなかったりして、車中泊を希望する人が増えています。このため避難所は車中泊希望者を受け入れる可能性もあります。訓練では、車中泊を希望する人にエコノミークラス症候群の危険性を説明するなどして、一連の流れを確認しました。
ペット同行訓練
ペットを飼っている人とそうでない人が一緒に過ごすことになり、相互理解をどう進めるかも課題です。訓練では、ペットを受け入れるための流れを確認し、担当者は、ペットが動ける場所を限定するなど、状況にあわせて飼育ルールを決めることなどが重要だと説明していました。
医療救護所訓練
そして、池田さんが最も注目したのが、医師や看護師などが参加する「医療救護所訓練」でした。「医療救護所」では治療を受ける患者の優先順位を決めます。避難所のそばに設置されることもあるため、避難所を運営する住民も訓練の様子を見学しました。池田さんは地域住民の一員として、災害時に自身の経験を生かせる場を探すことも重要だと気づきました。
今回の訓練で池田さんたちは避難所でのさまざまな役割を体験。いざというときは誰かの指示を待つのではなく、みずから動くことが必要だと実感し、その行動が自分たちの命を守り、避難所で生き延びることにつながるのではないかと感じました。
避難所を確実に運営するにはこんなにもたくさん考えないといけないと実感した。訓練に参加するたびに新しい疑問も出て、参加しなければ分からないことがいっぱいあり、すごく勉強になった。自分を含めた高齢者は助けられるケースも多いが、高齢者も若い人もこういう訓練に参加し、いろいろ学んでほしい。
『誰かがやってくれる』って、みんなそう思ってるところもあるかもしれないけれど、災害が起きた時に、みんなが助け合いながら取り組んでいかないといけない。実際に起きた時に冷静に判断して動けるよう、今回の経験を生かしていきたい。
動き出す行政
阿南市は、今回の訓練を通じて課題を洗い出し、市や地域で検証していくことにしています。
避難所の運営は、やらなければいけないことが多く大変だが、大規模な災害時は住民でなんとかやってもらうしかない。おそらく市の職員も被災して、どれくらい集まることができるか不透明なので、最低限、住民みずからやっていくという意識を持っていただかないと、災害関連死のリスクも高まる。お年寄りも含めて、地域の人たちができることをやっていくために、こうした訓練を積み重ねていかないといけない。
「避難所の運営」専門家と考える
迫りくる南海トラフ巨大地震。
能登半島地震を教訓に避難所の運営をどうしていけば良いか、専門家を招き考えていきます。
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