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埼玉県議会「子ども放置禁止」条例の波紋 留守番は虐待?反対意見相次ぐ 議論の経緯は

  • 2023年10月10日

「子どもの留守番は放置で児童虐待だ」とする虐待禁止条例の改正案が、埼玉県議会に提出され、6日委員会で可決しました。
これに対し、反対の声が広がりました。
10日、改正案を提出した自民党県議団は「県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がった」などとして改正案を取り下げることを明らかにしました。
これまでの経緯をまとめました。(10日 内容追記)

10日の会見 詳しくはこちら↓
自民党県議団 条例案なぜ取り下げ? 会見Q&A

大きな波紋 虐待禁止条例の改正案とは

今、大きな波紋を呼んでいる埼玉県の虐待禁止条例の改正案。
この改正案は、10月4日、埼玉県議会の最大会派、埼玉県議会自由民主党議員団(自民)が議員発案の条例の改正案として提出しました。子どもの放置など悲惨な事件が相次いでいることを懸念して作られたものだといいます。

埼玉県議会

提出された改正案(一部抜粋)
第6条の次に次の1条を加える。
(児童の放置の禁止等)
第6条の2 児童(9歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない。
2 児童(9歳に達する日以後の最初の3月31日を経過した児童であって、12歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるものに限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置(虐待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。
3 県は、市町村と連携し、待機児童(保育所における保育を行うことの申込みを行った保護者の当該申込みに係る児童であって保育所における保育が行われていないものをいう。)に関する問題を解消するための施策その他の児童の放置の防止に資する施策を講ずるものとする。

つまり、罰則規定はないものの、子どもを「放置」することを児童虐待と位置づけて禁止しています。

具体的には、保護者などに対して小学3年生以下の子どもについて「放置」の禁止を義務づけ、小学4年生から6年生までは努力義務としています。

この「放置」について埼玉県議会自由民主党議員団は、これまでの取材の中で、子育て家庭ならよくある「子どもを自宅に留守番させて外出すること」や「子どもだけで公園で遊ぶこと」もあたると説明していました。

委員会ではどんな意見が交わされたのか

10月6日の県議会の福祉保健医療委員会では、この改正案に対して意見が交わされました。

委員会の会派別の構成は、委員長と副委員長は自民、そのほかの委員は自民が5人、民主フォーラム2人、公明1人、県民1人、共産党1人でした。

この中で、改正案について反対や批判する意見が相次ぎました。

反対や批判の意見
「放課後児童クラブに入れない待機児童も多数いる中で、預け先がない親をさらに追い詰めることになるのではないか」

「出勤が朝早くて見守りたくても留守番させて出勤せざるをえないケースなど日常でよくあるケースが条例違反となるのでは」

「ワンオペでやむをえず留守番させなくてはいけない親の負担が増す」

「誰もが住みやすい、子育てしやすい埼玉県のバランスを崩してしまうもので、ニュースで知った県民からは、さっそく不満や批判が出ている。審議を継続にすべき。結論を出すことは時期尚早」

一方、改正案を提出した埼玉県議会自由民主党議員団は、以下のように反論しました。

埼玉県議会 自由民主党議員団
「すぐに駆けつけられる状態が確保されないかぎり放置と考える」

「待機児童が解消されるように、県が市町村と連携して努力するべき。置き去りや放置から悲惨な事故が起きている事実があり、見逃せない」

「細かい距離や時間の問題ではなく、子どもの視点にたって、子どもを危険な状態に置かない、放置しないという社会的機運を高めていくべき」

賛成多数で可決

そして、2時間意見が交わされたあと、委員長を除いて採決が行われ7対4の賛成多数(賛成:自民6、公明1、反対:民主フォーラム2、県民1、共産党1)で可決されたのです。

「放置」の具体例は?

埼玉県議会の最大会派、自民党県議団が提出した「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例」では、「小学3年生までの児童を現に養護する者は当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の放置をしてはならない」として家などに残したまま保護者などが外出することを禁止しています。

また、小学4年生から6年生については禁止ではなく努力義務としています。

さらに、「県民は、虐待を受けた児童等を発見した場合は、速やかに通告または通報しなければならない」としています。

一方、罰則規定は置かれていません。

この改正案について、自民党県議団は、これまでの県議会での説明などで子どもを家などに残したまま保護者などが外出するといった放置は、「虐待」にあたるとしてます。

「放置」の例として、は次の通りです。

▼子どもを車の中に置き去りにすること
▼子どもたちだけの自宅での留守番
▼未成年の高校生に小学生などのきょうだいを預けて買い物に出かける行為
▼子どもだけ家に残してゴミ捨てに行く行為
▼子どもたちだけで公園などで遊ぶこと
▼子どもたちだけでの登下校
▼子どもにおつかいさせる行為

自民党県議団は、改正案提出の理由について、子どもが車内に取り残されて、熱中症などで死亡することが全国各地で相次いでいるため、児童が放置により危険な状況に置かれることを防止する狙いがあると説明しています。

子育て世帯から反対意見相次ぐ

今回の条例の改正案については、子育て中の人からは子どもの安全のためには必要だという声もある一方で、今の子育ての状況をふまえると厳しすぎるなどの反対意見が相次ぎました。

小4と小6の母親

「3年生になると、友達どうしで遊ぶ機会も増えますし、下の子が小学3年生以降はお兄ちゃんに鍵を持たせてお留守番をさせる機会も多いです。共働きの親としてはずっと子どもに付き添えませんし、ちょっと乱暴な気がします」

3人の子どもの父親

「子どもを守るという趣旨は理解できますが、高校生の兄はしっかりしていますし、留守番で下の子を見てもらうこともあります。それもダメというのはちょっと厳しすぎると思う」

40代の母親

「下の子の幼稚園のお迎えにはいちいち上の子はついて来ませんし、やむをえず留守番する時間ができてしまう。子どもを守りたいのであればもう少し議論を深めてほしい」

30代の母親

「小学生は放課後児童クラブも入れない状況もあるのに、子どもの受け皿となる対策が整わない段階で禁止だけするのはおかしい。いつ通報されるかわからない状況も不安です。子育てしている人が考えた案とは思えないし、やめてもらいたい」

30代の父親

「かなり行動に制限はでると思いますけど、夫婦交代で見るようにしたい。虐待とかはゆるいと抜け道ができてしまうので、白黒はっきりさせたほうがいいと思う」

30代の母親

「子どもが犯罪などトラブルにあったら怖いので、子どもにはついていたい。子どもの安全のためには必要だと思います」

埼玉県によりますと、10日午前10時までに873件の意見が寄せられ、このうち改正案に、反対意見が871件、賛成意見が2件だということです。

PTA協議会も反対

また、さいたま市PTA協議会は、9日自民党県議団に対し、「ほとんどの保護者が条例違反にあてはまる」などとして改正案に反対する意見を伝えました。

PTA協議会は改正案に反対するオンラインの署名活動を行っていて、10日午前10時までに2万5000人以上の署名が集まっているということです。

さいたま市PTA協議会 郡島典幸会長
「子どもの自由を奪ったうえで子育てに関する責任を親だけに押し付けるような条例だと感じる。各学校のPTAからも懸念の声が寄せられていて、子育て支援を充実させるという社会の流れと逆行していると感じる」

改正案 取り下げる方針 自民党県議団

小学3年生以下の子どもを自宅に残したしたまま保護者が外出することなど、放置を禁止する虐待禁止条例の一部改正案を埼玉県議会に提出した自民党県議団は10日、「県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がった」などとして改正案を取り下げる方針を明らかにしました。

自民党県議団 田村琢実団長
「私のことば足らずで県民はもとより全国的に不安と心配の声が広がり、多くの県民、団体などからさまざまな意見をもらった。改正案は現状と乖離があるとは考えていないが、私の説明不足によって乖離を生んでしまい、理解を得られる状況ではないと判断した。県民に心からお詫びする」

大野知事「撤回は歓迎」

条例の一部改正案が取り下げられることについて、埼玉県の大野知事は1000件を超える反対意見が寄せられていたとして「県民の声は極めて重い。撤回されることは歓迎したい」と述べました。

また、今回の改正案の提出にあたって自民党県議団からは虐待の現状について説明を求められただけだったとして、「条例案の提案までに県の執行部に意見を求められたことは一切なく、条例の改正案の内容についての説明もなかった」と述べました。

そのうえで、「埼玉県では子育てできない」などの声が寄せられたことについて、大野知事は「子育てしやすい埼玉県を施策でも打ち出してきたと自負しているので、今後も子育てしやすい県だとアピールしていく機会を作りたい」と述べました。

弁護士「丁寧な議論必要」

埼玉弁護士会の会長で、子どもの権利を守る活動や子育てに悩む保護者の支援に携わってきた尾崎康弁護士は次のように指摘しています。

尾崎康弁護士
「子どもだけの登下校や短時間の留守番まで禁じて通報義務化してしまうのは、規制の対象があまりに広すぎてやりすぎだと言わざるを得ず、埼玉での子育てがやりづらくなることにつながってしまう。責任を親にすべて押しつけるような方向性は大いに疑問に思う」

そのうえで、条例の一部改正案が取り下げられることになったことについて、「虐待防止のためとはいえ人の自由を制限するには慎重な検討が必要であって、今後、同じような議案を考えていくのであれば、丁寧な聞き取り調査や実態の把握、検証や議論が必要になるのではないか」と話していました。

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