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もしも性犯罪にあったら…支援の体制は

  • 2024年01月17日

 

去年(2023年)、性犯罪に関する刑法の規定が大幅に見直され、「同意のない性行為」が犯罪になり得ることが明確になりました。

国は、性犯罪の被害者からの相談を受ける窓口となる「支援センター」の整備を進めてきていて、滋賀県では9年前に「SATOCO」(さとこ)という名称でセンターが設置されました。

病院、警察、それに民間の犯罪被害者の支援団体などがSATOCOの運営に参加し、互いに情報を共有することで、被害者に総合的な支援を行っています。

誰もが遭遇する可能性のある性被害。もしも被害にあったとき、どのような支援を受けることができるのか。
被害者に手厚い支援を続けてきた滋賀県の現場と課題を取材しました。

(大津放送局 記者 秋吉香奈)

《必要な支援を1か所で》

SATOCO相談員 松村裕美さん

「SATOCO」の相談員、松村裕美さんです。

長年、県内の民間機関で犯罪被害者の支援にあたってきた松村さん。
性犯罪の被害者にとって、病院や警察などで何度も被害について説明することが大きな負担になっていると感じ、9年前、中心となってSATOCOを立ち上げました。

SATOCO相談員 松村裕美さん
「被害者が警察で『こんな格好をさせられました』とか、『こんなふうに脱がされました』とか、被害の状況について何度も説明するのを見て、被害者にとってあまりにも負担が大きいと感じました。ひどい被害にあって、病院でとてもつらい治療をして、やっと終わったと思った人がまた違うところに行って、最初から話をするなんてことは、普通に考えて耐えられないと思いました。なんとか、1か所でまとめて話を聞いて、さまざまな機関が情報を共有し、被害者に総合的な支援を行えるシステムを作りたいと思い、SATOCOの立ち上げに参加しました」

《万が一 被害にあったら…》

SATOCOの運営に参加するのは、病院、警察、県、それに民間の犯罪被害者の支援団体の4者です。

もしも、性犯罪の被害にあったら、SATOCOでどのような支援が受けられるのか。
設立以来、SATOCOが重視してきたのが、▽情報共有による被害者の負担軽減と、▽365日24時間の相談体制です。

相談を受ける専門の看護師

被害者が専用のホットラインに電話をすると、滋賀県から委託を受けた拠点病院の看護師が被害の状況を聞き取ります。看護師は全員、性犯罪被害者の支援について研修を受け、専門の資格を取得しています。

24時間の相談体制は全国でも半数以下にとどまります。

緊急性が高いと判断すれば、直ちに医師と情報が共有されます。
被害者は、病院で治療や緊急避妊薬の処方を受けられるほか、希望する場合は証拠を採取してもらうことができます。

南草津野村病院 野村哲哉 院長

SATOCOの拠点病院である南草津野村病院の野村哲哉院長は、迅速な対応のためにも24時間相談を受け付けることが大切だと話します。

南草津野村病院 野村哲哉 院長
「性感染症の治療薬の投与や証拠の採取は早ければ早いほど望ましいです。特に緊急避妊薬は被害を受けてから72時間以上たつと効果が薄れてしまうので、夜間や休日でもすぐに被害者に対応したい。そのために、365日24時間の相談体制は欠かせません」

何度も被害状況を説明しなくていいように、被害者が同意すれば病院から警察にも情報が伝えられます。

SATOCOの各機関で共有される問診票

被害者が希望する場合は病院に警察官が駆けつけ、その場で被害の相談をすることもできます。この間も、専門の看護師が付き添います。

さらに、民間の支援団体にも情報が共有され、心のケアや生活・裁判の支援などを受けることができます。

さまざまな機関が情報を共有し、一体となって、きめ細やかな支援を行うSATOCOの体制は「滋賀県方式」と呼ばれ、全国のモデルになってきたといいます。

2022年度の相談者数は170人で、発足当時に比べて2倍以上になっています。

《手厚い支援も課題が》

性犯罪の被害者に手厚い支援を続けてきたSATOCO。
しかし、相談が増加するなか、さまざまな課題に直面しているといいます。

その1つが、24時間で対応にあたる拠点病院の看護師の負担です。

担当の看護師は交代で、被害者からの連絡を受ける専用の携帯電話を持ちます。
去年から人数が増えて9人になりましたが、多いときには1か月で90件ほどの電話が入ることもあり、24時間の体制をとり続けるにはぎりぎりの状態だといいます。

看護師には対応状況に応じて手当が支払われますが、職場や自宅で連絡を待つ“待機中”は1時間あたりに換算すると180円から360円程度。
負担に見あう手当ではなく、いまのままでは手厚い支援を維持できるのか不安を感じるといいます。

南草津野村病院 西川貴子 看護部長
「専門の資格を持った看護師が当番制で携帯電話を持つようにしています。仕事中に電話が鳴るかもしれない。それからプライべート、家に帰ってからも、家に帰る途中もあるんですが、電話が鳴るかもしれない。いつ鳴るか分かりません。将来SATOCOを続けていくというのであれば、手当に関するところは重大な課題であって、今の状況で続けていけるかどうかというのは、ちょっと私は不安を感じる部分はあります」

看護師だけでなく、支援にあたる民間団体のスタッフも不足しています。

被害者の生活支援や心のケアなど、年間2000件にものぼる“支援業務”にあたる、常勤のスタッフはわずか2人。
足りない部分はボランティアで対応していますが、負担は極めて大きくなっているといいます。

こうした中、滋賀県は今年度から関連する予算を増やし、看護師や相談員の処遇の改善に乗り出しました。
今後は、人材の育成にも力を入れていきたいとしています。

だれもが遭遇する可能性のある性被害。被害者を支えるために、さらなる体制の強化が必要だと松村さんは訴えます。

SATOCO相談員 松村裕美さん
「性被害がいつ誰に起こるかわからない状況で、こういうセンターはずっと必要だと思っています。支援体制を維持するために、看護師や相談員がふつうの働き方ができるなかで、きちんとした支援をできるシステムを作っていかなきゃいけないなと思っています」

SATOCO 相談窓口

SATOCOでは被害にあった直後だけでなく、過去に受けた被害などについても、性別を問わず相談を受け付けています。

24時間対応の電話番号は090ー2599ー3105。
また、メールでも相談を受け付けています。

相談員の松村さんは「性犯罪の被害にあうと、自分にも落ち度があったかもしれないと責めてしまう人も少なくありませんが、被害者は絶対に悪くありません。いつでも相談してほしい」と呼びかけています。
 

  • 秋吉香奈

    NHK大津放送局 記者

    秋吉香奈

    2022年入局 警察・司法を担当
    警察からは日々、性犯罪事件が発表されますが、その一方で被害者の支援体制がどうなっているのかを知りたいと思い取材を始めました。
    性暴力のない社会の実現につながるよう、今後も取材を継続したいと思います。

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