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コロナ禍の新人看護師、実習不足に不安 千葉・流山市

  • 2022年07月20日

この春から働き始めた新人看護師は学生時代の大半をコロナ禍で過ごし、例年に比べると病院実習など十分な学びを受けられないまま現場に立っています。看護現場はもともと理想と現実のギャップが大きく新人がつまづきやすいとされ、支援が課題になっていましたが、コロナ禍でその重要性はさらに高まっています。新人看護師に何が起きているのか、千葉県流山市の現場を取材しました。

(NHK千葉放送局 記者 荻原芽生/福田和郎)

新人看護師、経験不足に不安

病棟で働く千葉悠奈さん

千葉県流山市にある東葛病院では、この春から新人看護師20人が働き始めました。そのうちの1人千葉悠奈さんは、術後の患者などを受け入れる入院病棟に配属されました。今は先輩の指導を受けながら仕事をしています。

千葉悠奈さん

まだわからないことだらけですが、先輩に聞いてその日のうちに解決できるようにしています。

この日、千葉さんは初めて患者へのインシュリン注射を行いました。この時、注射の針を捨てる際に、誤って自分の手に刺さってしまうケースが多いことから必ず専用の箱を使って処理をするよう指導を受けていました。
思うように実習ができなかったこともあって、経験不足だと感じているということです。

注射針の処理のしかたを指導

また、外科病棟で働く別の新人看護師も同様に不安を口にしました。

新人看護師の鞠子真輝さん

実習に行くことができず、病気のことなどこれまで勉強してきことをなかなか実践できませんでした。コロナの前に働き始めた人たちよりも経験が少なく不安があります。

取材を進めると新人看護師たちが実習不足に対して強い不安を感じていることが分かりました。

専門学校では実習が3分の2に縮小

千葉さんが卒業した3年制の看護専門学校を取材してみると、例年とは授業の様子が大きく変わっていました。

オンライン授業の様子(2020年7月)提供:東葛看護専門学校

コロナの感染が広がり始めた当初、学生に登校させるのをやめて教材を家に郵送したり、撮影した授業の動画をホームページに載せたりして授業を進めていました。何度も授業のスケジュールを組み直して、2020年5月、オンラインでの授業を始めます。しかし、学校側も学生もオンラインの環境に慣れておらず、授業を進めていくのが難しかったということです。

さらに大きな痛手となったのが、実際の医療現場に出て行われる実習ができなくなったことです。千葉さんが看護師の資格を取るために必須となる実習は3年間で1035時間です。しかし、コロナの感染対策のため、実習先の病院が学生を受け入れることができず、多くの実習で時間が3分の2になっていました。

実習は3週間で1セットになっていて、1日6時間ほどを医療現場で過ごして看護技術を学びます。1週目は現場に慣れる、2週目は患者の看護計画を立てる、3週目で実践というイメージで進められます。これが2週間に短縮されました。

影響が大きかったのは、母子、小児、高齢者などの分野で、感染を広げるリスクが特に高いため、実習を行うことが難しかったということです。

患者の情報をもとにした模擬実習

こうした状況を受けて、厚生労働省は実習先を確保することが難しい場合、学校内で模擬実習を行うことなどで単位を取得することを認めました。

学校で代わりに行われたのが、実在する患者の情報が書かれた紙をもとにした授業です。患者の年齢や病気の診断名、これまでの病気の経緯などが書かれています。これをもとに看護計画を立てて、現場での実習を補っていました。しかし、実際の現場では計画通りに進まないことも経験するため、患者との接し方を学ぶ機会を失ってしまったのです。

学校では、患者との接点が少なくなったことは、卒業して働き始めた際に大きなつまずきの原因になると考えています。
看護専門学校でつくる協議会が学校を対象に行った調査では、退職や休職した新人看護師の理由を尋ねたところ「自分に自信がない」とか「先輩との関係が作れない」といったことが上位にあがってきたということです。

東葛看護専門学校 山田かおる副校長

山田副校長「授業の状況をコロナ前と比べたら、本来の教育ではない姿に様変わりしました。患者さんと出会って、患者さんとの関係を作っていく、そういう機会に恵まれないわけですから患者さんとコミュニケーションを取る力が低下していると思います」

患者とのコミュニケーションに課題

千葉さんは患者に積極的に声かけ

働き始めて3か月の千葉さん。実習不足を取り戻すため患者との関係を築こうと「大丈夫ですか?」とか「暑くないですか?」など積極的に声をかけ、コミュニケーションをとろうとします。

受け持つ患者は多い時で4人。体調管理のほか入浴や清しきなど必要なケアを看護計画通りに進めなければなりません。中には長期の入院でストレスがたまり「面倒だ」などとすぐには応じてくれなかったり拒否をしたりする患者もいて、うまく対処できずに先輩に助けてもらうことも少なくありません。

先輩の看護師

実習回数が減っている分、病院という臨床の場に緊張しているなとすごく感じます。また、自分で考えて看護をするというところに少し1歩引く面があるとも感じます。

病院では新人の育成を模索

実習の機会が減ってしまった新人看護師をどうサポートするのか。東葛病院ではきめ細かな対策が進められていました。

交換日誌を書く千葉さん

そのひとつが先輩との交換日誌です。その日に学んだことや気づいたこと、それにあすへの目標などを毎日書きます。千葉さんはこの日「分からないことをそのままにしない」と目標に書き込みました。
すると先輩からは「これすごく大事。いつでも聞いてね」という返事がありました。ほかにも日誌には「自信持って大丈夫」とか「看護学校では学ばないこともたくさんあるからこれから学んでいこうね」などと先輩から温かく丁寧なことばが書かれていました。これらのことばが千葉さんの背中を押しているのです。

先輩からのメッセージ
千葉悠奈さん

もうちょっと頑張ろうと思えるし、褒めてもらえたところはすごく励みになります。

また、年に2回臨床心理士の面談を行い、仕事でもプライベートでもなんでも相談できる環境を整えています。ここで話したことは影響がない限り、上司などには伝えられず、看護師たちの発散の場ともなっていて、中には泣き出す人や40分以上相談していく人もいるということです。

先輩看護師が付き添って指導

さらに、これまでおよそ4か月だった新人研修の期間を2倍に拡大しました。研修中は先輩看護師が付き添い、いつでもサポートできるようにしています。

感染の再拡大が始まる中、医療崩壊を防ぐためにも新人看護師をどう育てていくのか。医療現場での模索が続いています。

東葛病院 高橋法子副看護部長

高橋副看護部長「先輩たちも自分の業務がある中で新人の指導につきっきりになるのはかなり大変だとは思うんですけど、みんなが通ってきた道だと思って、『みんなで1年生を育てる』ということを大事にして研修プログラムを組んでいます」

取材後記

取材中、新人看護師の千葉さんや鞠子さんは前向きに必死に学んでいる姿が見られました。また、そうした様子を眺めながら先輩看護師や副看護部長が「来年度に入ってくる看護師の方が実習ができておらず心配だ」と話している様子が強く印象に残っています。わたし自身は新型コロナウイルスによって行動制限など一過性の影響はありましたが、取材を進めるうちにこんなにも思いがけないところで影響が長く響いていたことに驚きました。コロナ世代を過ごした看護師さんに自分自身がお世話になる可能性もあり、他人事ではないと思います。今後、コロナによる影響がどういったところに、どこまで出てくるのか取材をしていきたいと思いました。

  • 荻原芽生

    千葉放送局 記者

    荻原芽生

    2019年入局。
    最近通った病院は「歯医者」

  • 福田和郎

    千葉放送局 記者

    福田和郎

    2006年入局。
    8月に千葉局から異動します。これまで取材にご協力頂いたみなさま、ありがとうございました。

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