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警察署で容疑者らの散髪23年、理容師の秘めてきた思い

  • 2022年12月13日

23年間にわたり、警察署に通い、勾留中の容疑者や被告の散髪を行ってきた理容師がいます。
堀 健一さん(75)。家族とともに燕市で理容店を営みながら、警察からの要請をうけ、署に併設された「理髪室」で散髪を行ってきました。

西蒲警察署内にある「理髪室」

「理髪室」がある警察署は、県内では新潟市西蒲区の西蒲警察署と三条市の三条警察署の2か所のみ。
その2つの「理髪室」が老朽化などのため、2022年度いっぱいで閉鎖されることになりました。
 

そこで、西蒲警察署は2022年12月、これまでの活動に感謝を込めて、堀さんに感謝状を贈りました。

金井幸雄副署長(左)、堀さん(中)、羽豆元一署長(右)

羽豆署長は、「誰でもできる仕事ではない。人格が備わっている限られた人にしかお願いできない。堀さんには頭が下がらない思いです」と感謝の気持ちを表しました。
感謝状を受け取った堀さんは、「『感謝状あげたのに何やってんだ』って警察から叱られることがないように、ボランティア活動も行って貢献しようと思います」と話し、署長たちを笑わせる場面も。


堀さんが「理髪室」で仕事をするようになったのは、前任のおば夫婦が高齢のため引退することになったからでした。
「1番最初に散髪したときは、本当に汗びっしょりで『大変な仕事を引き受けた』と思いました」
と話します。
相手の事情に触れないこと、偶然知ったとしても絶対に外に漏らさないことを第一に仕事をしてきたそう。しかし、続けていくうちに、いろんな思い出ができたと言います。

「理髪室」でインタビューに答える堀さん

若い留置人の場合、父親のような気持ちになって、ちょっとしんみりしながら話したことがあります。「早くここを出て、街の床屋さんにかかるように努力しなさい。もし刑が決まったなら、早く償って親孝行しなさい」と。「反省の気持ちが表れるように短くしたらどうだ」ってアドバイスしたこともありますね。
またあるときは、背中に入れ墨の入った人をやらせてもらいました。終わったとき汗びっしょりでしたけど、優しい言葉で「さっぱりしてよかったよ」とお礼を言われました。

実は、江戸時代末期、ちょんまげの時代から続く理容師一族の8代目である堀さん。理容師の仕事に対する情熱と使命感を人一倍持っています。

はさみの切れ味をチェックする堀さん

留置人であろうが誰であろうが、頭に関しては床屋が責任もって、希望どおりの頭にしてやりたい。夏は特に、皮膚が荒れていてかわいそう。だから、まず「さっぱりした!」って喜んでくれるように切ります。留置人であろうと、髪を切るのが理容師の仕事だと思っています。

「理髪室」は閉鎖されますが、堀さんは今後も警察から要請があれば、署の部屋を借りて散髪を行うということで、「私が続けられる間は警察署に通って、理容師の仕事を守っていきたい」と意気込んでいました。

  • 髙尾果林

    新潟放送局 記者

    髙尾果林

    2021年入局。新潟放送局2年目。事件・事故、裁判などの取材を担当。

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