ママが子どもと避難したら、想像していたより大変だった話
1人で走っていなくなる5歳児。気分屋の2歳児。重たいリュックとベビーカー。夫は不在。私たちは無事に避難所にたどりつけるのか!?最近、少し多いなと感じる地震に備えて子どもと一緒に試してみました。
(映像センター 小林可奈 中野貴世/ネットワーク報道部 藤島新也)
防災ニュースなどで紹介された内容です
小林家の場合
東京 練馬区に住む私(小林)は、夫がいない時に大きな地震が起きたと想定して避難してみました。
我が家には5歳の息子と2歳7か月の娘がいます。
息子は我が道を行き、娘は何でも自分でやりたい&絶賛イヤイヤ期。
最初に「地震が来たよ!」と呼びかけると、息子は「だんご虫ポーズ!」と言って、頭と口を押さえて机の下に潜りました。
息子いわく「保育園でいつもやっている」ということ。
娘はそれを見て隣で必死に真似をしていました。
揺れが収まったので避難します。
夫が用意していた「非常持ち出し袋」を出そうと思ったら、2階のクローゼットの上部に。
身長151センチの私はそのままでは手が届かなかったので、脚立を出して取り出しました。
しかも降ろしてみると結構大きい…。
家を出るため、子どもに靴を履かせようとすると「自分でやりたい!」と娘は大暴れ。
ようやく履いたと思ったら左右が逆だよ…。
一方、息子は「うんち!」と言ってトイレに行きました。
結局出発に7分かかりました。
ようやく準備が整い、避難所となっている400メートル離れた最寄りの小学校へ移動します。
娘は「ベビーカーに乗りたい」と言うのでベビーカーに乗せ、息子とは手をつないで出発。
ところが、家を出てわずか1分で、娘は「歩きたい!」と言い出しました。
思っていたより荷物が重いのと、娘にかかりきりになっていると、気づけば息子はどんどん先に行ってしまいます。
ちょっと待って!
呼び止めても1人で先に行ってしまう息子。
歩くのもベビーカーも嫌になった娘は最終的に抱っこひもに。
最近使っていなかったのですが、捨てずに取っておいて良かったです。
結局、大人の足では5~6分の道のりを、この日は15分ほどかかって小学校に到着しました。
思っていたよりは早く着けたと思いました。
息子も「地震があったらここに来るんだね」と言っていたので、防災の意識を少しは持ってもらえたのかもしれないと思いました。
<気づいたこと>
▽「非常持ち出し袋」は取り出しやすい場所に置いた方が良かった
▽着替えや生理用品など自分のものを忘れた!
▽雨や夜だったら不安…。ライトは玄関に置いておくべきだった
▽避難する道には空き家や木造の古いアパートがあり火災が心配
▽ブロック塀も多く地震で通れなくなる可能性を感じた
中野家の場合
私(中野)は、地震の後に近所で火災が発生したことを想定して避難してみました。
夫の「火事だ!」という声で避難をスタート。
ところが、「火事だ!」と聞いたとたん、訓練なのに気持ちが焦り、「早く家を出なければ」と思うものの、次に何をすべきかわからなくなってしまいました。
実際に近所で火事が起きたり、火災報知器の音を聞いたりしたらどうなってしまうんだろう…。
我が家には1歳3か月の息子がいます。
体重は12.5キロ。
よちよち歩きはできますが、長距離を歩くのは難しいです。
そこで抱っこひもを使って移動することにしました。
ところが、抱っこひもは前回夫が使ったままの長さ。
調整するのに時間がかかりました。
いつも持ち歩いているリュックに財布と母子手帳、お茶を入れましたが、それ以外は持ち出せませんでした。
子どもには上着や靴下、靴を履かせることもできず、家を出ました。
それでも4分かかりました。(目標は2分でした)
家を出てから「裸足のままだと危ないかな」と思い、近くの公園でいったん靴下と靴を履かせ、1.2キロ離れた小学校を目指しました。
歩いてみて気づいたのは電柱が多いこと。
めっちゃあるな…。
地震で倒壊して道をふさいでいたらどうしよう…。
道路の両側の建物からガラスが降ってきても身を隠すのも難しそうです。
順調に進んでいましたが、途中で、肝心の避難先の小学校の場所がわからなくなってしまいました。
実際の地震の時にはネットはつながらない可能性があるなと思いながらも、スマホで確認…。
実は最近引っ越してきたばかりで土地勘がなく、何となく場所は把握していたのですが、実際に歩くと道順はあやふやでした。
それでもなんとか進んでいくと、緊急工事中で通れない道もありました。
1.2キロ離れた小学校にたどり着いたのは家を出て30分後。
12キロの息子を抱っこして肩はバキバキ。
ヘトヘトに疲れました。
<気づいたこと>
▽地震が起きてからリュックに詰め込むのは難しい。
▽雨や天候の悪い日への備えがなかった。夜はライトが必要。
▽ルートは何通りか用意しておいた方が良い。
私たちの避難、どうでした?
「子どもを連れての避難、なめてた…」
これが今回、体験しての正直な気持ちです。
せっかく体験したので、疑問を専門家に聞いてみることにしました。
質問をぶつけたのは防災士の奥村奈津美さん。
パパとママに向けた防災の本を出版し、自身も2歳9か月の息子の子育て中です。
「だんご虫ポーズ」は「場所」に注意
(小林)
「家の中で地震にあった時の対応は正しかったですか?」
「『だんご虫ポーズ』は保育園や幼稚園で教えるところがあって浸透していますよね!大事な姿勢ですがこのポーズをとる『場所』には注意してください」
(小林)
「場所ですか?」
「例えば、机の上にポットや食器があると、落ちたり熱湯がかかったりする危険があります。机の下にこだわらず、倒れるもの、移動するもの、飛んでくるものから離れた上ですることが大事です」
(中野)
「ソファーの場所に逃げるのも良かったと振り返って思ったのですが」
「実は我が家もソファーを安全な場所に配置していて、まずはソファーに逃げます。置いてあるクッションで頭も守れます。周辺の家具を固定しておくことも大事です。他にも棚などが無ければ『廊下』もアリです。揺れたと思ったらパッと廊下に出ることが安全なことがあります。家の中のどこが安全か考えておくと安心ですよ」
すぐに家を飛び出せばいい訳ではない
(小林)
「家を出るまでに予想以上に時間がかかってしまいました。これはどうしたら良いでしょうか?」
「地震の時は、道路に亀裂が入ったり、ブロック塀が倒れたり、ガラスが散乱したりしていて、外には危険がいっぱいです。ですから、本当に外に出て大丈夫か冷静に判断する必要があります。例えば、自宅が鉄筋コンクリート造りで耐震基準も満たしている、近隣で火災が起きている訳でもない…というような時は、家にとどまるほうが安全かもしれません。『すぐに家を飛び出せばいい訳ではない』と思ってください」
(中野)
「私は『逃げなきゃ』という気持ちが強くて、靴や靴下をはかせずに家を出ていました…」
「素早く行動しようという気持ちは大切です。火が迫っている場合は裸足だろうがとにかく早く逃げることが最優先です。ただ、少し猶予があるなら、具合が悪くならないように、防寒して出発した方が良いです。子どもはすぐにサイズアウトするので安いもので十分ですから、防水機能のあるレインコートをパッと着せていくとか」
ベビーカーは慎重に
(小林)
「ベビーカーを使ってもいいんでしょうか?」
(奥村さん)
「一般的には使わないように伝えています。地震の時は道路を物がふさいでいてベビーカーでの移動が難しく、かえって荷物になる可能性があるからです。急に余震に襲われても、距離があるので子どもに覆いかぶさることも難しいですよね。ただ、お子さんが複数人いるケースなどで使わざるを得ないケースもあると思います」
(奥村さん)
「小林さんの息子さんはどんどん先に行ってしまうということですが、 万が一、はぐれてしまった時のことを考えて『SOSカード』を作っておくと良いですよ」
(小林)
「SOSカード?」
(奥村さん)
「名前や連絡先を書いたカードです。我が家では、息子にお菓子やジュースを入れたリュックを背負わせて、その中にSOSカードも入れています。『はぐれた時にはこのカードを大人に見せるんだよ』と伝えていますよ」
火災から逃げる時は「風向き」に注意
(中野)
「私は途中で道が分からなくなってしまいました。実際に道を確認することが大事だと思いました」
(奥村さん)
「災害時にはスマホが使えないことがあります。ですから「紙」の地図を持っておくと安心です。玄関のそばなどに置いておくと、いざという時に便利ですよ」
(中野)
「火災から逃げる時に気をつけた方が良いことはありますか?」
(奥村さん)
「火災の場所がわかっている場合は『風下』から離れることが大事です。煙が立ち上っている場合は、煙のたなびく方向が風下です。延焼が広がっても安全な自治体が指定する『広域避難場所』などを目指しましょう」
生活に防災をプラス
子どもと一緒だと避難の大変さは思っていた以上でした。
外が危険なこと、避難自体が大変なことを考えると、家にとどまることを含めて、状況に応じた判断が大事だとわかりました。
我が家では休日に徒歩や自転車で行ける公園めぐりをしています。
給水所や公衆トイレはどこにあるのかなど、日々の生活にプラスして災害が起きた時のことを意識してみようと思います。
(小林)
災害に備えなきゃと思いながらも、育児と家事で時間ないし…と自分に言い訳して何もせずにいました。
でも10月7日の地震(東京・埼玉で震度5強)では、子どもに覆いかぶさることしかできませんでした。
本当に避難しなきゃいけなくなったら、親の自分たちに何ができるだろうと思っていたので、夫と一緒に訓練をして避難先を確認できましたし、気づいたことを話し合えたのは良かったと思います。
今回、奥村さんに「訓練でできなかったことは実際に災害が起きた時には絶対にできない」と指摘されたことに、はっとしました。
いざという時に何もできずに後悔しないためにも、できることから習慣化していきたいと思いました。
(中野)
備蓄についても聞きました
防災士の奥村さんには
▽小林家の「非常持ち出し袋」
▽中野家の「家庭内備蓄」
についてもコメントをもらいました。
<追加したいもの>
・水(500mlを2~3本)・生理用品・携帯トイレ・着替え・情報収集をするアイテム(ラジオ・バッテリー)・ホイッスル(助けを求める際に使用)・感染対策グッズ(体温計・消毒液・スリッパ)・母子手帳・静かに遊べるおもちゃ(シールブックなど)
<コメント>
「リュック自体の防水対策もしておくとさらに安心です
<追加したいもの>
・水(3リットル×1週間分×家族の人数が目安)・トイレットペーパー・カセットボンベ・停電時に使えるアイテム(ランタン・ヘッドライト)
<コメント>
「家で過ごすことを考えて簡易トイレや携帯トイレを用意しておきましょう」
奥村さんは ▽すぐに食べられる食料を用意しておくこと ▽簡易トイレや携帯トイレの備え が重要だとアドバスしてくれました。
「災害時に火を使えない場合、アルファ化米は水で戻すのに1時間くらいかかります。子どもが『お腹すいた!』と言ってから作り始めると、とても1時間は待てないですよね。ですからパッと出して食べられるもの、たとえば、空けたらすぐ食べられる離乳食のお弁当とかパンとかも用意しておいて欲しいです」
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