NHKスペシャル

MEGAQUAKEⅡ 巨大地震 第1回 いま日本の地下で何が起きているのか

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地震研究先進国・日本を襲ったマグニチュード9.0。最先端の地震学者たちが築き上げてきた自信は、完全にうち砕かれた。しかし今、彼らは深い悔恨を抱きながらも、次の巨大地震に備える新たな挑戦を始めている。その手がかりは、世界でも類を見ない観測網が、捉えていた膨大なデータにある。解析が進むにつれ、巨大地震の知られざる発生メカニズムが浮かび上がりつつあるのだ。巨大地震発生の一ヶ月前から本震の震源に向かいながら起きていた無数の微小地震。そして3月11日、宮城沖で始まったM7クラスの地震は、発生から40秒後に予想外のプレート境界の破壊によって際限なく巨大化していった。番組では、東北沖のプレート境界で発生した地震が、次々と連動し広がっていった地中のドラマを詳細なデータに基づいてCGで完全再現する。さらに世界で進むGPSデータによる“次の巨大地震”の予測研究の最前線に密着。アメリカ、ニュージーランド、チリ、そして日本の南海トラフや北海道東部など、世界のプレート境界に潜む巨大地震のリスクに迫っていく。

放送を終えて

去年3月11日、東北沖のプレート境界で何が起きたのか?その映像化に挑んだ今回の番組の取材を始めたのは去年の夏。しかし、取材の道のりは平たんではありませんでした。日本中の科学者を訪ねましたが、地下の挙動について質問を深めていくと「わからない」という言葉に次々とぶつかったのです。科学者は皆、東北沖に巨大地震のリスクが潜んでいた事を予測できていなかったことを強く悔いていました。これまで以上に言葉を選び、「分からないことはあいまいにせず、分からないとはっきり言おう」と努めているように見えました。地下の動きについて「誰もが認める絶対の正解」がないことは明らかで、これは大変な取材になると痛切に感じました。
今回、地下世界を知るための重要なカギとなったのは、3.11に記録された膨大なデータでした。地震波形、津波の高さ、地殻変動など数千ものデータが記録されていました。科学者はこのデータを使ってシミュレーションを行い、地震の挙動を解き明かそうとしたのです。その結果、宮城県の沖合で始まった地震がマグニチュード9に拡大するプロセスが浮かび上がってきたのです。
番組制作の本当の難関はここからでした。シミュレーション結果をいかにわかりやすく紹介するか。地震巨大化のプロセスや揺れの伝搬など、地下の出来事は目にすることができない、つまり撮影できない事象ばかり。そこで視覚化にはCGの制作が欠かせませんでした。CGクリエイターと議論し、試写を繰り返し、地下世界の映像化に挑みました。しかし、同僚や上司からは「映像がわからない」と何度も言われ続けました。地下の質感、地震の表現方法、それを見る角度などについて、数多くの修正、試行錯誤を経て完成したのが放送されたCGです。最終的には、“わかりやすい”地下世界の映像に仕上がったのではと思っていますが、いかがだったでしょうか?
番組では、日本各地に今も巨大地震の脅威が潜んでいる可能性があることを伝えました。3.11を経た今だからこそ、この厳しい現実としっかり向き合って私たちは生きて行かなければならない。そして、防災意識を高め対策を進めていかなければならないと感じています。

ディレクター 植田和貴

今回、多くの地震研究者に取材して感じたことは、「地震のことを完全に分かることはないことを認識した上で、地震のリスクを受け止める」ことの大切さです。これまで社会は、地震研究に対して、防災につながる“予知”への強い期待を持ってきました。着実に進む研究と、この期待の相互作用の中で、いつのまにか科学が「確実に危険といえないこと」が、「起こらないこと」としてすりかわってきたのかもしれません。しかし、3.11の巨大地震からは、地震という現象がいかに複雑で、多様で、謎の多い現象かが改めて浮かび上がってきました。研究者たちは、口をそろえて「いかに地震のことを分かっていなかったか」が分かったと悔恨していました。
今回得られた膨大なデータから、科学が地震のメカニズムに一歩ずつ迫っていくことを期待したいと思います。一方で、私たち社会は、地震がまだまだ謎の多い現象であることを心にとどめた上で、謙虚に地震と向き合っていかないといけないのだと思います。その事に気づかされたことが最大の教訓だと思います。この番組が、地震のリスクと向き合うきっかけになれば幸いです。

ディレクター 木下義浩