能登半島地震では、土砂崩れなどで道路が寸断され、多くの集落が孤立状態になりました。
三方を海に囲まれた房総半島でも同様のリスクがあることが、県や自治体の調査で明らかに。
いつ来るかわからない大災害に必要な備えとは?詳しくお伝えします。
(千葉放送局記者・坂本譲)
(2024年5月2日に記事を更新しました)
千葉県南房総市の山あいにある大井地区。120世帯余りが暮らしています。
2019年の台風災害の際には集落に続く道路がふさがり、数日停電するとともに、携帯電話も通じないなどの影響が出ました。
地域の自主防災組織「かわせみ」の事務局長・芳賀裕さんです。当時、行政からの支援も遅れた経験などから、住民同士で話し合いながら必要な災害対策を進めてきました。
行政が機能しない、というのを前提にするのが最初の出発点です。
能登を見ているとやはり数ヶ月レベルでの復旧が遅れるだろうと。そうすると、やっぱり地域が自立してないとまず生き残れないと思っています。
停電に備えて、地域独自の避難先にソーラーパネルを設置したうえ、発電機も購入。災害時にも、できるだけふだんの生活ができるよう、洗濯機や冷蔵庫を備えています。
通信網が途絶えた場合を想定し、衛星通信の機器も導入。携帯トイレやガスボンベなども独自に備蓄しています。
一方で、食料の備蓄は多くありません。農村地域で米や野菜は各家庭に豊富にあるということで、体を温めるスープなど、最低限の備蓄をしているということです。
費用は市に申請して半額程度補助を受けており、残りは、自治会費や地区の役員の報酬の一部を充てているということです。
千葉県内では、地震や大雨による土砂災害、津波、液状化などで、どれほどの集落が孤立するおそれがあるのか。能登半島地震を受けて、千葉県は県内30市町村の958集落を対象に、2024年2月から1か月間、緊急調査を行いました。
その結果、調査対象の半数ほどにのぼる約500集落(速報値)で孤立のおそれがあることが分かりました。
2013年の国による同様の調査では34集落だったのが、急増する結果に。県は調査の対象の集落を増やしたことや、集落につながる道路の多くが土砂災害の危険性がある「土砂災害警戒区域」に指定されたことを理由に挙げています。
県は今後、数を確定させるとともに、地区ごとの備蓄の強化など対策の方針をまとめることにしています。
県南部の館山市では、孤立のおそれがある集落が山間部だけで36か所、沿岸部の漁業地域でも13か所あることが分かりました。
2013年の国の調査では、「ない」とされていた孤立のおそれのある集落。市の防災の担当者は、危機感を強めています。
ずいぶん増えたなという印象はあります。地震で道路のいたるところが寸断されるということも考えられます。
どのように対応し、対策を打つのか、考えなければいけません。
館山市では、2019年の台風でも、土砂崩れや倒木による停電など、住民の生活に大きな影響が出ました。道路が一部損傷することもあり、市ではこの経験を元に、物資を海からも運び込めるよう港周辺の整備を行ってきました。
水や食料、発電機といった備蓄も各地区で進めています。
しかし、市の備蓄は避難所がある地区などに限られ、今回孤立の可能性がわかった集落には、避難所などの施設がないところもあります。大災害で各地の道路が寸断すると速やかな支援が難しくなるため、市は地域での自助・共助を進めて欲しいとしています。
自助・共助で2~3日、長ければ1週間ほど対応していただきたいです。
道路を応急修理で補修して通していくというのは、同時に全方位で出来るわけではないのが現状です。
災害発生直後、生き延びてさえくれれば、市は手はずを整えて孤立地域の支援に向かい、最大限の支援を行いたいと思います。
2019年の台風災害の際に孤立した南房総市の大井地区。能登半島地震を受けて、今取り組んでいるのが水の確保です。
自主防災組織の事務局長、芳賀さんの各住宅の見回りに同行しました。地区内には、水をためる受水槽を設置している住宅もあります。
断水時にはポンプアップで家の中に運びます。これで大体1週間くらいもつかな。
アンケートでは、断水時に給水が必要な世帯を調査。在宅避難が難しい場合にも備え、避難所の受水槽も買い足しました。
大井地区では防災計画をたびたび更新していて、今回も能登半島地震を受けて、地域全体で見直しを行っています。
地域の課題を把握し共有しながら、住民同士で助け合う環境を作りあげています。
この地域だからこそあるものと、この地域にはないものを見極めていくことが大事です。
お互いに顔の見える関係があれば、助け合う関係性ができます。防災でも、それが問われているんだと思います。
専門家は、住民と自治体が地区の課題を共有し、その解決策を話し合うことが重要だと指摘しています。
千葉科学大学 危機管理学研究科 藤本一雄教授
集落ごとにどういった災害に対する弱点があるのかということを共有する、発見して共有するということがまずは重要だと思います。
公助でできること、自助・共助でないとできないことがあると思いますので、行政と住民がお互いに情報を共有し話し合いをきちんと行い、積み重ねていくことが大事じゃないかと思います。
今回、県の調査で孤立するおそれがある集落がある自治体を複数取材しましたが、その多くが館山市のように予算や管理などの面で課題があり、どのように対策を進めれば良いか頭を悩ませていました。
課題は地区によってさまざまで、それに応じた対策を個々に進めていく必要があります。そのためには、大井地区のような先進的な取り組みを参考にしながら、各地域で課題を見いだし、それを地区全体や行政と共有していく仕組みを作っていくことが求められていると感じました。
まずはその第一歩として、家族や友達、ご近所で、一度、課題について話し合う場を設けてみてはいかがでしょうか。
「首都圏ネットワーク」での放送内容は、5月8日(水)午後7時まで「NHKプラス」で配信しています。