NHKスペシャル

終戦60年関連企画 ドラマ「象列車がやってきた」

現代の名古屋・東山動物園にたたずむ、一人の女性ユリ(八千草薫)。今となっては戦争の傷跡など微塵(みじん)も残っていないきれいな動物園。子どもたちの楽しそうな声がこだまする象の檻(おり)の前で語り始める。
昭和12年、名古屋市の東山動物園に象がやってくる。園長の遠山薫(三浦友和)が、動物園の目玉にと呼び寄せたのだ。象はたちまち人気者になる。今は遠山の養女で、飼育員だった父が豹に殺され、動物に対して恐怖心を抱いていたユリ(池脇千鶴)も、瞬く間にその魅力の虜になった。
そして昭和17年。軍事色が強まり、東山動物園でも、象による戦意高揚ショーが日に数回行われ、女学生となったユリも裏方として手伝っていた。しかし日に日に、軍などからの要求は厳しくなり、遠山は園長として人知れずその対応に苦慮する。また、多くの飼育員が徴兵され、その補充で、奥山新之介(山本太郎)という若者がやってきた。彼は、喘息のため徴兵検査で丙種合格となり、自分は不必要な人間と卑下していたが、ユリや象たちとふれあううちに、そのコンプレックスが解消されていく。
敗色が濃くなり、一転して軍はどう猛な動物の処分を求める。必死で動物園を守ろうとする遠山に、軍や市からの圧力が強まる。そこに新之介に召集令状が届く。ユリは、新之介の召集を、軍の命令に背く遠山への無言の警告ととる。そしてすべては父の意固地のせいだと怒る。遠山は子どもには象が必要なのだと、象を守る決心を告げる。一方、新之介も遠山の思いをくみ取り、ユリに象を託して戦地に赴く。
それからが苦労の連続であったが、遠山やベテラン飼育員の善造(田中邦衛)が何とか象たちの飢えをしのぎ、終戦を迎えた。
人々は東山動物園に象が生きていることを知り驚喜する。そして全国の子どもたちを象に会わせようと、列車が仕立てられる。象を見て喜ぶ子どもたち。その輪の中に、復員してきた新之介がいた――。
現代の東山動物園。また今年の夏もユリは、象と子どもたちに会いにやってきた。

原作:小出隆司 「ぞうれっしゃがやってきた」
脚本:矢島正雄
音楽:渡辺俊幸
語り:八千草薫