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研究内容紹介

1.5 高臨場感音響

 SHVの22.2マルチチャンネル音響(22.2ch音響)の研究開発ならびに標準化を進めている。


SHV音響一体化放送システム

 22.2ch音響の番組を、2chや5.1chの番組と同時にかつ効率的に制作するための研究を進めている。
 2016年度より研究を進めている、22.2ch音声信号間のコヒーレンスに着目したダウンミックス音のエネルギースペクトル補正手法について、2017年度は性能向上を図り、番組制作を行う音声技術者を対象として主観評価実験を実施した(1)。表1-1に示すように、最も適切なダウンミックス音と評価されたのは抑圧処理・増幅処理ともに補正量が最大値の場合であり、提案手法による音質改善効果を実証した。
 また、2chステレオで収録された音声素材を22.2ch音響制作に活用するためのアップミックス技術について、適応フィルターを用いて2chステレオ信号の相互相関に応じて構成成分を分離し、22.2ch素材を生成する手法を開発した(2)


表1-1 抑圧および増幅処理における補正量の評価結果


SHV音響変換再生技術

 22.2ch音響を家庭で楽しむための再生技術の研究を進めている。2017年度はラインアレースピーカーを用いたトランスオーラル再生法について、系の摂動や外乱に対するロバスト性能を高める再生制御器の設計法を考案し(3)、シャープ(株)と共同で開発を進める信号処理装置に実装した。
 また、想定する再生環境の特性を含む頭部伝達関数を低次で精度よくモデリング可能な手法を提案し、本手法を用いて22.2ch音響をヘッドホンで再生するための信号処理装置を開発した。


三次元マルチチャンネル音響 標準音源

 2017年度に(一社)映像情報メディア学会より発刊された三次元マルチチャンネル音響標準音源Aシリーズについて、ARIBが実施した音源制作に寄与するとともに、評価項目や収録条件などをまとめた解説書を作成した。


音響デバイス

 2016年度に開発した22.2ch音響のワンポイントマイクロホンを技研公開2017で展示した。さらに、チャンネル間の分離性能を向上させる信号処理の検討を進めた。また、三次元マルチチャンネル音響標準音源の制作に寄与し、本マイクロホンを用いて管楽器・弦楽器による八重奏の演奏や遊園地の風景音などを収録した。
 薄型テレビ用のスピーカーや家庭用の22.2ch音響スピーカーへの応用を目的に、圧電性の電気音響変換フィルムを用いた薄型スピーカーを開発し、技研公開2017で展示した。なおこの研究は、富士フイルム(株)と協力して実施した。



図1-7 薄型スピーカー外観

次世代地上放送に向けた音声サービス

 次世代地上放送用の音声符号化方式を検討するため、MPEG-H 3D Audio LCプロファイル(4)を用いた22.2ch音響対応のリアルタイム符号化・復号装置を開発した。この研究は、フラウンホーファー集積回路研究所と協力して実施した。
 また、オブジェクトベース音響で使用するメタデータである音響定義モデル(ADM)をシリアル形式に変換する手法を考案し、シリアルADMへの変換装置と、音声信号インターフェースを用いたシリアルADMの伝送装置を試作した。


標準化

 ITU-Rでは、日米英共同提案に基づき、シリアルADMの新勧告草案を作成した。SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)では、AES3音声信号によるシリアルADM伝送方式の標準規格草案を作成した。また、ARIBでは次世代音声サービスの要求条件を検討するグループを設置して、作業を開始した。
 (一社)電子情報技術産業協会(JEITA)および国際電気標準会議(IEC)では、家庭内で22.2ch音響を再生するために、MPEG-4 AACの22.2ch音響信号を光インターフェースで伝送する規格の委員会投票原案を作成した。同様にCTA(Consumer Technology Association)によるHDMIでMPEG-4 AACの22.2ch音響信号を伝送するための規格改訂作業に参加した。
 JEITA、IECでは、マルチチャンネル音響システムの一般的なチャンネル割り当ての規格について、22.2ch音響に加え、さまざまなシステムのラベルを追記する改訂案の作成を継続した。
 AESでは、インターネットでストリーム配信されるテレビ番組のラウドネスの目標値について、各国の放送ルール(日本は-24LKFS)に従うことを原則とする技術ガイドラインの発行に寄与した(5)


 

〔参考文献〕
(1) 杉本,小森:“22.2ch音響のダウンミックスにおける音質補正手法の検討,” 映情学冬大,12C-5(2017)
(2) 佐々木,小野,西口:“ステレオから22.2ch音響へのアップミックスアルゴリズムの検討,” 映情学冬大,31B-3(2017)
(3) 松井,伊藤,森,井上,足立:“出力追従制御を応用したトランスオーラル再生制御器の緩和処理法,” 音響学会秋季講演論文集,1-P-31(2017)
(4) ISO/IEC 23008-3:2015/AMD3:2017(2017)
(5) “Loudness Guidelines for OTT and OVD Content,” Technical Document AESTD1006.1.17-10(2017)