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さよなら“歌う電車” 京急電鉄ドレミファインバータが引退

  • 2021年10月04日

10月14日は「鉄道の日」。この夏、惜しまれながら姿を消した電車があります。京急電鉄の「歌う電車」。7月に行われた記念列車の運行の様子や「この電車を語り継いでいきたい」というファンの思いを振り返ります。

歌う電車に多くのファンが集う

7月のある日の早朝。品川駅の京急電鉄のホームに多くの人が集まっていました。

京急 新1000型 1033編成 「歌う電車」

待っていたのは、機器の取り替えのためこの夏で一度、走り納めとなる「歌う電車」、京急新1000型の 1033編成です。この日は記念列車が運行されました。この車両は、東京の都心と羽田空港や三浦半島などを結び、駅を出発する際に「ファソラシドレミファ~」と楽器のような音を奏でるのが特徴で、「歌う電車」として親しまれてきました。

この日、取材した私は福岡育ち。初めて「歌う電車」のメロディを聞いたのは、就職して横浜に住み始めた2年前です。いったいどこから音が出ているのだろうと、ずっと不思議に思っていました。

どうして歌うの?

インバータ

歌っているのは、インバータという電車のモーターを制御する装置です。電車が加速したり、減速したりする際、インバータからは「磁励音」と呼ばれる雑音が出ます。この音をせめて心地いい音にしようと、メーカーが調整したのが「ファソラシドレミファ~」のメロディで、このメロディを奏でるインバータは「ドレミファインバータ」と呼ばれています。平成10年ごろに、インバータを取り替えた車両には、このドレミファインバータが取り付けられました。

しかし、技術の進歩でインバータの音は小さく、人に聞こえないように改良され、歌う電車はだんだん少なくなっていきました。

最後の歌を聴きたくて

記念列車には、およそ100倍の倍率の抽選などを勝ち抜いて乗車券を手に入れた、200人のファンたちが乗り込みました。乗車券を手に入れられなかった人たちも、せめて最後の姿を目に焼き付けようと、ホームに駆けつけました。発車するとあのメロディが。「ファソラシドレミファ~」。鮮やかな音色に思わず、拍手しそうになった私。しかし、あたりを見渡してすぐにその手を止めました。

乗客の皆さん、スマートフォンやボイスレコーダーなどを床に置いて、最後の歌声にじっと耳を澄ませていたのです。記念列車は横須賀市の車両工場まで走り、乗客たちはふだん入れない工場で、繰り返し歌声を聞いたり、写真を撮ったりして別れを惜しみました。

先頭に並んだ男性は

梅津大樹さん

ファンの人たちはどんな思いで、歌う電車の引退を受け止めているのか。後日、記念列車を先頭で待っていた横須賀市の会社員、梅津大樹さん(25)を訪ねました。京急電車が大好きな梅津さん。自宅には電車の模型や、走る様子を収めたDVD、さらにはイベントで購入した車掌マイクや、車内に取り付けられていた扇風機まで。

歌う電車が生まれたのは、梅津さんが2歳のときでした。子どものころは数も多く、最大で19編成あった歌う電車ですが、年を重ねて老朽化し、機器更新が進むにつれてしだいに姿を消していきました。

梅津さんは「自分と同世代で一緒に頑張ってきたという感覚があった」と話します。梅津さんにとっての歌う電車の魅力は、運転手によって奏でるメロディが絶妙に変わること。梅津さんが好きなのは、ゆっくり発進するときの音でした。

ゆっくり走り出すときに、1つ1つの音がはっきり聞き分けられるところが好きでした。これで 本当に最後なんだなと思うと、自然と涙が出てしまいました。僕みたいな電車好きだけではなく、沿線で暮らす人たちにも愛される電車だったので、こんな電車があったんだよということをこれから語り継いでいきたいです。

取材を振り返って

記念列車が走った2日後、歌う電車がラストランを迎えました。もともとは騒音対策のために始まった歌う電車。印象的だったのは、運行が始まった23年前に車掌として働いていた現役の京急職員が、「当時は単に新しいインバータが積まれた列車が走るというくらいで、特に“歌う”ということは意識していなかった」と話していたことです。利用客やファンが音に耳を研ぎ澄ませ、彼らのなかでその音が共有されていくにしたがって、いつしか「歌う電車」として親しまれるようになったのだと思います。鉄道の不思議な魅力を改めて感じる取材でした。

  • 豊嶋真太郎

    横浜放送局・記者

    豊嶋真太郎

    担当は事件事故取材。高校時代はディーゼル車の路線を使って通学していました。最近、蓄電池で動く電車に変わり、驚いています。

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