しあわせニュース

2023年02月03日 (金)

大阪 西成区 おっちゃんが空き缶で作る"自分の居場所"

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部屋に山積みになっていたビールの空き缶。
それが子どもにも人気のアート作品に生まれ変わりました。

作者はこれまで芸術とは無縁に過ごしてきた大阪・西成区のおっちゃん。
作った理由をたずねると、意外な答えが返ってきました。

(大阪放送局 しあわせニュース取材班 高野祐美)

 

段ボールが敷き詰められた空間で…

大阪市内で開かれている一風変わったアートの作品展。

会場には段ボールが敷き詰められていて、空き缶やチラシなど身近な物を使った作品が所狭しと並びます。

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作ったのはいずれも大阪・西成区のおっちゃんたち。
壁や天井には、半紙や段ボールに独特なメッセージがつづられていています。

「野垂れ死に」
「くよくよするな男じゃないか」
「苦しんだぶん底抜けに明るいおっちゃん」

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その自由さにただただ圧倒されます。

「幸せのラインなんか決まってないねん」

会場で子どもたちに人気の作品がありました。
ビールの空き缶で作られたからくり人形です。

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通天閣をイメージして作られ、手が動いて、ひたすらビールを飲み続けます。
作者は仲間から「からくり博士」と呼ばれる武さん(75)です。

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ビールが大好きな武さん。
1日6本は飲んでいて、いつも部屋には空き缶が山積みになっていました。

そんなある日、これを使って作品を作ればお金になるのではないかと思いつきます。週の半分は図書館に通い詰めて、作り方を勉強しました。

「小さい通天閣を持って行ったらほめてもろたわけや。これはすばらしい。人間ほめられたら頭なでてもろたら、なんぼ年いってもうれしいもんや」

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作品を1体作るのに半年かかるそうで、実際、お金になることはほとんどありません。ただ、作品はみんな笑顔であふれています。

「人前で暗い顔してたらあかん。周り暗くするがな。常に俺は笑顔や。心は泣いてんねんで。幸せのラインなんか決まってないねん。自分が決めるねん。自分が幸せじゃないのに、人を幸せにできひん」

いつしか作品は、お金のためではなく自分のために作るようになりました。
作品を見た人たちの反応が、今のやりがいにつながっています。

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「人間なんぼ年取ってもね。自分の居場所がほしいわけやな。社会とね。どんな細い糸でもいいからつながっていないとアカン、という考えで作っとる。これを作らな、俺は社会との存在感が無くなるわけや。これ作るからこそ、俺のまだ生きている存在感があるわけや」

「ここには芸術の源泉みたいなものが」

おっちゃんたちがアートを生み出すきっかけになったのは詩人の上田假奈代さん(53)です。

西成区のあいりん地区の商店街の一角で、ゲストハウスとカフェを営んでいます。

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入り口には「釜ヶ崎芸術大学」の文字が。

ここにつどうおっちゃんたちと一緒にオペラを開催したり、合唱を披露したり。街全体を舞台にアート活動に取り組んでいます。

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「ここには芸術の源泉みたいなもの、根源みたいなものがあるんちゃうかな。心の苦しみやいろんな苦しみをほどきながら表してくれるものは、心打つものやし、ぐっとくるし。少なくとも私は励まされた」

小さなこと積み重ねたら大きな幸せに

上田さんとの出会いで、生きる場所が見つかったと話す人がいました。
慶次郎さん(67)です。

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慶次郎さんは、かつて会社を経営していましたが、多額の借金を背負い、路上生活を経験したこともあるといいます。

いろんな場所を転々とする中で、上田さんから言われた言葉が今も忘れられません。

「放浪の旅に出るわと言ったら、ふっと振り返って『あんたには帰るところがあるんやで!』って大きい声で怒られて。それは幸せさ。怒ってくれる人なんて、絶対おらんもん」

何かできることはないか。
慶次郎さんが欠かさず行っているのがトイレ掃除です。

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上田さんから飽きっぽいと言われましたが、2年続いています。
慶次郎さんにとっては自分を見つめ直す時間。
掃除終わりに、入れてもらうコーヒーを飲むのが何よりの楽しみだと言います。

みんなで詩を作る時間。慶次郎さんが詠んだのは…
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「ゴロンコロンと転がって落ち着きはらって夢ん中」

慶次郎さんの詩には、ありのままの気持ちがつづられています。

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「出会いを生かすも本人次第。この出会いを大事にしたいなと思って、今まで生きとる。小さいことを積み重ねたら、自分にとって大きな幸せになっていくやん。それで十分や、欲張ったらあかんで。けっして諦めず、けどあせらんでな。生きているのも表現の1つ。生き姿はすべて表現になるんちゃう」

取材して感じた「幸せ」の言葉の重み

取材した私も、初めてアートを見たときに心が動きました。

ビールの空き缶や、チラシや、画用紙がこんなにおもしろい作品になるんだと驚くとともに「私には作られへん、真似できひんな」って感動しました。

作品を作ったおっちゃんたちは個性的で楽しい方たちでしたが、これまでに苦労したことなども話してくれました。

でも、そんな経験もアートに変えていたんです。

そして何よりも、おっちゃんたちの口から語られる「幸せ」という言葉にとても重みを感じた取材でした。