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広がるフリースクール支援

  • 2024年04月10日

    不登校など、何らかの理由で学校に行くことが難しい子どもたちに、学習や体験などの活動の場を提供する民間の施設「フリースクール」。

    「学校」とは認められておらず、利用するには、利用料がかかります。これまで、フリースクールを利用する家庭や、施設に対する支援は、ほとんどありませんでした。

    滋賀県内では、去年(2023年)、県が開いた不登校支援を考える会議で、東近江市の小椋正清市長が「文部科学省がフリースクールの存在を認めたことにがく然としている」などと発言し、物議を醸しました。

    県内のフリースクールなどで作る団体は、市長に発言の撤回などを求め、その後、市長は発言について謝罪しています。この発言をきっかけに、フリースクールの議論が活発化したのです。

    NHKでは、県内19のすべての自治体に今年度(令和6年度)のフリースクール支援の施策について取材しました。その結果、昨年度(令和5年度)と比べて、自治体のフリースクールへの支援が広がっていることがわかりました。

    (大津放送局/記者 藤本雅也)

    令和5年度は6市町が利用家庭に支援

    令和5年度、フリースクールを利用する家庭に対して、金銭的な支援を行っていた自治体は以下の6つの市と町でした。これらの自治体は、いずれも、今年度(令和6年度)も継続して支援を行う予定です。

    ▽草津市   上限4万円/月 295万円計上
    ▽甲賀市   上限4万円/月 336万円計上※利用料に加えて交通費(上限1万円/月)も補助)
    ▽近江八幡市 上限4万円/月 360万円計上
    ▽彦根市   上限3万円/月 108万円計上
    ▽米原市   上限4万円/月 100万円計上 
    ▽日野町   上限5000円/月 84万円計上                      (いずれも子ども1人あたりの補助額)

    フリースクール利用家庭への支援 今年度は9市町に

    そして、東近江市を含む3つの市が、今年度(令和6年度)から新たに支援を行う予定です。

    ▽東近江市 1人あたりの補助額は未定。300万円計上
    ▽守山市  上限4万円/月 240万円計上
    ▽湖南市  上限4万円/月 75万円計上
    (いずれも子ども1人あたりの補助額)

    東近江市は支援を決めた理由について、文部科学省が去年(2023年)11月、都道府県に対して「不登校の児童生徒への支援は、学校への登校だけを目標とするものではない」などとする通知を出したことなどを踏まえたとしています。

    また、湖南市は令和4年度から、守山市は令和5年度から支援に向けた議論を始めていたということです。

    県内初 近江八幡市は施設にも支援

    さらに、新しい動きも。フリースクールを利用する家庭への支援に加え、近江八幡市は、今年度、県内で初めて、600万円をかけて、フリースクールを運営する事業者を支援します。

    市内在住の児童・生徒を2人以上受け入れていることなど、市が「認定」した一定の要件を満たしている市内のフリースクールが対象で、運営にかかる経費の半分について年間200万円を上限に補助する予定です。

    近江八幡市によりますと、おととしから、市内の子どもが通っている市内外のフリースクールと教育委員会との意見交換会を年2回行っていて、その場での意見を踏まえて、新年度から事業者への支援を決めたといいます。

     

    フリースクール運営のNPO「寄り添う姿勢示してくれた」

    フリースクールを支援する施策が少しずつ広がっていることについて、近江八幡市でフリースクールを運営するNPO法人「Since」の麻生知宏 代表理事に聞きました。

    麻生知宏 さん

    「(東近江市長の)あの発言を振り返ると、社会全体が不登校について考えるきっかけになったと思う。東近江市が大きく理解しようという姿勢を見せてくれたのかなと思う」

    また、近江八幡市が県内で初めてフリースクールの運営を支援する費用を予算案に盛り込んだことについては。

    「質の高い学びの場を提供するために運営や資金繰りが厳しい団体が多数あり、大変ありがたい。私たちもスタッフの人件費を抑えて運営しているのが実情なので、行政からの支援はこの場を提供するためにも価値がある」

    県内でフリースクールを利用する家庭への支援が広がっていることについて。

    「市長の発言によって議論が活発になっていると捉えている。ひとまず不登校で悩む子どもや保護者に行政が寄り添う姿勢を示していただけたと感じるが、これで終わるのではなく、行政や現場の僕たちに何が出来るかを考えて話し合っていく必要がある」

    取材後記

    東近江市の市長の発言には当時、多くの批判の声も寄せられましたが、結果的に県内でのフリースクールの議論は、この発言を経て活発化しました。

    支援が広がりつつある背景の1つは、市長の発言の直後、フリースクールの団体でつくる協議会が、発言の謝罪や撤回に終始することなく、「対話を進めていく」姿勢を示し、この一件をフリースクールへの理解を深めるきっかけにしようと動いたことだと思います。

    今回、取材した自治体の中には、「新年度の当初予算案には盛り込めなかったが、支援の必要性は感じていて、議論を始めている」と回答したところもありました。

    フリースクールをめぐっては、7年前(2017年)に施行された「教育機会確保法」で学校以外の場での学びの重要性が明記されています。行政からの財政的な支援の広がりは歓迎すべき取り組みだと思いますが、同時に、育った環境や境遇などが異なる1人の1人の子どもたちにとってどんな教育の場を確保していくのか、考え続ける必要があると感じます。

      • 藤本雅也

        大津放送局彦根支局 記者

        藤本雅也

        2002年入局
        岡山→沖縄→国際部→ブラジル→高知→NHKWORLDと渡り歩いて2022年に滋賀にたどり着きました。滋賀の温かい人たちにお世話になりながら、「保護猫」と「農ある生活」を愛でる日々です。

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