目指すは自立~センバツ12年ぶり出場 東北高校

春のセンバツ高校野球で開幕ゲームに登場するのが、東日本大震災が発生した2011年以来、12年ぶり20回目の出場となる東北高校です。
去年8月に就任した元プロ野球選手の佐藤洋監督のもと、目指すのは「自立」したチームです。

(取材/仙台放送局 藤原由佳)


<選手主体で進める練習>
東北高校にはかつての高校野球とはまったく違う空気が流れています。
髪型、練習着は自由。
グラウンドには大音量ではやりの音楽が鳴り響き、練習中でも選手たちには笑顔があふれています。

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「次の練習どうする?走塁を先にやる?そのあと自主練にしようか」

日々の練習メニューを決めるのは、選手たち自身です。
守備練習のノックでボールを打つのは、マネージャーを務める選手。
技術的な練習も選手どうしで互いに行います。

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走塁のリーダー 山田翔琶選手
「一塁ベースを踏むのは絶対に左足で。スピードを落とさないで左足で踏めばOKだから」

打撃、守備、走塁と、それぞれに秀でた選手がかわるがわる先頭に立って指導役を務めます。
選手たちは課題を先送りしないよう活発に意見をかわします。


<子どもたちに任せることで伸ばせる>

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こうした選手主導の取り組みを仕掛けたのは、東北高校の卒業生で去年8月に就任した佐藤洋監督(60)です。
巨人でプレーした元プロ野球選手で、現役引退後、長らく少年野球の指導にあたってきました。
その中で抱いたのは、野球界に残る旧態依然とした指導方法は、野球人口を減らすだけではなく、子どもがみずから答えを導き出す可能性を奪ってしまうという危機感です。

佐藤洋監督
「理不尽な世の中に打ち勝つためにあえて理不尽を経験させるという野球界に疑問を抱いてきた。監督や大人の指示で動くだけでは『指示待ち人間』になってしまう。子どもたちを信じて任せることで伸ばすことができる」


<道徳の時間>

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選手たちから「ひろしさん」と呼ばれる佐藤監督は、「野球を子どもたちに返す」という強い信念を持って東北高校に復帰しました。
試合の勝利も大切ですが、それ以上に重視するのは、選手たちの自主性を育てることです。
選手たちが決めた練習内容や野球部全体の方針には極力、口を出さずに見守ります。

その佐藤監督が唯一、みずから率先して選手たちの前に立つのは、「道徳の時間」と呼んでいる練習開始前です。
偉人のことばや童話などを題材にしながら物事の見方や考え方を指導してきました。

佐藤洋監督
「行動することを恐れずにやったから何か変化が出る。
 成功するかもしれないし失敗するかもしれない。
 でもどっちでもいいの、それを積み重ねていけばいい」

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道徳の時間は選手たちに気づきを与えるきっかけになりました。
自らの行動や発言により責任を持つようになったと言います。

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キャプテン 佐藤響選手
「ひろしさんから自立を求められる中で“自由”とは何か深く考えるようになった。自由とは自分を成長させるための時間で自分を律することで初めて自由が生まれると思う」


〈個々に目標を掲げた冬〉

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この冬、選手たちは個々に目標を掲げてそれぞれの課題に取り組みました。
エースのハッブス大起投手は、最速145キロの力強いストレートが持ち味ですが、安定性に欠けることが課題でした。

ハッブス大起投手
「これまでは全力で腕を振って150キロを出せばいいという甘い考えだった。ひろしさん(佐藤監督)の話を聞いて物事をさまざまな角度から見られるようになった。速さではなく、いかに抑えられるかを考えて取り組むようになった」

そこでハッブス投手は、投球フォームの改良に乗り出しました。
左足を上げてから地面に着くまでの時間、いわゆる「間」を長く取ることで、力みすぎずに投げられるようにしました。

「間」を長く取るために股関節の柔軟性を高めるトレーニングにも力を入れました。
その結果、ハッブス投手は「8割の力でも強いボールが投げられるようになってきた」と手応えをつかんでいます。

〈選手が決めた18人〉

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センバツまで10日に迫った3月8日。
遠征先の静岡県沼津市でベンチ入りするメンバー18人が伝えられました。
メンバーを決めたのも、キャプテン、ポジションごとのリーダー、マネージャーといった選手たちです。

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18人の名前と背番号を読み上げたのは、マネージャーの佐藤耀さん。
選ばれた選手も、選ばれなかった選手も、涙をこらえることができませんでした。

マネージャー 佐藤耀さん
「みんなが頑張ってるのを見てきたから全員メンバーに入れたかった。いろんな思いがあるかもしれないけど、本当にいいチームになったと思うから、みんなで力を合わせて頑張ってほしい」

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キャプテン 佐藤響選手
「一人一人がどうやってチームを変えることができるかを考えながらやってきた。自立をめざしてやってきたことは絶対間違いじゃないと思うし、劣勢の場面で生きてくると思う。前回、東北高校がセンバツに出場したのは東日本大震災があった2011年だった。『東北高校おかえり』と言ってもらえるように自分たちの力を出しきりたい」

 

 

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佐藤洋監督
「今の東北高校を見ると、大人よりも一歩も二歩も先を進んでいる。“指示待ち人間ではない”と実感できるし、甲子園の舞台でも笑顔でハツラツと動く姿が想像できる。“子どもたちに野球を返す”というテーマに向かって、今のわれわれの立ち位置を甲子園で見せたい」

 


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仙台放送局 キャスター 藤原由佳 
高校野球などスポーツを担当
とびっきり元気な東北スマイルで最高の勝負を楽しんできてほしいです