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2023年02月16日 (木)

冬アイス 値上げをしても 寒くても 売れ続けるの なんでなん?

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寒い冬。暖かい部屋で冷たいアイスを口にしてほっと一息。

物価高による値上げの中でも、冬のアイスは売れています。
冬に食べたくなるのなんでなん?
社会の変化から人体のしくみまで、深い理由がありました。

(大阪放送局 なんでなん取材班 木村光佑 西川龍朗)

 

季節を問わず

みなさん、冬にアイス食べますか?
大阪で聞いてみました。

「寒いけど食べちゃう。夏に熱いラーメン食べるのと一緒」(20代女性)
「暖かい部屋にいると冬でも食べたくなっちゃう。風呂上がりとか」(40代男性)
「がんばった自分へのごほうび」(20代女性)

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うーん、よくわかります。

大手メーカーが2016年に行った調査でも、98%の人が“冬でもアイスを食べる”と答えているということです。

今回、取材を行ったのは2月。大阪市内のスーパーマーケットに行ってみると、豊富な商品が並んでいました。

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この店のアイス売り場は年間を通じて同じ面積。
冬の売り上げは夏と比べて4対6にまで迫っています。

物価高の中でアイスの値上げも相次いでいますが、この冬も各月の売り上げは前年比10%以上伸びているということです。

ライフコーポレーション チーフバイヤー 野見山峻充さん
「伸び率は夏よりも冬の方が大きいです。冬は、家族で食べる箱物や単価の高いプレミアム系がとくに伸びています」

日本一のアイス好きに聞いてみた

冬のアイス人気はどうして高まっているのか?

私たちが訪ねたのは「日本アイスマニア協会」の代表理事、アイスマン福留さん。

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SNSフォロワー22万人越えのインフルエンサーで、年間1000種類以上のアイスを食べるという“日本一のアイス好き”です。

実は、冬アイスには長い歴史があると言います。

アイスマン福留さん
「冬のアイス市場を盛り上げようというメーカーの動きは1950年代からありました。クリスマスケーキの需要にあわせてアイスクリームのケーキを販売していました。ほかにもこたつに入ってアイスを食べるテレビCMがあったり、様々な取り組みによって需要が開拓されてきました」

そのうえで、流行が本格化したのは7、8年前だと指摘します。

総務省の家計調査でも、2011年から2021年までの10年間で冬場のアイスの支出額は1.5倍に増えました。

アイスマン福留さんは、背景の一つとしてSNSがあると言います。

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「最近は見た目も華やかなアイスがたくさん登場しています。個人の方が、ビジュアルも楽しんで、好きなアイスをSNSで発信しています。コミュニケーションとしてみんなで冬アイスを楽しんでいると思います」

そして“熱く”語ったのは、冬アイスの味。

「冬アイスは夏のアイス以上に、各メーカーが味わいにこだわっています。だからアイスマニアにとっては冬こそ旬なんです!」

メーカーの戦略は濃厚&なめらか

メーカーにその戦略を取材しました。

各社が冬に力を入れているのは、単価の高い贅沢な味わいの商品。
さっぱり感が強い夏のアイスに対し、“濃厚さ”や“なめらかさ”を重視して差別化をはかっているといいます。

同じ商品でも冬は牛乳の成分を増やしているため、乳成分量による種類が「氷菓」から「アイスクリーム」に変わるものもあります。

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森永乳業 マーケティング開発部冷菓マーケティンググループ 山本雄大さん
「年間を通じて販売している商品も冬場だけは特別仕様にしています。乳成分量を増やして“濃厚”にしたり、製造過程で空気の量を調整して“なめらか”なものにしたりしています」

さらに、冬アイスは安定した売り上げが期待できると言います。
暖かい室内で食べられることもあって、夏と異なり天候の影響を受けにくいのです。

各社がしのぎを削って開発に力を入れています。

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森永乳業 山本雄大さん
「『冬にアイスを食べてもらいたい』という思いで、弊社も含め各メーカーがいろんな挑戦をしてきました。お客様に驚きや感動を感じてもらえる商品が、各メーカーの努力によって出てきているのではないかと思っています」

住まいの環境が変わった

メーカーの担当者が教えてくれた冬アイスの背景が、もう1つあります。

日本の住まい環境の変化です。
以前よりも暖かい家に住むようになったから、アイスを求める人が増えたというのです。

冬の住宅で人間が感じる気温「体感温度」のデータがあります。

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1970年代は16度でしたが、その後上昇を続け、2020年には19度に。
時代とともに建物の機密性が高まり、断熱材も発達したためです。

さらに、暖房器具の変化も。
水蒸気を発するストーブは少なくなり、室内が乾燥しやすいエアコンが普及しました。

2010年以降、日本のエアコン普及率は90%を超えました。
ちょうど冬アイスの人気が本格化し始める時期です。
暖かくて乾燥している冬の住宅。
まさにアイスが欲しくなる環境になっていたのです。

人体は冬アイスを欲する?

そんな環境で暮らす私たちにとって冬アイスは合理的な食べ物だという指摘もあります。

食行動に関する脳のしくみに詳しい山本隆教授です。

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畿央大学健康科学部 山本隆教授
「寒い外に出ると体温を上げようとしてエネルギーが不足気味になります。その上で、帰宅して暖かい乾燥した部屋にいると、喉が渇いて冷たいものが欲しくなります。エネルギー源になる脂肪と糖を摂取できて冷たいもの。すべてをあわせ持つのが“濃厚なアイスクリーム”です」

人体が欲する冬アイス。
体だけでなく心にも良い影響があると言います。

冷たくて甘い物を食べると、脳内では快楽物質の「βエンドルフィン」が出てきます。

この物質が出てくると人は幸福感を得られるのです。
本当なのか実験してみました。

「βエンドルフィン」が出ると、ストレスを感じる脳の働きが抑えられ、額付近の血流が低下するということです。

記者の額にセンサーをつけて、血流量を測ります。
血流を安定させるため、無表情を貫きながら、アイスを一口。
暖かい室内で、のども乾いていました。

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「ああ、おいしい…。幸せ…」

食べた直後、確かに血流が低下しました。
自分へのご褒美として食べる人がいるのも納得です。

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山本教授は「食べ過ぎには注意」とした上で、幸福感を得られる冬アイスはストレス解消にも役立つと話していました。

ストレス社会を生き抜くために

実は、今回の取材で話を聞いた皆さんが共通して指摘したことがあります。
ストレスの大きいコロナ禍が、冬アイス人気に拍車をかけたと言います。

今とくに売れているのは、家族や友人とシェアできる小分けパックのアイスだということです。

大切な人と分け合える、ちょっとした幸せ。
ストレス社会を生きる私たちにとって、冬アイスは欠かせないものになっているのかもしれません。

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