第16弾

パラカヌー × 君と漕ぐ

パラカヌー日本代表・瀬立モニカ選手インタビュー

カヌーに乗らないとわからないことがたくさん詰まったアニメ

アニメをご覧になっていかがでしたか。

瀬立:とてもきれいにまとめてくださって。いいところが全部詰まっているけれど、きれいすぎなくて。かける言葉のひとつひとつにリアルさがあって、ふねの下から空を見上げているときに橋の下を通っているとか。カヌーに乗らないとわからないようなことがたくさん詰まっていて、作り上げてくださったみなさんの本気を感じました。
そわそわしますよね。自分がアニメになる日が来るなんて人生の中で夢にも思っていなかったのでうれしいです。ちょっと現実世界も寄せに行っちゃわないか心配です。ハハハ。

今回のストーリーは瀬立選手ご自身の経験も盛り込まれていますが、印象的な部分はありますか。

瀬立:私がケガをしたときを回想するシーンがあったんですけど、声のトーンや話す感じがとてもリアルというか、自分がケガをしてカヌー始めるときの気持ちを思い出すシーンでしたね。ちょっと涙がチョチョギレそうになるぐらい。

そのときはどういう気持ちだったんですか。

瀬立:パラカヌーを始めたとき、実際にカヌーをやっていたからこそわかる、健常のときには何も意識しなくてもできていたことができなくなる部分も多くて。そういうところにジレンマを抱えたときの、ぐるぐるした心境がアニメの中に描かれていて。でも、それを乗り越えて発する私の言葉が…「いろんな人たちに助けられてカヌーをやっているからこそ、カヌーが好きなんだ」っていうフレーズがとても心に響きましたね。

声優の方たちも、ここがいちばんグッとくるとおっしゃっていました。

瀬立:めちゃくちゃわかります! それを、あのひと言で表現できる声優さんたちにちょっと鳥肌が立ちましたね。自分は経験したからわかるじゃないですか。でも、ほかの人が経験してきたものを声にする声優さんのすごさを感じました。

ケガをしたとき、支えとなったお母さんの言葉があったそうですね。

瀬立:入院しているときにちょっとやさぐれていることもあって、ケンカしたときかな…「あなたがそんなにツンとした顔してたら誰も寄ってこないよ」っていわれて。「笑顔でいることで周りの人たちが集まってきて、いろいろ助けてくれて、またそれであなた自身も幸せになる。笑顔は副作用のない薬だからね」と言われました。

そう言われたときに響きましたか?

瀬立:全然。ハハハハ! 「何言ってんの? こっちは生きてるのに必死、そんな笑ってられるか」って思ったんですけど、実際に社会に出てみて、ムスッとした顔で人にものを頼んだりするときと笑顔でお願いするときとで全然相手の反応が違って。相手が笑って「いってらっしゃい」って言ってくれたら自分も幸せになって、その日一日の気分がよいから、「あっ、笑顔ってこういうことか。意外と大切な言葉だったんだな」って理解しました。

パラカヌーを始めてみて、改めてカヌーの魅力をどう感じますか。

瀬立:アニメにもあったように、みんなと同じように行動できるのがいちばんの魅力だと思っていて。車いす生活になって一番「ああ、車いすだな」と思うときって、特別扱いされることだったんですよね。例えば、どこかに行くにしても「瀬立さんはこっちのルートね」とか「私だけこっちなの?」みたいな。疎外感まではいかないけど「やっぱ車いすなんだな」って感じるときがあって。ただ、カヌーに乗ったときにはそれを忘れさせてくれるというか、いちいち考えなくてもみんなと同じようにカヌーに乗れてどこにでも行けるのがとても幸せ。

アニメのセリフでいうと?

瀬立:「水上はバリアフリー」でしたね。フフフ。段差とか階段とかなく、みんなと同じように行動できるというのがいちばんの魅力ですね。

2016年のリオデジャネイロパラリンピックのときから江東区の練習支援を受けていますね。

瀬立:江東区は「水彩都市」をうたっていて、河川がとてもある街なんですね。その河川を利用して何かスポーツができないかということで、区の事業としてカヌークラブが発足したんです。はじめは中学生だけだったんですけど、シニア、そして2020東京パラリンピックの開催決定をきっかけにパラへと広がっていって。そのなかで、カヌーを置く場所=艇庫を提供してもらったりとか、艇を実際に買ったり。あと、カヌーを教えるコーチの派遣だったり、練習場所の提供、バリアフリーの整った練習施設というのはその当時全国にもなかなかなかったので、カヌーを始めやすい環境をつくってもらいました。

カヌーって始めるまでにとてもハードルが高いスポーツなんです。実際に艇を買おうと思っても70万、80万円ぐらいしますし、艇を保管しようと思ったら1か月いくらで艇庫を借りなきゃいけないし。でも、江東区であればカヌーを始めるハードルが低く、サポートしてくれる人がいるという環境を自治体レベルで整えてもらえるのはとても心強いですね。

ありがとうございます。今の目標をお聞かせください。

瀬立:まずは、パリパラリンピックに出場するための選考会で結果をしっかり残すこととそれをつないでパリ大会に向けて一日一日を大切に過ごしたいです。

パリ大会の出場権を得るために必要な条件は?

瀬立:パラカヌーは、日本で1番とか、世界大会のランキングでパラリンピック出場が決まるわけではないんです。2回チャンスがあって、1回目が2023年の8月にある世界選手権です。この大会で上位6番以内になれは出場が決まります。2回目のチャンスが、2024年の5月にあるワールドカップで、世界選手権で決まった6名を除いて上から4番以内に入ることです。合計で10名の選手たちがパラリンピックに出られるというシステムです。

出場できるよう応援しています。最後に、このアニメを見た方に伝えたいことはありますか。

瀬立:今回のアニメはとてもリアルだなと思っていて、水上での視界や見える景色、カヌーの進むスピード感、迫力がとても詰まったアニメになっています。リアルな感覚を感じてもらい、カヌーに乗りたいと思う人が少しでも増えたらうれしいです。
レジャーとしてのカヌーは普及してきたと感じますが、競技カヌーはまだまだ競技人口も少ないのでこれをきっかけに始めてくれる人が増えたらと思います。

ありがとうございました。

瀬立モニカ選手所属のパラマウントベッド社内にて撮影