災害列島 命を守る情報サイト

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水害 支援 教訓 地震

断水で赤ちゃんが風呂に入れない…どうすれば

生後2か月の赤ちゃんの3日ぶりの入浴は、母親がふと目にしたインスタグラムの投稿から実現しました。

2022年9月、台風15号の大雨による大規模な断水が続いた静岡市。

不安な日々を送る家庭を救ったのは、助産師らボランティアの思いと、それを後押ししたSNSの投稿の拡散でした。

※記事の最後に、赤ちゃんがいる家庭の防災対策のポイントをまとめています。

2022年10月で放送されたニュースの内容です

目次

    12日間続いた大規模断水

    2022年9月23日から24日にかけて、台風15号が接近した静岡県では、記録的な大雨となりました。

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    静岡市清水区では、大規模な断水が発生。

    すべての地域で断水が解消されるまでに12日かかりました。

    赤ちゃんが風呂に入れない…

    断水で困っていたのが、赤ちゃんのいる家庭です。

    そのひとり、静岡市清水区に住む吉田美優さん(31)。

    夫と長男の春太郎くん(2)、それに、次男で当時生後2か月の虎臣くんと4人で暮らしています。

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    9月24日、自宅が断水し、同じ区内に住む親族の家もすべて断水してしまいました。

    吉田さんが困ったのが、虎臣くんのお風呂でした。

    暑さも残る時期、汗をかきやすい虎臣くんの肌は大丈夫なのか…。

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    なんとかお風呂に入れてあげたいと考えましたが、銭湯などの施設でもオムツが取れていない子どもは入浴できません。

    飲料水などを電子レンジで温めてホットタオルにし、虎臣くんの体を拭いてその場をしのいでいました。

    吉田美優さん
    「ミルクとかお風呂とか洗濯とかすべてができず、初めてのことなので不安しかありませんでした。汗もすごくかくし、首回りとかおむつしているところが蒸れるので、子どもがかわいそうだなという思いでいっぱいでした」

    “あなたの街に助産師がいます” 見つけた投稿

    そんな中、吉田さんは心配になってSNSのインスタグラムで支援の情報を探し始めました。

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    そこで見つけたのが、“もく浴ボランティア”の投稿でした。

    清水区に隣接する葵区と駿河区の助産院で、もく浴ができるという内容が、インスタグラムやツイッターで拡散されていました。

    断水から2日たった9月26日、わらをもすがる思いで助産院に電話したところ、すぐに対応してもらい、たまった洗濯物も一緒に持ってきてくださいと伝えられました。

    その日のうちに助産院に向かって虎臣くんを風呂に入れてもらいました。3日ぶりの入浴でした。

    お風呂上がりの虎臣くんは気持ちよさそうに助産院のリビングで眠っていました。

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    吉田さん本人もシャワーに入らせてもらい、洗濯も済ませてもらいました。

    「大変ですね~」

    シャワーを上がると、助産師の小長井祥子さんがこう言いながら紅茶とクッキーを持ってきてくれました。

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    久しぶりに静かな場所でゆっくりとした時間を過ごせた吉田さん。

    何よりも小長井さんの気遣いがうれしかったといいます。

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    吉田美優さん
    「小長井さんが包み込むような優しさで接してくれて、心がとても温かくなり、感謝の気持ちでいっぱいです。このあと、インスタグラムを見ていたら『今回被災者になった人は次の支援者になればいい』という言葉があって、とても心に刺さりました。次は自分が困っている人に手を差し伸べたいと思います」

    赤ちゃんと家族守りたい

    虎臣くんのもく浴を行った助産師の小長井祥子さんです。

    静岡市助産師会の会長を務めています。

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    助産師会がもく浴のボランティアを行うことを決めたのは、断水の直後、清水区の助産院に「せめて赤ちゃんだけでも風呂に入れてほしい」という依頼が寄せられたことがきっかけでした。

    緊急の話し合いを行った結果、12か所の助産院で断水2日後の26日からもく浴のボランティアを行うことを決めたのです。

    なにげなく投稿したら…

    小長井さんは、多くの家庭にボランティアについて知ってもらおうと、SNSのインスタグラムで利用を呼びかける投稿を行うことにしました。

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    およそ4か月前、この助産院で生まれた赤ちゃんがもく浴しているときの写真を使って、「断水でお困りの方、沐浴できます~」と呼びかけたのです。

    自分のフォロワーは200人程度。効果は限定的だと考えていました。

    ところが、この投稿に対して多くのコメントが寄せられました。

    「シェアさせてください」

    「ストーリーにて拡散させていただきます」

    自分が投稿したインスタグラムにとどまらず、ツイッターなどにも情報が広がり、問い合わせの電話が頻繁にかかってくるようになりました。

    12か所の助産院には10月2日までの1週間で、想定を大きく上回る104家族、290人が訪れました。

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    静岡市助産師会会長 小長井祥子さん
    「どこまでニーズがあるかわからないけど、できることをしようということで発信してみたら、想像以上に困っている方が多くてびっくりしました。多くの人が被災地のことを思って情報を拡散してくれたことで、必要な親たちに情報が届くことになったので、本当に助かりました」

    専門家「ニーズをくみ取って即座に動いた」

    日本助産学会の理事長で、聖路加国際大学大学院の片岡弥恵子教授によりますと、特に生後間もない赤ちゃんは皮膚が薄く汗もかきやすいことから、もく浴で肌を清潔に保つことが重要だということです。

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    今回、もく浴ボランティアの動きが拡散したのは、断水が続く中で、助産師たちが赤ちゃんのいる家庭のニーズを的確に把握したからだと指摘します。

    聖路加国際大学大学院 片岡弥恵子教授
    「断水時に赤ちゃんや家族が抱えるニーズや思いをくみ取って即座に動いたという点で評価できる。おそらく今回の経験は助産師のあいだで全国に広がっていき、参考にされていくと思う。今回の教訓を今後の災害に生かしていき、日本どこでも助産師が活動できるように広げていく必要がある」

    「日頃行っていたこと」が災害時に生きた

    「もく浴は日頃から行っていたので、今回もすぐに始めることができた」

    取材に対し、助産師の小長井さんがこう話していたのが印象的でした。

    断水の対応をめぐり、行政の対応の遅れも指摘される中、ボランティアの方々は被災者が今困っていることを速やかに把握し、支援につなげていたのです。

    そして、そのことがSNSでの情報の拡散につながったのだと思います

    日頃から行ってきたことを、災害時に迅速に生かしていく今回のような取り組みは、今後も求められていくと感じました。

    防災対策のポイントは?

    日本助産学会の勧める、赤ちゃんのいる家庭での必要な備蓄や断水時の対策などのポイントをまとめました。

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    *オムツ
    毎日8枚前後を使用と考えてください。
    新生児の成長は早いので、1サイズ上のオムツを備えておくと有効です。

    *母乳の場合
    母乳を飲んでいる赤ちゃんには、余裕があるときに母乳を冷凍しておくことも大事です。
    災害に備えて、母親以外の家族が飲ませる練習をしておくこともできます。

    *災害時の調乳手順
    ➀アルコールで手などを消毒。
    ②カセットこんろなどで湯を沸かし、「熱湯用」のポットと「湯冷まし用」のマグカップにそれぞれ注ぐ。
    ③紙コップに粉ミルクを入れ、全体の3分の1の量の「熱湯」で溶かす。
    ④常温まで冷ました「湯冷まし用」の湯を注ぎ、適温・適量に(飲み残しは破棄)

    *紙コップでの授乳の注意点
    ➀赤ちゃんがしっかり起きている状態で、頭を少し持ち上げる。
    ②ミルクを流し込むのではなく、唇や舌を使って吸い付くように飲むのを待つようにする。口からミルクがこぼれることがあるため、少し多めに用意しておくようにしましょう。

    *「部分洗浄」の注意点
    断水時の赤ちゃんのスキンケア。体全体でなく「おしり」「頭」「首」「顔」を部分的に洗います。 一般的なベビーバスには最低10リットルの水が必要なため、泡せっけんで皮膚をこすらずに優しく洗う「部分洗浄」が有効です。

    <おしりの部分洗浄>
    ➀防水シートやタオルの上にあおむけに寝かせる。
    ②お湯で軽く流し、たっぷりの泡せっけんで洗う。
    ③お湯で泡を流し、おしりふきで拭く。
    ④新しいオムツに交換。

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    日本助産学会は、赤ちゃんを育てる家族向けに防災対策の動画を作ってYouTubeなどで公開しています。

    この中では紙コップでの授乳方法や断水時の体の「部分洗浄」の方法も、動画で詳しく紹介されています。


    社会部 災害担当記者 若林勇希


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