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新年度 部活動地域移行 新潟県の課題は?

  • 2023年04月03日

新年度から中学校の休日の部活動を地域のスポーツクラブや文化芸術団体などに移行する「部活動の地域移行」が段階的に実施されます。教員の負担削減や少子化を受けて進めることが決まった施策ですが、地方自治体から「移行先の団体がない」「指導者がいない」といった懸念の声が上がっています。県内ではどれほど改革が進められているのか、現場を取材しました。

                                 新潟放送局 猪飼蒼梧 

地域移行の先進事例は新潟県に

村上市にある中学生のためのバスケットボールクラブ。地域の総合型スポーツクラブが運営し、
3つの中学校のバスケットボール部員あわせて20人が所属しています。

専門のコーチから指導を受け、他校の部員といっしょに技術の向上を目指しています。

地域のクラブで練習する生徒

他の中学校の人たちといっしょに練習できるので楽しいです。入る前よりもシュート力と体力がついたことがよかった。

地域のクラブで練習する生徒

クラブにはコーチの人がたくさんいるので1人1人にしっかりと教えられる環境になっていると思います。

NPO法人希楽々 渡邊優子 理事長 

クラブを運営するNPO法人の渡邊優子理事長です。10年前、中学生の女子バスケットボールのクラブを立ち上げたのが始まりでした。

クラブを運営するNPO法人 渡邊優子理事長
この地域の中学校には当初、女子のバスケットボールという部活動がなく、
小学生のミニバスを一生懸命頑張ってきた女の子たちが中学校に行ってもバスケットができない状況でした。そんな子どもたちがプレーできる場を作りたいなと思ったのが始まりです。

その後、バスケットボール女子はなくなりましたが、中学生のためのクラブは拡大し、
バスケットボール男子、軟式野球、ソフトテニスと3つのクラブがあります。                  

NPO法人が取り組んできたのは生徒が学校の部活動と地域クラブの両方に所属することができる
「融合型部活動」という形。

バスケットボールクラブの週間予定

具体的には週3回は学校の部活動、土曜日と水曜日の週2回は地域クラブで練習します。
学校で指導する教員の負担も軽減しながら、もっとうまくなりたい、練習をしたいという中学生のニーズにも応えることができる仕組みです。

NPO法人と村上市の会議

仕組み作りには、学校や行政、保護者との協力関係は不可欠です。学校の部活動をなぜ地域が担うのか、その意義を訴え、4年にわたる協議を経て、現在の形が確立されました。

渡邊優子理事長
今までの体制を変えるということなので、はじめは市との協議もうまく進まず、大変でした。それでも子供たちのスポーツをする場を確保したいという思いが原点にあったので、ここまで来ることができました。

クラブを持続的に運営するため、保護者は原則として生徒の送迎を行い、運営の費用にあてる月謝を支払っています。「地域の総合型スポーツクラブが学校の部活動と連携する」
地域移行を先取りした取り組みが注目されています。

新潟県は地域移行の『先進県』?

こちらの村上市のクラブは充実した体制を整えていますが、実は県内では各地で地域移行の取り組みが
積極的に行われているのです。

県内には30を超える総合型地域スポーツクラブがあり、30市町村中、23の市町村では、今年度から一部の競技で地域移行が行われます。

一方、渡邊理事長は移行が進んでいるからこそ見えてくる課題もあるといいます。

渡邊優子理事長
指導者を確保することと同じくらい運営主体が大事です。そしてそれが地域からも認められた組織であり、公益性があること。まずは受け皿となるクラブがしっかりと環境を提供できる体制を整えなければならないと思います。

渡邊さんは、自身の経験も踏まえ、スポーツや文化活動の子どもたちには提供するためには、自治体や地域との連携を緊密にとることができる運営主体を築くことが最優先だといいます。運営主体の組織体制が整っていれば、活動場所やスタッフなどを準備しやすいからです。

指導者を育てる取り組みも

それでも全国では地域移行に向けて「受け皿がない」、「指導者がいない」といった懸念の声が相次いで上がっています。

これを受けて、地域移行を今年度から3年間で達成する計画だった国は去年12月、
「地域の実情に応じてできるだけ早く準備を進める」と達成時期の目標を修正しました。

県内では、指導者不足を解決するための取り組みも行われています。

燕市で開かれた講習会です。参加しているのは地域のクラブで指導する、さまざまな競技のコーチたち。その資質を高めようと、独自の育成プログラムが設けられています。

コーチ役と選手役となり演習

この日のテーマは、コーチが「選手にどう声をかけるか」でした。

新潟医療福祉大学 西原康行教授

講師は新潟医療福祉大学の西原康行教授。
コーチング理論の専門家で、部活動改革に取り組む県の委員会の座長を務めています。
西原教授は、指導者や受け皿の不足は、あくまで表面的な課題であって、子どもたちが
スポーツや文化活動に自然な形で入っていける地域のあり方が重要だと言います。

新潟医療福祉大学 西原康行教授
教員の働き方改革のために部活動が地域にただ移るだけという認識ではなくて、新しい子どもたちのスポーツ環境をつくっていくことが、改革の本来の目的。地域の中に子どもたちのスポーツ環境をつくっていくんだというメッセージが多くの人に伝わり、その認識を共有していくことがまず第1歩だと思っています。

西原教授は地域のクラブ活動が盛んなドイツを視察した経験があります。

ドイツのあるサッカークラブのグラウンドは地域の人たちからの寄付で芝生が維持され、区画ごとにその金額や名前が記されています。このように地域でスポーツや文化を育てていく意識と環境作りが必要だと強調。西原教授は、今回の部活動の地域移行をそのきっかけとしなければいけないと話します。

西原康行教授
歩いて行けるところにそういうスポーツや文化活動ができる環境がある。そこには子どもたちはもちろん、その保護者たちがお茶を飲んだり、会話をしたりする交流を場が生まれる。そうなると人々がスポーツクラブや文化活動団体を通して地域とつながり、生活がもっと豊かになる。スポーツにはそんな力があると思っています。

  • 猪飼 蒼梧

    新潟放送局 記者

    猪飼 蒼梧

    令和元年入局。
    新潟局が初任地で5年目。
    新潟市政、スポーツなどを担当。

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