しあわせニュース

2022年07月20日 (水)

"ライオンを飼わない"動物園のしあわせニュース

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100年以上にわたり動物園の人気者だったライオン。
しかし今、その姿はありません。
そこには訪れる人だけでなく、動物たちも幸せになってほしいという動物園の思いがありました。

(大阪放送局しあわせニュース取材班 小野田真由美 足立ひかり)


ライオンの飼育は行いません

「今後、京都市動物園では、ライオンの飼育は行いません」

来年120周年を迎える京都市動物園。上野動物園に次いで日本で2番目に古い動物園です。しかし「もうじゅうワールド」にライオンの姿はありません。

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明治43年に国内で初めてライオンの繁殖に成功するなど、長年ライオンを飼育してきた京都市動物園。最後の一頭となったのは、おととし、国内最高齢の25歳10か月で死んだオスのナイルです。

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人間で言えば、100歳以上。老衰し、ほとんど寝ているような状況でした。どう看取るべきか、動物の幸せとは何か考えたといいます。

市街地にある京都市動物園。ライオンの飼育スペースは限られていました。本来は群れで生きるライオンのため、スペースを広げられないならばと、新たにライオンを飼育しないことを決めました。

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京都市動物園 長尾充徳学芸員
「“動物ファースト”の考え方で。ライオンやゾウは非常に人気のある動物。いなくなってしまう動物園が果たしてどうなのか?という議論はあるが、動物が幸せに本当に暮らしていけるかどうかが、一番のポイントになるのかな」

ジャガーの獣舎が2倍に

ライオンを飼わないという決断は、他の動物の幸せにもつながっています。
ライオンが入っていた獣舎をジャガーのスペースに拡充。

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獣舎の広さはおよそ2倍に広がり、エサもいろいろな場所で食べられようになりました。

フラミンゴには仲間を
工夫は、園内の至る所で見ることができます。

例えば、フラミンゴ。野生では大群で暮らしています。限られたスペースで、どうすれば多くの仲間が集められるのか。そこで動物園が考えたのがこちら。

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 気づきましたか。展示スペースに大きな鏡を設置しました。

たくさんの仲間がいるように見えるため、フラミンゴが安心できるといいます。

動物の元気な姿を見るために
動物たちが幸せに暮らすからこそ、私たちに元気な姿を見せてくれます。

ペンギンの展示スペースに置かれているのは人工芝や大きな岩です。

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もともと急斜面の岩場を歩いているフンボルトペンギン。平らな所ばかり歩いていると同じ所に力が集中し、足の裏に「たこ」のようなものができ、炎症の原因になるといいます。

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そこで様々な場所を歩いてもらうため、職員が手作りで足場を作ったのです。

職員たちの思いが通じ、ことし春の健康診断では「たこ」は一つも見つかりませんでした。

元気にいろいろな場所を歩き回る姿が見られます。

ふれあいルームの動物には休憩所を

また、子どもたちに人気の「ふれあいルーム」にも変化が。
モルモットとして親しまれているテンジクネズミが集まっているのは筒状の「休憩所」です。

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穴に入る習性があるため、休み時間を作りました。いわば“働き方改革”です。

この筒の中にテンジクネズミが入っている時は、子ども達に触らないように呼びかけています。
きっかけは、コロナ禍。ふれあいを休止したところ、動物園の獣医が診療する数が半減しました。ストレスが減り、健康でいてくれるからこそ私たちにふれあう喜びやぬくもりを教えてくれます。
京都市動物園 長尾充徳学芸員

「動物の幸せも考慮しながら人も動物の関わり方を学ぶべき転換期に来てるのかな。この動物幸せに暮らしているのかな?どうなのかな?”という視点で見てもらえたら」

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来園者も好意的に受け止めています。

「触れる子と触れない子とはいるが、それもしょうがない。ストレスで弱っちゃうよりいい」

「子どもたちも“動物も疲れることがあるんやな”というのも分かったらいいかなと思う」

動物のためにできることを

こうした動物が快適に暮らせるような工夫は「環境エンリッチメント」と呼ばれ、全国の動物園で実施。京都市動物園は、昨年度「エンリッチメント大賞」に選ばれています。

ほかにも、大阪の天王寺動物園では、今年4月、ヒツジやヤギなどの「ふれあい広場」を「ふれんどしっぷガーデン」にリニューアル。動物に触れるのは、近寄ってきた時だけで、触ることよりも動物への思いやりを重視しています。

訪れた人は、飼育員と一緒に動物のおやつを準備したり、説明を聞きながら観察したり。動物の気持ちを考える機会になればと考えています。

動物園は人が動物に親しむ場所だけではなく、動物の幸せも合わせて考えられる場所へ。

夏休み、動物園に出かけるときは、動物のためにどんなことをしているのか、調べてみてはいかがでしょうか。