2023年11月29日 (水)
76年ぶりの里帰り
大阪出身で現在はハワイに住む88歳の女性。
11月、76年ぶりに里帰りしました。
かつて住んでいた家を探しながら街を歩くと、知人とも思いがけず再会。
あたたかな交流が生まれました。
(大阪放送局 記者 的場恵理子)
故郷を離れてハワイへ
ハワイ在住の石田邦子さん(88)。
邦子さんは大阪で生まれ、12歳まで富田林市で育ちました。
ハワイの留学時代の邦子さん
昭和22年に、両親のふるさと沖縄に家族で引っ越しましたが、19歳の時にひとりでハワイに渡航。
現地の高校や大学で語学などを学びました。
夫や子供、孫との写真
その後、日系アメリカ人の男性と結婚し、家庭を築きました。
長い間、富田林市を訪ねる機会はありませんでしたが、年を重ねるにつれ、幼少期を過ごした故郷を再び訪ねたいと思うようになっていました。
石田邦子さん
「富田林市のことはいつも思っていましたが、これまで行くチャンスがありませんでした。なので、息子が『どこでも連れて行ってあげるよ』と言ってくれた時に、『それなら富田林市に行きたい!』とリクエストしたんです」
“母の家を探して”
邦子さんの息子 モリスさんは、母がかつて富田林市で暮らしていた家を探せないかと考え、情報収集を始めました。
そこで偶然見つけたのが、富田林市寺内町を英語で紹介するサイト。
寺内町は邦子さんがかつて住んでいた場所です。
モリスさんはこのサイトの作成者に「母の家を探して、里帰りをサポートしてほしい」とメールを送りました。
メールを受け取った奥谷直也さん。
ボランティアガイドとして地域を盛り上げようと、会社員時代に駐在員として培った英語力を生かして、英語で地域の魅力を発信しています。
奥谷直也さん
「メールを受け取った時は、よくこのサイトにたどり着いてくれたなと驚きました。モリスさんの『お母さんが元気なうちに富田林市の家を見せたい』という親孝行な思いに心を動かされ、協力したいと思いました」
邦子さんの家を見つけ出せ!
寺内町は江戸時代の建物が残るエリアで、大阪府内で唯一、伝統的建造物群保存地区に選ばれています。
奥谷さんは、邦子さんが暮らした家も残っているのではないかと考えました。
そこで、ガイド仲間に協力を依頼したところ、邦子さんが暮らしていた昭和10年代の町並みを記した地図を見つけました。
邦子さんの旧姓は「宮城」。
家は理髪店を営んでいました。
地図をくまなく見ていくと…
そこには「宮城理髪店」が!
奥谷さんはすぐにモリスさんに連絡。
邦子さんの里帰りが実現することになりました。
奥谷直也さん
「本当に理髪店があったんだと驚き、うれしい気持ちになりました。すぐにハワイのモリスさんに伝えました」
76年ぶりの実家へ
そうして迎えた11月。
邦子さんは76年ぶりに富田林市に戻ってきました。
モリスさんが押す車いすに乗って、奥谷さんの案内を受けながら、かつての家を目指します。
その途中、邦子さんが突然
「寺元さん!」と、笑顔で声をかけました。
そこには、かつて2軒隣の家に住んでいた男性がいました。
かつての少年も今は91歳。
邦子さんにかけたことばは…
「えらい若いな」
邦子さんも「まだ80代。若いですよ」と応じました。
76年たった今でもその場所には・・・
そうしてたどり着いたかつての家には、今も理髪店が!
邦子さん一家が去ったあとも、ここでは別の人がかわるがわる理髪店を営みつづけていたのです。
現在の店主である男性も、邦子さんを快く迎えてくれました。
「76年ぶりにここにいらっしゃって、帰ってきはったわけだから、お帰りなさいという感じですね」
お店に入ると、近くに住んでいた人や幼なじみも集まってくれました。
建物の構造は76年前と変わりないと聞き、邦子さんは「窓から二上山や金剛山を見ていた」と懐かしそうに話していました。
また、向かいの家に住んでいた男性とは、「(邦子さんの)弟と家の前でよく遊んでいた」などと、昔話に花を咲かせていました。
モリスさん
「母の家を見つけてくれて本当に感謝しています。最初来たかった時は、母の家が見つけることができるか分からなかった。母のルーツを見つけることができて幸せです」
石田邦子さん
「本当に来ることができてよかったです。また富田林市に何度でも帰ってきたいです。本当にみなさんにお世話になりました。ありがとうございました」
76年ぶりの里帰り。
邦子さんを包んだのは、月日がたっても変わることがないふるさとのあたたかさでした。