9月8日の記録的大雨で千葉県では2300棟以上に浸水などの被害が出ました。それから3か月、広い範囲が浸水した茂原市で取材すると住宅復旧工事が多くの住宅で道半ばで、今でも不自由な生活を余儀なくされている人がいる状況が見えてきました。工事が進まない背景はなぜなのか、被災地の現状を取材しました。
(NHK千葉放送局 上原聡太)
「首都圏ネットワーク」での放送内容は、12月15日(金)まで「NHKプラス」でご覧いただけます。
千葉県茂原市は、東京の通勤圏にあり、8万6000人余りが暮らしています。9月の記録的な大雨で、川が氾濫するなどして、市の面積の10%ほどが浸水。住宅の被害は1700棟近くに上りました。
現在は、被災直後に道路沿いに山積みになっていた災害廃棄物はなくなり、営業を再開する飲食店も増え、街は一見すると元の生活を取り戻したかのようにみえます。
しかし、被災した住宅を取材していくと、不自由な生活をいまも余儀なくされている人たちがいることが分かってきました。
茂原市下永吉地区で妻と2人で暮らす青柳昌行さん(56)は、自宅が床上80センチまで浸水しました。はじめに案内されたのは、1階のキッチン。冷蔵庫や電子レンジなど電化製品も多くが壊れたうえ、床板や壁、それに壁の中にある断熱材が水を吸い、その後カビが生えてきたため、張り替えざるをえなくなりました。被災から1か月後、乾燥させるために床や壁を剥がしましたが、今もそのままの状態です。忙しい業者との打ち合わせが進まず、工事はまだ行われていないといいます。
生活の拠点は浸水を免れた2階へ。食器は洗うのは台所ではなく洗面台。料理をするのはコンロではなく棚の上においた電子調理器。手の込んだ料理はできないといいます。
妻の青柳順子さん
「排水口に野菜がすぐに詰まるので、大変だと実感しています」
夫の青柳昌行さん
「浸水後も掃除をすれば住めるとイメージしていましたが、現実は3か月がたってもこの状況で、心の負担も大きいです。外から見れば復旧したように見えても不便な生活をしている人は自分以外にもいると思います。水害から立ち直るのには非常に時間がかかることを知って欲しい」
補修工事にあたって、青柳さんが活用しようとしたのが「応急修理制度」。住宅が一定以上の被害を受けた場合、災害救助法に基づいて、最大で70万円余りの修理費用を国や県が補助する制度です。
ただ、茂原市によりますと、市内で応急修理制度に申請があった219件のうち、工事が終わったのは108件と半数にも達していません。青柳さん以外にも工事が終わっていない人がいる現状が見えてきました。
さらに、市役所の相談窓口には、いまも申請したいという市民が訪れています。12月4日、窓口に訪れた70代の夫婦は、り災証明書や被害を示す写真を提出して、申請を行っていました。
市内の70代の夫婦
「自宅が床上20センチまで浸水して、一瞬でたくさんのカビが出てきて、病気になったら困るので、床や壁を張り替えることにしました。ほとんどリフォームに近い形です。工事業者さんが忙しくて見積もりや打ち合わせに時間がかかったこともあり、申請がこの時期になりました。工事が終わるのは来年になりそうです」
応急修理制度の申請数は、11月29日からの1週間で8件増えていて、市では今後も増えると見ています。
なぜ、工事が進まないのか。複数の工務店を取材すると、さまざまな要因が挙げられました。
要因のひとつが、工事に対応できる職人が不足していることです。
ある工務店は、応急修理を5件依頼されたものの、これまで受けたのは1件のみでした。
この工務店には工事ができる職人が自分を含めて2人しかおらず、大雨の前から新築やリフォーム工事などをあわせて5件受注していました。
大雨被害を受けて臨時で人を雇おうにも、信頼できる職人を確保することは難しく、補修工事を受ける余力はほとんどないといいます。
市内の工務店の男性
「ある程度信用できる職人さんを集めるとなると、みんな忙しいので、なかなかつかまらない。20代から30代の職人と会うこともあまりないし、これからもっと少なくなると思います。もとからいただいている仕事を遅らせたり、後回しにすることも難しいので、急いで修理して欲しいという工事を依頼されると、どうしても難しいんです」
また、ほかにも複数の工務店を取材すると、被災住宅の補修工事は、通常のリフォームよりも工事費が低くなったり、保険や補助制度を活用するための手続きに時間と労力がかかったりすることもあり、積極的には工事を受けづらいという声も聞かれました。
千葉県は、4年前の台風被害を教訓に、建設業で作る団体(全国木造建設事業協会千葉県協会)と協定を結び、地元で修理業者が見つからない被災者などに対して、県内のほかの地域の業者も紹介できる体制を作っています。ただ、団体の事務局によりますと、今回の大雨では利用者が5人程度にとどまっているということです。住民からは「地元以外の業者に頼むのは不安だ」という声も聞かれ、専門家は地元以外の業者にも安心して頼めるよう情報提供を進めることが重要だと指摘しています。
災害時の住宅問題に詳しい 専修大学 佐藤慶一教授
「地元以外の業者に修理を依頼することについて不安を感じる人もいると思いますが、応急修理工事は日常生活に必要な範囲の第1段階の工事で、ある程度決まったやり方があります。大規模な災害時には、地元業者だけでは修理に時間がかかってしまうので、トイレやお風呂に被害が出たりカビが生えていたりと、生活に支障が出ていて早く修理したいときなどには、地元以外の業者にお願いしても大丈夫だということを情報提供していければいいと思います」