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災害時に“びわ湖”活用 「湖上輸送」で被災地に物資を

  • 2024年04月11日

     

    能登半島地震では、被害を受けた地域につながる道路が被災し、物資の輸送に大きな支障が生じました。

    これを受けて、滋賀県が道路の代わりに使おうとしているのが「びわ湖」です。
    船に人や物資をのせて、びわ湖を移動する「湖上輸送」、その方法や課題を取材しました。

    (大津放送局/記者 森将太)

    能登半島地震では道路が被災

    元日に発生した能登半島地震は、石川県で最大震度7、富山県で最大震度5強の揺れを観測。
    多くの家屋が被害を受け、被災者は今も避難所や宿泊施設などで避難生活を続けています。

    この地震で、主要な道路の一部が崩落して物資の輸送に支障が生じたほか、土砂崩れで道路が寸断し、孤立状態になった地域もありました。

    滋賀県は「湖上輸送」検討へ

    災害時に道路が使いづらい状況でも、人や物資を円滑に運ぶため、滋賀県が本格的な検討を始めるのが、びわ湖を活用した「湖上輸送」です。

    上空から見たびわ湖

    「湖上輸送」とは、地震などで道路が被災した際、「ミシガン」や「ビアンカ」などの観光船や、漁船に人や物資をのせ、びわ湖を移動して輸送する手段で、全国的にも珍しい取り組みです。

    観光船「ミシガン」

    船に防災倉庫、浄化装置も

    「湖上輸送」で活用が期待されているのが、県の学習船「うみのこ」です。災害時に最大およそ370人を運ぶことができます。

    学習船「うみのこ」

    ふだんは、県内の小学生が1泊2日で乗り込んでびわ湖をめぐり、環境や文化について学んでいます。

    6年前(2018年)、初代に代わって運航を始めた新たな「うみのこ」には、東日本大震災を受けて防災設備が加わりました。

    「うみのこ」を運営する県立びわ湖フローティングスクールの川端義和さんが案内してくれたのは、船の底の部分に設けられた「防災倉庫」です。

    防災倉庫

    3トントラック12台分の物資が積み込め、被災地に運ぶことができます。

    浄化装置

    さらに、災害時に飲み水に困った時に使える設備もあります。船内の操だ室付近に設置されている浄化装置を使うことで、びわ湖の水を1時間に2000リットルろ過・殺菌し、飲めるようになります。

    県立びわ湖フローティングスクール 川端義和さん

    「滋賀県にはびわ湖があるので船を最大限活用できるように防災機能を備えました。能登半島地震の時は船がかなり活躍したと聞いているので、船ならではの機能を生かして必要なところに必要なものが届けられるように物資輸送に役立てられてほしいです」

    「湖上輸送」に向けて

    「湖上輸送」をどう実現するのか。3月、県の防災担当の職員が集まりました。

    県は阪神・淡路大震災をきっかけに「湖上輸送」の検討を始め、いずれも平成8年に「滋賀県漁業協同組合連合会」、「琵琶湖汽船」、「近江トラベル」の3団体と協定を結んでいます。その後、実際に船を使って住民を避難させる訓練も行いました。

    そして、県の地域防災計画では、行政や民間が所有する県内18か所の港や揚陸施設を、「湖上輸送」の拠点に指定しています。

    湖上輸送拠点一覧

    しかし、「湖上輸送」の実現に向けては、まだ課題も多く残されています。

    拠点とした18か所のうち、大津港や彦根港など4か所は県が管理している港のため、水深や耐震化の状況、燃料供給ができるかなどが分かっています。
    しかし、それ以外の14か所は、民間の会社や漁協、それに団体などが所有していて、県が管理しているところに比べて、詳細を把握できていないといいます。
    能登半島地震では、多くの漁港で海底が隆起したり、岸壁が壊れたりするなどの被害を受け、船が出港できない状態の港もありました。まずは、災害時に使用できる港や揚陸施設などの機能を、正確に確認することが必要です。

    また、災害が起きたとき、実際にどの船を使うことができるのかを割り出す必要があり、何をどのように運ぶのかは、まだこれからとなっています。

    このため、県は今年度の当初予算に1000万円を計上し、「湖上輸送」の実現に向けて、本格的な調査や検討を行うことにしています。

    滋賀県防災対策室 野瀬千晴室長(取材当時)

    「能登半島地震が発生して滋賀県からもすぐに応援に行きましたが、人や物資を迅速に輸送するのが非常に難しかったという経験をしました。それを踏まえて、県内においても適切かつ迅速に人や物を輸送できるように考えておく必要があります。

    滋賀県は真ん中にびわ湖があるので、地域特性を生かした適切な輸送を考えていくのが重要です。災害はいつ発生するか分からないので日頃からできること、県内の港や台船を含む船の現状調査や検討を進めておくことが大事ですし、県民の安全と安心を守るために県の防災力を高めていきたいです」

    取材を終えて

    私は3月3日までの10日間、石川県輪島市などに取材に行きました。発生から2か月がたっていても、現地に向かう道路では地割れや崩落の痕跡がそのまま残っていて、ボランティアを現地に運んだり、物資を輸送したりするのに課題を感じました。

    滋賀県でも、びわ湖西岸の活断層を震源とする大規模な地震が起きるおそれが指摘されていますし、びわ湖の周囲を走る幹線道路が被災するかもしれません。
    輸送手段を失わないためにも、「湖上輸送」の議論を具体的に進めてほしいと思います。

      • 森将太

        大津放送局・記者

        森将太

        2023年入局
        滋賀県出身で、びわ湖では、これまで釣りなどのレジャーを楽しんできました。そのびわ湖が災害時の切り札に。どのように実現するのか、今後も「湖上輸送」の課題に迫っていきます。

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