第16弾

パラカヌー × 君と

瀬立モニカ 役・佐倉綾音さんインタビュー

「水の上では自由」 このセリフにモニカ選手のすべてが詰まっている

今回、実在のパラカヌー選手を演じることをどう思いましたか?

佐倉:そもそも実在の人がアニメになることもそんなに多くはないですし、「実在の選手を2次元でどうやって声で演じよう」と思ったときにいろいろ資料を拝見させていただいたのですが、現実の雰囲気をそのまま持ってくるのもまた少し違うのかなと。私が声をあてることで、「<2次元>のモニカ選手ならではの雰囲気を何かプラスアルファできたら」と思いながら少しボーイッシュなイメージで演じたのですが、テストの時にいらしていたモニカ選手のお友達が「実際のモニカ選手はもうちょっと明るくてカワイイかな」とおっしゃっていたので、本番ではそちらに意識を切り替えて演じました。

最初は、ボーイッシュな感じで役作りされたのですね。

佐倉:そうですね。「モニカ選手にはポジティブで明るくて元気なパワフルさの印象もすごくあるな」と思ったので、そのパワフルさがボーイッシュ寄りのイメージだったのですが、その辺りは切り替えて演じさせていただきました。

セリフの中でもモニカ選手の元気さが表れてますよね。

佐倉:アニメの尺がとても短いので、その中でモニカ選手が発するパワフルでポジティブな言葉にどう説得力を持たせるかは少し緊張する部分でした。でも、最初のシーンから全開でテンションを上げて臨んで「誰かの心を動かすセリフになったらいいな」と思いながら演じました。

佐倉さん、アニ×パラ出演2回目ですよね。(前回はナレーション担当) 今回、役を演じることになってどう思いましたか?

佐倉:…ということは、アフレコ現場とか映像を撮られるんだ、うわ~って思いました(笑)。

前回出演してパラ競技に対する印象は変わりましたか?

佐倉:私自身は『アニ×パラワールド』のナレーションを通して、オリンピックの後に流れるパラリンピックの映像などに「アニ×パラで取り上げている競技ってこういうものなんだ」と、とても目がいくようになりました。ただ、周りの方々に聞くと、オリンピックが終わった時点で見るのをやめてしまう人もたくさんいるという実感はあって。このアニ×パラという作品を通して、もう少し注目してもらえたらと感じますね。

今回、アニ×パラを見た方にパラカヌーの魅力をどう伝えたいですか?

佐倉:まず、水の上で行われる競技というのが目を引くような気がしていて。普段、室内で仕事をしている人間にとっては、それだけで非日常感があるような気がして、“水”という何か人間が扱い切れているのか分からない存在と共存しながら競技に向き合う選手達の姿は、シンプルに興味をそそられると感じました。さらに、パラカヌーの選手たちがハンディキャップとどのように向き合いながら競技しているのかは「もっと興味を持ってくれる人がいっぱいいていい」と個人的には思っています。

深く競技のルールを知らずとも、「何か楽しそうだな」とか、「きらきらしてる」とか、「筋肉すごいな」とかでもきっとよくて。私もちゃんとしたルールを全部把握しきれているわけではないですけど、選手が持っている“一つのものを突き詰めようとするキラキラ感”は、オリンピックに負けず、パラリンピックにもしっかり存在しているので、私も注目していますし、みなさんにももっともっと注目していただきたいと思います。

アニメの中ですごく細長い競技用のカヌーがありましたけど、乗るのも難しいんですよね。

佐倉:バランスを取るのはきっと大変だと思います。撮影でパドルを持たせていただいたのですが、思ったより重くて。映像ではスイスイ進んでいるように見えるけれど、そもそもパドル自体がこんなに重たいんだという発見もありました。

そんな競技用カヌーにモニカ選手は体幹が使えない状態で乗ってるって…。

佐倉:(障害のある人たちは)私達が持っていないものをたくさん持っていると、ナレーションをやらせていただいた前回もとても感じました。そうなると、アスリートの方だけではなく、街で見かける方たちに向ける目がもっと変わってくるのかなと思います。

今回、印象に残ったセリフはありますか?

佐倉:「水の上は自由だ、足が動かなくたってみんなと一緒に進んでいける」というモニカ選手のセリフが印象的で、モニカ選手とこの作品の全てが集約されているような感じがします。ある意味、モニカ選手が歩んできた、しんどかった経験もそこに入っているのかなと。「水の上は自由」ということは、水の上じゃないところではどこか不自由を感じるところがあるのかもしれないけれど、それを乗り越えて居場所を見つけて、仲間と一緒にみんなと一緒にカヌーに向き合って進んでいるから、「彼女の人生がここに全部入ってる」と思ったんですよね。その後に「やっぱりカヌーが好き」と言うんですけど、そのセリフが出てくるまでに必要な過程が全て詰まっているから「カヌーが好き」と言える。とてもいいセリフだなと思いながら収録しました。

瀬立モニカ選手

好きって言えるまでの過程が、そこに入っている。

佐倉:はい。「周りの人達、家族とか、地元の友達とか、おっちゃんとかに声をかけてもらって進めた」というモニカ選手の歴史が少し垣間見えて、それで「カヌーが好き」という説得力に繋がっていくのかなと。(カヌー部キャプテンの鶴見)希衣ちゃんが影響を受けて前に進んでいける、一歩踏み出す勇気になっていく、あの場面は大事に演じたいと思いました。

その大事なシーンを演じるにあたって何かプランはあったんですか?

佐倉:カヌーをこぎながらしゃべっているから、色んなニュアンスが考えうるなと思っていて。でも希衣ちゃん(を演じる加隈亜衣さん)がどういうお芝居をしてくるかが分からなかったので、いろんな可能性を想定して現場に入りました。希衣ちゃんは一生懸命こぎながら、真摯しんしに質問を投げかけてくるというお芝居だったので、こちらとしてもしっかり力を入れながら、でもどこか少し思いをせながら、更にそこに楽しいという感情をもう1個上乗せみたいな感じで、かなり足し算で演じた印象ですね。

加隈亜衣さん(右)の芝居に呼応してモニカ役を作り上げた

気持ちを想像して出てきた声ですか?

佐倉:そうですね。収録の時も、「アメンボみたい」というセリフのくだりもじつは2パターン収録していて、しっかり力が入ってポジティブで投げかけるようなパターンと、もっと広い空があって何か鳥が鳴いていて…みたいなところに少し気持ちを馳せるパターンの2パターンをったのですが、果たしてどっちが採用されるのか、私も見るのが楽しみです。

すてきなお話、ありがとうございました。