埼玉県春日部市を流れる一級河川の大落古利根川。かつては利根川の本流だった川です。春日部の人々に愛され続けてきた大落古利根川に沿って歩いてみると、春日部の新たな魅力に出会うことができました。
(さいたま放送局キャスター 武田涼花/首都圏局ディレクター 古田優季)
大落古利根川はじめ8本の一級河川が流れる春日部市。低地に位置するため、水害から町を守ろうと古くから頻繁に河川整備が行われてきました。
なかでも、首都圏外郭放水路は世界最大級の治水施設です。首都圏を環状に走る国道16号線の地下50mほどの場所にあり、長さ約6.3km、67万㎥の水を貯水できます。豪雨で川が氾濫しそうになったとき、大落古利根川をはじめとする川の水をこの施設に流し込んで江戸川へ放水することで水害を防いでいます。
この巨大な施設で、ほぼ毎日開催されている見学ツアーは連日満員! その神秘的な見た目から、“地下神殿”と呼ばれ、春日部の新たな観光名所にもなっています。
地下神殿を訪れた観光客を楽しませたいと、町で始まった取り組みがあります。
こちらは“神殿ハンバーグ”。首都圏外郭放水路の形に見えてきませんか? 春日部では、地下神殿にちなんだメニューを市内19の店舗が独自に開発して提供しています。
立体的なハンバーグは組み立てるのも一苦労。それでも、町に来た人たちを楽しませたいと改良に改良を重ねて完成させました。
首都圏外郭放水路に来た人たちが、こういう珍しい料理があるから一度食べてみたいなと思って、春日部の町も歩いてくれたらいいですよね。料理がおいしければ、みんなハッピーですから。
(洋食店店主 川口謙二郎さん)
大落古利根川沿いに肥沃な大地が広がる春日部は、古くから盛んに麦の生産が行われてきました。麦の茎を使って作られた麦わら帽子は春日部の伝統工芸品となりました。
麦わら帽子を量産している工場は年々減っていて、現在は全国に2軒しかありません。このうち1軒が春日部市に残っています。
いまは製造されていないという、こちらの帽子専用ミシン。廃業したほかの麦わら帽子工場から部品をもらうなどして、代々大切に使い続けてきました。
創業明治13年の麦わら帽子工場の6代目、田中優さんは、麦わら帽子をもっと多くの人にかぶってほしいと考え、SNSと連動したキャンペーンを行うなど精力的に活動しています。
麦わら帽子はおしゃれな人がかぶるアイテムと思われている方が多いんでが、もっともっとハードルを下げていきたいというのが私の目標です。夏に町でみんなが麦わら帽子をかぶっている光景を見るのが私の夢なんです。
(麦わら帽子工場の6代目・田中優さん)
毎年8月の中頃には、町の子どもたちが待ち望んでいるイベント“夕涼みフェスタ”が大落古利根川で開かれます。いまの子どもたちに昔のように川で遊ぶ楽しさを知ってほしいと、地元の商工会の青年部が9 年前から続けています。
子どもたちに人気なのがカヤック体験。町なかを流れる川をゆったりと進んでいきます。
住宅や自転車、道行く人々など普段の生活風景を見ながら漕ぐカヤックはとても新鮮でした。春日部でしか味わえない特別なひとときでした。
(武田涼花キャスター)
日が落ちると始まったのは、灯籠流しです。
「健康に過ごせますように」「推しと会えますように」「喧嘩をしませんように」
春日部の子どもたちの願い事を乗せて、大落古利根川は流れていきます。水とともに生きる豊かさを感じた1日でした。
春日部駅から5分ほど歩いたところに流れている大落古利根川。町の中心部を流れる大きな川は人々の憩いの場となっていて、いつも誰かが川を眺めていました。
「大落古利根川で毎年遊んだなという思い出が、子どもたちが大人になったとき、春日部の温かさを思い出すきっかけになるのではないでしょうかー」
取材のときに伺った、商工会青年部の会長の言葉が心に残っています。大落古利根川が、いまも町の人々から愛されていることを感じることができました。