第16弾
パラカヌー × 君と漕ぐ
原作/脚本原案・武田綾乃さんインタビュー
同じ環境で楽しめることでみんなが幸せになる
『アニ×パラ』とのコラボの話を聞いたときの感想は?
武田:『アニ×パラ』を見たことがなかったのですが、ホームページで今までの作品を見たら、知らなかったスポーツがたくさん紹介されていたので、「パラカヌーもこんなふうに紹介していただいて、カヌー業界の方が喜んでくださったらうれしいな」と思って、お引き受けしました。
パラカヌーについてはどのように思われましたか?
武田:そうですね。カヌー自体がバスケや野球ほど身近なスポーツではないので、パラまで含めるとさらに身近じゃなくなると思うのですが、「こんな競技がある」と知って、小さい子が大きくなったときにそれで救われる子がいるかもしれないので、知っていただけることが“何かいいこと”につながっていくと思いました。
「救われる」とは?
武田:例えば、自分がもしケガをして足が動かなくなったときに、「パラカヌーという競技があるんだ」と知っていれば始められますけど、知らないと始められない、やってみようという気持ちになれないですよね。他にも、パラカヌーをしている友人を見て、「この子はこういうことをやってたんだ」とみんなが知ってくれたら、それで助かることや、やってみようと思えることにつながったらいいんじゃないかなと。
わからないものって興味を持たないですよね。だから、誰かがやっていても、そもそも知らない。でも、特に子どものころは「こういうことをやってたんだ」ってわかってもらえるとうれしくなるときってあると思うんです。例えば、私の話になるんですけど、小学生のころにユーフォニアムという楽器をやってたんですけど、「何の楽器?」と言われるのがすごくさみしかったんですね。それと一緒で、自分がやってることを知らないまま放置されるのはさみしいことだと思っていて、それが「この前テレビで見たやつと一緒だよね」というところから話が盛り上がったり、人と人の話題をつなぐきっかけになったりしたらすごくうれしいと思います。
「水上のバリアフリー」とモニカ選手がおっしゃっていましたけど、カヌーもパラカヌーも一緒に漕げるので、その点はいいなって思います。例えば、友達同士のパラカヌーをやってる子と、健常者の子が一緒にカヌーを漕ぐということも可能なので、そういうのはすてきだなと思っています。
パラカヌーという競技に接点はありましたか?
武田:小説を書くまではパラカヌーやカヌー自体も接点がなくて。カヌーのオリンピックボランティア講習会に参加させていただいたときに、パラカヌーの話もされていて「こうやって乗り込むんだ」「こういうサポートや違いがあるんだ」などと教えていただいて。そのときがパラカヌーについて意識した最初で、小説本編にも反映しました。
『アニ×パラ』の話を受ける前からパラについてご存じだったんですね。
武田:そうです。カヌー競技自体に多くの種目があるんですけど、パラカヌーはカヌーの中のひとつの種目のように思えて。健常者のカヌーとパラのカヌーって遠目から見たときはほぼ変わらなくて、水上を自由に走って(陸上にいる)私たちなんかよりもよっぽど速くわーっと進められるので…カヌーもパラカヌーも違いはあるけど、ほぼ一緒の競技ぐらいの感覚でしたね。
いまでもやっぱり、遠目から見たときはほとんど変わりがないから、そこがカヌーのいいところなんじゃないかというふうに思います。
だから、今回のアニメでも「一緒に漕ごうよ」と。
武田:そう。だから本当に「水上はバリアフリー」って本当にいい言葉。モニカ選手、すごいなと思います。本当にすてきな言葉だと思いますね。
今回のストーリーで、モニカ選手と出会ってキャプテンの希衣が気づきを得る描写がありますが、武田先生のアイデアですか?
武田:そうです。希衣って悩みが多い女の子なので…。カヌー以外でも部活などで行き詰まってるときに、一線で活躍されている大人の方に話を聞いてもらえたら何かしら前に進めると思うので、希衣もモニカ選手という一流の選手とお話しすることで前に進めたと思います。
希衣はモニカ選手と話して何を感じたのでしょう?
武田:モニカ選手はチャーミング。とにかく魅力的な方なので、明るく前向きに進む影響を受けて希衣も同じように「私も頑張ろう」という気持ちになったと思います。
モニカ選手への取材のなかで、他に武田先生ご自身の創作活動に刺激を与えた部分はありますか?
武田:音楽を聴く話がすごくおもしろくて。試合の前に「パドルのタイミングを一定間隔にそろえるために、けっこう激しめの洋楽を聴いて体のリズムをつくってレースに出ます」という話をされていて(小説の)5巻に反映させましたね。
「ながとろ高校の部員たちが、モニカ選手をかっこいいと思うだろう」とおっしゃっていましたが・・・
武田:かっこいいと思います。たぶん漕いでいるところを見たら「キャー」ってなっちゃう。ヒーローですよね。高校生の子たちにとってプロの選手はヒーローだと思うし、大人になると純粋な憧れとかの観点がどんどん抜けてしまうけれど、シンプルに最初に出る感情が「かっこいい」だと思って。なので、脚本は「かっこいい」を軸に考えました。
『君と漕ぐ』を書かれたときに「カヌーをやる人たちをもっと増やしたい」とおっしゃっていましたが、今回はいかがですか?
武田:そうなったらうれしいですね。最初に企画書をいただいたときに、教育テレビで学校の授業中に見ると知って。ということは、小学生の子などがこのアニメを見て「カヌーってこうなんだ」と思ったり乗ったりするきっかけになるかもしれないなと。
『アニ×パラ』はパラスポーツの普及や共生社会の実現を目指して作られています。そういったことに対する思いはありますか?
武田:難しいですよね。でも例えば、障害のある方にやさしい環境は健常者の方にもやさしい環境だと思っていて、おそらくパラカヌー選手にやさしい環境はカヌー選手にもやさしい環境だと思うんです。人にやさしい環境は結局、全員に恩恵があると思っているので、どんどんそういう考えが増えて、パラカヌーが乗れるところも増えてカヌーが乗れるところも増えるというような形で、いろんなところがみんなにやさしい環境になっていったらいいなと思います。
障害者だから、ではなくて。
武田:そうですね。例えば、車いすの方に親切なスロープはすごく助かりますけど、別の方が困るかというとそうではない。キャリーケースやベビーカーの人も助かると考えると、困っている方をより便利にしていくことで結果的にみんなが幸せになる。それはすごくすてきなことだと思うので、そういう社会になっていったら幸せだと思いますね。今回のアニメは、パラカヌー選手もカヌー選手も、どちらも同じ環境で楽しめることそのものがひとつのメッセージと思っています。