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静岡サッカーの知られざる強豪 藤枝市役所サッカー部

全国大会7連覇 “蹴球都市”をプレーでもけん引!
  • 2023年08月31日

全国には「サッカーのまち」をかかげる自治体がいくつかあり、静岡県藤枝市もそのひとつです。今季から昇格したJ2リーグで奮闘中の藤枝MYFCや、ドイツ1部リーグで活躍を続ける長谷部誠選手(元日本代表主将)の母校・藤枝東高校(男子)、そして今夏の全国高校総体で優勝した藤枝順心高校(女子)など、全国に名を知られるクラブチームやサッカー部があります。そんな藤枝市に実はもうひとつ全国レベルの強豪サッカー部があるのを知っていますか?その名は「藤枝市役所サッカー部」。その名のとおり、藤枝市役所や志太消防本部の職員で構成されるサッカー部です。藤枝市役所サッカー部は8月上旬に開催された全国の公務員チームだけで争われる大会で優勝、この大会7連覇を達成しました。また、これまで49回開催されたこの大会のうち、34回も優勝しています。「なんで長年にわたりこんなに強いのだろう?」圧倒的な数字を前にわいてきた疑問を解消するべく、取材を始めました。

全国自治体職員サッカー選手権大会で7大会連続、34回目の優勝を達成

第49回全国自治体職員サッカー選手権大会 決勝の様子
(茨城県ひたちなか市) 藤枝市役所VS岐阜市役所
(写真提供:藤枝市役所サッカー部)
表彰式後の集合写真(写真提供:藤枝市役所サッカー部)

8月4日から9日の6日間、32チームが出場して茨城県ひたちなか市で開催された第49回全国自治体職員サッカー選手権大会。藤色のユニフォームに身を包んだ藤枝市役所サッカー部が岐阜市役所との決勝を6対0で勝利し優勝。この大会7連覇を達成し、通算34回目の優勝となりました。

この大会、あまり知らない人が多いと思います。どんな大会なのか簡単にまとめました。

【全国自治体職員サッカー選手権大会とは?】
※日本サッカー協会ホームページの「大会要項」より
(趣旨)地方自治体職員の親睦と交流を図るとともに、公の施設の設置・管理にあたるものとして、日本サッカーの普及と発展のためにささやかながら貢献することを目的とする。
(主催)
全国自治体職員サッカー連盟
(出場チーム)
各地域の支部ごとに予選を行い決定
開催地チームや前回優勝チームなどの別枠を含めた32チーム
(大会形式)
32チームによるノックアウト方式(トーナメント)
(試合時間)
① 1回戦から準々決勝…70分+インターバル10分
勝敗が決定しない場合はペナルティキック方式により勝敗を決定
② 準決勝…70分+インターバル10分 
決勝…80分+インターバル10分
勝敗が決定しない場合は20分の延長戦 
それでも決定しない場合はぺナルティキック方式により勝敗を決定
(選手交代)
1試合で最大7名まで

大会は1971年(昭和46年)に始まり、コロナ禍で開催されなかった年があるものの半世紀近い歴史があります。藤枝市役所サッカー部は第1回から毎回参加を続けている唯一のチームです。この大会において無類の強さを発揮していますが、みなさん試験を受けて採用された公務員(当たり前ですがサッカー推薦で入れるわけではありません)です。なぜこんなに強いのか?その理由を探りました。

表彰状 優勝カップ 優勝旗にかけられたリボン
リボンには「藤枝市役所」の名前がずらり

創部60年以上 歴史を刻み続ける

サッカー部が創設されたのは1959年(昭和34年)。職員間の親睦と健康増進を目的に、サッカー部同好会として約30名でスタート。昼間は役所の仕事があるため練習は主に夜で、発足当初は近くの市役所や社会人チームとの親善試合が主な活動でしたが、だんだんと大会への参加が増えていったそうです。
60年を越える活動の中で、東海社会人サッカーリーグでの優勝、全国社会人サッカー選手権大会へ出場し最高3位、天皇杯決勝大会への3度の出場など、全国自治体職員サッカー選手権大会のほかにも多くの実績を残しています。
さらに1988年(昭和63年)には地方公務員として初めてJSL2部(当時の日本サッカーリーグ)に
昇格し、東芝、日立、富士通など現在のJ1・J2の前身チームと同じリーグに参戦したことも。

活動初期のころ
活動初期のころ
選手の奥にはフェンスもなく畑のような景色が広がる
1967年(昭和42年)静岡県都市職員サッカー大会
これまでに獲得してきた賞状やカップなど 

勝利のため 本気で取り組む大人の“部活”

このように、現在だけではなく昔から実績を残してきた藤枝市役所のサッカー部。しっかり仕事が最優先、終わったあとの夜にサッカーの練習をするというのは昔から変わっていません。どのような雰囲気で行われているのか、練習の様子を見せてもらいました。

昼間は市役所の仕事に集中 
河川課で勤務する渡辺航平選手(26歳・MF)
消防署勤務の選手は1回の勤務が24時間のため、毎日の練習参加はできない
左:高柳翔大選手(20歳・FW)右:木村海斗選手(24歳・DF)
藤枝総合運動公園 人工芝広場での練習
奥にうっすらと、J2藤枝MYFCのホームスタジアムが見える
選手たちの表情は真剣そのもの

練習は平日19時ごろから1時間半程度、月曜以外は毎日行われています。現在選手は27人、それぞれが仕事を終えてから三々五々集まってきますが、仕事の都合で参加できない選手もいるため平日に全員がそろうことはほとんどありません。週末は練習試合や、現在サッカー部が参加している東海社会人サッカーリーグの試合があるため、サッカー部の選手、スタッフは仕事の時間以外はサッカー漬けの生活を送っています。練習場所は市内の小中学校のグラウンドや藤枝総合運動公園の人工芝広場などを使用しています。

練習の合間、選手たちに話を聞きました。
クリーンセンター推進課に勤務する主将の安藤寛和選手(28歳)。富士市出身の安藤選手は2013年(平成25年)、藤枝東高校3年のときに全国高校サッカー選手権大会に出場した経験があります。中京大学に在学中は東海社会人リーグで藤枝市役所サッカー部と対戦する機会があり、このチームのことを知ったそうです。

安藤寛和選手(主将・DF)
「仕事とサッカーの両立はハードです。高校・大学時代の勉強の部分が仕事に置き換わったようなものです。サッカーをすることは家族も理解してくれていますが、仕事が終わって練習が始まるまでの間や練習後帰宅してからなど、家事をするようにしています」
「このチームの強みは、選手全員が勝利のため献身的に、真面目に取り組めるところにあると思います」

安藤寛和選手(主将・DF)

スポーツ推進課に勤務する白井悠太朗選手(29歳)は静岡市清水区の出身で安藤選手と同じく藤枝東高校から中京大学に進みました。白井選手は、サッカー部の強さは周囲の人たちのサッカーへの理解も関係していると感じています。

白井悠太朗選手(MF)
「同僚である市の職員や地域の人たちがサッカー部の活動にすごく理解を示してくれていると思います。例えば、週明けに出勤したとき職場の同僚たちがサッカー部の試合結果をすでに知っていたり、高校時代から私のことを知っていて東海社会人リーグでアウェーの試合時に応援に来てくれる市民のかたがいます」

白井悠太朗選手(MF)

納税課に勤務する谷尾隆博選手(32歳)は少し変わった経歴で、30歳で藤枝市役所に入りました。山梨県富士吉田市出身で、静岡大学への進学が静岡との縁の始まり。大学卒業後はプロ選手として藤枝MYFC(JFL、J3時代)、その後ドイツへ渡り4部リーグなどで4シーズンプレー。帰国のときにいったん引退するも、別の仕事を経て藤枝市役所に入り、サッカー部で選手生活を再開しました。

谷尾隆博選手(FW)
「(さまざまな場所でプレーをしてきた目から見ても)藤枝市役所サッカー部の練習は強度が高いです。(もともと高校年代に強豪校に在籍していたなど)技術のある選手たちが大人になっても熱意を持って取り組んでいると思います」
「これまで先輩方が作り上げてきた伝統、サッカーに熱い人が多い市民性。練習をしていると隣で50歳以上のシニア世代が練習していたりします。サッカーが根付いているのだと思います」

谷尾隆博選手(FW)

財政課に勤務する松浦寿彰監督(43歳)は、今回の全国自治体職員サッカー選手権大会の結果について、数字で現れているほどの他チームとの差はないと言います。サッカーの裾野が全国に広がったためで、昔と比べ勝つのは難しくなってきていると感じるそうです。

松浦寿彰監督
「若いチームであり勢いがあること、みんな真面目に取り組むことが今のところ勝てている理由かもしれません。監督としては、うまい選手が多いので自主性を大事にしながらやっています。今の選手たちは、私が若いときよりもレベルが高いです」
「応援してくれる人がたくさんいるおかげで活動ができています。それに応えるためにもまず仕事をしっかりこなした上で、いい試合をしていかないといけないです。(サッカー部の活動はあくまで課外活動ですが)私たちは公務員ですので、サッカーを通して藤枝市の話題作りに貢献できれば、やりがいにつながります」

松浦寿彰監督

選手や監督から話を聞く中で、強さの理由が少しだけわかってきた気がしました。まず、いま在籍している選手たちの出身高校は、27人中15人が県内屈指の強豪校である藤枝東高校です。ほかの選手も藤枝明誠高校、静岡学園高校など県内の強豪校の名前が並びます。そこでもまれた選手たちが高卒で市役所に入ってきたり、あるいは大学に進んで一回り成長して入ってきます。
そのようなもともとレベルの高い選手たちが、市役所の同僚や市民から日常的に注目され、応援を受ける。それにより選手たちは熱意を高め、いい試合を見せるためにより真剣に練習をする。
“サッカーのまち”藤枝市ならではのプレー環境が選手たちのモチベーションを高く保ち、実績に現れているのかもしれないと感じました。

来年は藤枝サッカー100周年!
全国自治体職員サッカー選手権大会も藤枝で開催

藤枝サッカーにとって、来年(2024年)は記念すべき年です。藤枝サッカーの原点とされるのが1924年(大正13年)、サッカーが志太中(現在の藤枝東高校)の「校技」となったことで、それから100周年に当たるのです。藤枝市役所の「サッカーのまち推進課」で、来年に向けてどのような取り組みを予定しているのかを聞きました。

藤枝市役所 サッカーのまち推進課 海野創・Jリーグ担当係長
「来年、100周年の記念式典を藤枝総合運動公園サッカー場で行う予定ですが、それに間に合うようにバックスタンドに屋根付き観客席を増設するなどの改修工事を進めています。また、場所はまだ未定ですが、サッカーミュージアムの新設も予定しています。ことし3月末で閉館した長泉町の静岡サッカーミュージアムの展示品も引き取り、新しいミュージアムに活用することにしています。藤枝市独自の展示では、長谷部誠選手など本市ゆかりの有名選手にまつわるものの展示を検討しています」

サッカーのまち推進課 海野創 Jリーグ担当係長
かつて市役所サッカー部で主将も経験

藤枝サッカー100周年に合わせ、来年(2024年)は第50回全国自治体職員サッカー選手権大会も藤枝市が開催地に立候補し、開催決定したそうです。藤枝市役所サッカー部の大会8連覇と、100周年の機運をもり立てるような活躍を期待して、今から楽しみにしています。

  • 福原健太郎

    NHK静岡放送局 カメラマン

    福原健太郎

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