竹富町が検討 全国でも珍しい「訪問税」 導入の背景は
- 2024年04月29日
美しい島の風景や海に触れようと全国から多くの観光客が訪れる沖縄県竹富町。世界自然遺産に登録されている西表島や昔ながらの町並みと豊かな自然が広がる竹富島など9つの有人島を抱えています。その美しい島々で全国的にも珍しい「訪問税」の導入が検討されています。いま何が起きているのか。導入の背景は。
(NHK沖縄放送局 後藤匡記者)
持続可能な町運営のため自主財源を
竹富町の人口は約4000。それに対して、町内の島々を訪れる年間の観光客はコロナ禍前の令和元年には102万5000人あまり。去年は83万5000人あまりと、ピーク時の8割まで回復しました。
観光客の増加は景気にとって明るい材料ですが、一方で課題への対策も待ったなしとなっています。
まずは、観光客が持ち込むゴミへの対応です。ペットボトルや空き缶に限定している港のゴミ箱には、靴や衣服など関係のないものが捨てられることも多く、そのたびにゴミ箱を管理している船会社のスタッフが対応を余儀なくされています。
ペットボトルはラベルもキャップも外して捨てるようにお願いしているが、ルールを守らず捨てる人もいる。そういったものを見つけたら私たちが対応しています。
次に、観光客を呼び込むためのインフラ整備です。観光客に島で快適に過ごしてもらうため、無料Wi-Fiの整備のほか、トイレを洋式に変えたり、水道施設の改修などを行ったりもしています。
町はこうした対応にここ数年、年間で約10億円を支出。本来住民だけに提供するサービスを観光客も利用するので、観光客が増えれば増えるほど、町が提供するサービスへの需要は高まることになります。当然、その分だけ費用もかかりますが、観光客による負担はありません。人口の少ない観光地ではこうした構造があり、自治体の財政を苦しめているのです。
竹富町の前泊正人町長は「自主財源をなんとか確保しなければ、持続可能な町運営はできない」と強調します。
訪問税は“2000円が適当”
こうした事態を重く見た前泊町長は、去年6月に全国でも珍しい訪問税の導入にむけて検討を始めました。
訪問税は島を訪れる人に課される税金で、全国では、世界遺産の嚴島神社がある広島県廿日市市の宮島で、去年10月、初めて導入されました。
竹富町の訪問税では、町民や町内の事業者や学校に通う人は対象外で、未就学児や修学旅行生などは免除する方針です。竹富町の各離島への船便が出ている石垣港で船のチケットを購入する際に船会社に徴収してもらう考えです。
そしてことし1月、有識者が訪問税の導入に向けて報告書をまとめました。税額については、「2000円を徴収するのが適当」と結論。宮島の訪問税は1回につき1人100円で、その20倍にあたります。
1回あたり2000円。町の方針に観光客を取材すると、賛否の声が聞かれました。
石垣港と竹富島の船賃が2000円で訪問税が2000円だとちょっと高いけど、トイレとかいろんな施設の整備に使ってもらえるならいい気がする。
2000円もとったら、観光にも影響が出るのではないか。
島民からも賛否 町長の判断は
町はことし1月から各島を対象に8回にわたり住民説明会を実施。訪問税の対象外となっている町民からも懸念の声が寄せられたのです。
観光客が減るのではないかという不安は出てくる。額については慎重に検討してほしい 。高すぎる。
民宿を経営しているがもうかっていない。2000円増えたら打撃が大きい。観光客が来なくなる。零細企業、個人事業主が島にはいっぱいいるが、懸念を払拭させてほしい。
町の基幹産業は観光業。町民は対象外となっていても、観光業に携わって生計を立てている町民からは不安の声が出ていました。住民説明会に2度足を運び、住民の方に話を聞きましたが、町が自主財源として訪問税を導入すること自体には理解を示す人が多い印象を受けました。
また説明会では、逆に“町の強気の姿勢”を応援する町民もいました。
金額についてだが、もっと強気でもいいと思う。それだけの十分な魅力がある。魅力ある観光地であり続けるためにも必要なのではないか。
一部の島では猛烈に反対の意見が出たため、2度説明会が開かれたところもありました。前泊町長は、2000円での訪問税の導入に強いこだわりをもっていました。それは、これからも観光客に訪れてもらう島々にするためには、財政的に限界があるという強い危機感があったからでした。
そして、最終的に町長が決めた税額は1000円でした。
住民説明会でさまざまな町民の意見を聞き、まずは住民の不安にも配慮する必要があると判断。ただ、100円や300円では効果は限定的だとして、1000円より下には引き下げませんでした。
この島を存続させるために、生活するための基盤の整備・再構築は最低限度必要なものです。特に観光に対する防災の面すべてにおいて、ほとんど手が回っていない状態なので、しっかりとした財源を確保しながら、守りたいものを守るために我々がしっかりと変化していく、変わっていくことは必須です。
“きちんと説明すれば受け入れられる”
竹富町は4月に東日本大震災以来となる津波警報に見舞われました。朝の発生で観光客が島々に訪れる前だったため混乱はなかったといいますが、これがもし日中の活動量が多い時間帯に起きていたらどうだったのか。
津波避難タワーのような高い建物がない島があったり、避難場所が老朽化していたり、避難場所の案内表示も十分でない島もあります。町としては、訪問税の税収で防災のためのインフラ整備にも力をいれていく方針です。こうした方針を町民、そして税を徴収する観光客に対して説明していくことにしています。
沖縄県内では、竹富町が訪問税の導入を目指しているほか、県や一部の自治体が宿泊税の導入に向けて検討を進めています。竹富町の訪問税が使い道が観光関連に縛られない「普通税」であるのに対し、宿泊税は使い道が観光関連に縛られる「目的税」であるという違いはあるものの、根底には観光客に対応するために、自主財源を確保しなければ立ちゆかなくなるという問題意識があるのは共通しています。
こうした動きについて、かつて大手旅行会社に勤務したことがあり、観光振興などが専門の近畿大学の高橋一夫教授は次のように指摘します。
竹富町が1000円の訪問税を徴収し、インフラ整備を進めることは評価に値すると思う。町民が納めた税金で観光客のサービスを提供し続けるには限界があり、インフラ整備に投資することは、観光客の満足度を高めるだけでなく、町民生活の満足度も向上し、結果として町民のホスピタリティーが生まれる。美しい自然や文化を守るために、税収が使われることを町側がきちんと説明すれば、観光客からは受け入れられるはずだ。観光地となっている自治体が、地域の将来を予測し、いまから財源の確保を考えて、サービスを受ける観光客にも負担を求めるのは当たり前となるのではないか。
導入までのハードルは
最後に、この訪問税導入までにある、いくつかのハードルについてです。
まずは議会で条例案を提出し、条例をつくる必要があります。町は6月議会での提出を目指しています。その後、最大の関門が総務大臣との協議です。有識者が町側から導入の必要性や税額などを聴取し、最終的には総務大臣の同意が必要となっています。大臣の同意がなければ、導入には至らないということで、町の担当者も「国の方でどういう意見が出るのか予想がつかない」と話しています。