かんさい深掘り

2023年12月22日 (金)

子どもの"スマホ依存" 家庭でできることって何?

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「最も多い時は1日20時間、朝6時まで」

これは、ある中学生がスマホやネットをしている時間について語ったことばです。

保護者からやめるように注意されても、一度やり始めると止まらなくなる。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

こうしたスマホやネットに依存傾向のある子どもたちの問題に、真正面から取り組む専門家がいます。家庭で取り組める対策について尋ねたところ、数々の具体的な「作戦」を教えてくれました。

(大阪放送局 ディレクター 近藤伸郎)

 

「スマホ禁止」は逆効果

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       竹内和雄さん  兵庫県立大学 環境人間学部教授  元中学校教員(1987~2007年)

竹内さんは2000年代前半から携帯電話、ゲーム、ネットの課題に取り組み、子どもたち自身がネットについて考える「スマホサミット」を年に30回以上開催しています。竹内さんに、子どもとスマホについて聞きました。

ディレクター:今やスマホなしでは生きられない社会です。大人でさえスマホを手放せないなか、子どもに「スマホ禁止」とは言いづらいですよね?

竹内さんスマホやネットの問題に関しては、親が知らないところで子どもが勝手にやるという構造になっているのが大きなポイントです。そのため親は禁止するしかなく、これまではそれでもよかったのかもしれません。ところが、GIGAスクール構想が始まって、小学校1年生から情報端末を使用することになりました。いまや、2歳児でも6割以上がネットを使っています。

 (GIGAスクール構想:文部科学省が掲げた構想。ICT(情報通信技術)を使った教育を推進するため、小中学校の児童や生徒に1人1台タブレット端末などを配備して授業に活用する)

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竹内さんだから、もはや使わせないことにはなりません。100か0かではなく、30か50か70か、子どもの意見を聞きながら使い方を考えていかないといけないと思います。

ディレクター:スマホのおかげで、いつでも必要な情報を調べることができるなど、「よい部分」もたくさんあると思います。ですが、子どもに与える悪い影響については、分かっていないことも多いと思います。

竹内さん人類が有史以来経験していないことですので、子どもたちが危険にさらされるか、それともすごく可能性があり、もっと使わせたらいいのか、分からない。誰も分からないからこそ、子どもに密着して、何が起こっているか、まず私たちが知る必要があります。そこで、もし不具合があるとしたら、大人は子どもを全力で助けてあげないといけません。

「ネットは社会で不可避だからどんどん使わせろ」も「絶対にアカンぞ」も、どちらも子どもたちにとって非常に失礼な話だと思います。

実は私も、若い教員の頃は「携帯なんて百害あって一利なし」と思っていました。2007年くらいに暴力行為や器物損壊が目立つ学年を担当していたんですけれども、モバイルサイトへの悪口の書き込みがいじめや暴力に発展するなど、子どもたちのトラブルの多くがネットで起きていました。最初は禁止にしましたが、そうしたらもっと状況が悪くなって、子どもたちが私に相談しなくなりました。これは禁止じゃだめだと思ったんです。「使い方を一緒に考えよう」と、授業や生徒会活動で一緒に使い方を考え始めると、徐々に器物損壊などはなくなっていきました。

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       「スマホサミット」をコーディネートする竹内さん

“ネットもいいけれどリアルもいい” スマホやネット利用見直すキャンプ

竹内さんは毎年、子どもたちを対象に、自然や仲間とふれあいながらネットやスマホとの上手なつきあい方を考える「オフラインキャンプ」を主催しています。

参加する子どもたちは、スマホを預けて、自然のなかで自炊をしたり、キャンプファイヤーをしたり、さまざまな活動を行います。

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                              ことし10月に開催されたオフラインキャンプ

対象は、スマホやネットの利用を見直したい小学5年生から高校3年生の子どもたち。キャンプの参加者のなかには、1日最大で20時間ほどスマホやネットを利用するという子どももいました。

保護者からは「学校に行かなくて、やることがないのでゲーム依存になってしまった。何かいいきっかけになれば」とか「スマホに関しては全然言うことを聞いてくれない」といった声が聞かれ、子どもの変化を期待していました。

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          自分のスマホ・ネットの習慣を見直すために話し合う場も設けられている

実はキャンプの間、1日に1時間だけスマホを使っていい時間が設けられています。この1時間は、ネットをやってもいいし、友達などとの遊びを選んでもいい自由時間になっています。現実の楽しさとネットの楽しさ、それぞれを感じ取ってもらうことがねらいです。

初日の夜、参加者9人中、最後まで「スマホ部屋」に残ったのは3人。その翌日はゼロになりました。子どもたちは友達とのカードゲームやボール遊びを選ぶようになっていきました。

メンターとして参加している大学生との交流も通して、子どもたちは、今後自分がどういった生活をしていきたいかを考えていきます。そして最後に「ネットの目標」と「リアルの目標」の2つを立てて、迎えにきた保護者の前で発表し、自宅に帰ります。

極意は“納得させた上で褒める”

竹内さんオフラインキャンプが楽しいといっても、家に帰ってきたら、お父さんやお母さんしかいない。だから家庭でどうするかが非常に重要になります。キャンプでやる気になって帰ってきて、その後いったんはうまくいく子が多い。けれども、そういう気持ちは薄れていくし、ダイエットと同じで、元のもくあみになっちゃうこともあります。だめなときも当然あるから、親の対応のしかたが重要になるわけです。

ディレクター:キャンプに参加していない家庭でも、まずは、スマホを使う時間などのルールを作ることから始めることになると思うのですが、どうすればうまくいくでしょうか?

竹内さん1つ目は、親子で話し合うことが重要です。親が「8時までね」と言ってスマホを渡し、8時を過ぎたら取り上げるというのは、一方的に親が宣言をしただけで、ルールを作ったことにはなりません。ルールはお互いが話し合って納得することが大事です。子どもの思いと親の思いが、最初は平行線でも、折り合いがつくまで話し合わないといけません。

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ディレクター:納得しないと守ってくれないということですね。

竹内さん子どもも夜遅くまで、例えば深夜12時までやっていいとは思っていません。だから、「何時までだと思う?」と、まずは聞いてみてあげて下さい。もし遅い時間を言われたら、「そんな時間だったら、宿題できないんじゃない?」などと伝えましょう。そのうえで「どうする?」とルール作りをしていくといいでしょう。

例えば夜9時にスマホを終わらせたかったら、あえて「8時」と伝えてみてもよいでしょう。子どもは「8時なんか早い、10時」と感じます。そこで「8時か10時か論争」をして、「9時半」→「いいや、8時半」→「じゃあ、9時にしよう」と話し合いましょう。この場合、親は1時間譲歩をしているし、子どもは1時間勝ち取っているわけです。これが話し合いだと思うんです。

2つ目は、立てた目標・ルールができた日は褒めてあげること。例えば、スマホをふだん7時間やっている子どもが6時間50分で10分短くできれば、「うれしい」と言ってあげるんです。すると、子どもは「えっ、こんなんで褒められるの?」と思うわけです。

子どもたちというのは「こうしたらだめ」とさんざん言われています。だけど「こうしたらいい」とあんまり言われていないんです。「こうしたら褒められる」「こうしたらお父さんお母さんが喜ぶ」が非常に重要なんです。明るい瞬間みたいなものをつかの間だけでも作ってあげられたらいいんじゃないかと思います。

ディレクター:とにかく褒めればいいんでしょうか?

竹内さんもちろん、浅い気持ちで褒めると、ばれて、余計に心が閉じてしまいます。お互いが一緒に行動して共感することが大事だと思います。褒められる「芯」があることが必要です。褒められる芯を大人の側で作って、それを子どもに実践してもらって褒めるということかもしれません。それをオフラインキャンプで実践しています。

そして、効果をあげるためにも目標・ルールの達成は視覚化してほしい。例えば、7時間が6時間半ってなったら、できた日のカレンダーにシールを貼ります。これは、認知行動療法で使われている方法で、自分で視覚化することで「私ってすごいな」と思ったり「僕はよくなった」と思ったりする。こうした経験を積み重ねることが非常に重要です。

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“リアル”を知っている子は“リアル”に戻る

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                大学で授業を行う竹内さん

竹内さん最後にもう1つ。お父さんお母さんが楽しいことが鍵になります。

子どもがネット依存で、お父さんお母さんが暗いと、家庭が非常に暗いんですね。だから子どもに「リアルの大人って楽しい」と分かるような、親自身が楽しいところを見せてあげるといいと思います。友だちと遊びに行って楽しいとか、花を生けて楽しいとか、そういうふうに親が背中を見せてあげなきゃいけないんじゃないかなと思います。

ディレクター:現実の楽しさを、身をもって子どもに見せることが重要なんですね。

竹内さん特に子どもが小さい時はそうです。

これはあくまで経験則でしかないですけど、20年近くネットの問題に関わってきて、かなり確信を持って言えることがあります。小さい時に何か楽しい経験をして、リアルのだいご味を知っている子は、必ずリアルに戻ってくるということです。どれだけやってもネットから離れられない子と、粘り強くやったら変わる子と、2つのパターンがあります。この差は何だろうなと思っていたんです。

最近分かってきたことは、小さい頃にネット以外の現実のだいご味、例えば釣りとかキャンプとか山登りとか、何でもいいんですが、親と楽しい時間を過ごした子は、自分が帰りたい「あの頃」があります。一方、そういう経験が少ない子は、「帰りたい自分」がないから戻りにくいのです。

今、働く親が多くて、簡単なことではないかもしれませんが、やはり子どもが特に小さい時には、できるだけ一緒に遊んであげてほしいと思います。