2割しか入れない? 深刻化する避難所不足
避難所に行ったのに満員で入れない…。2019年の台風19号での出来事だ。新型コロナウイルスの感染防止対策を取ったら、さらに避難所のスペースが足りなくなるのでは? 首都圏を流れる川を舞台に、オープンデータを使って調べてみると想像以上に深刻な事態が。あなたは避難所に入れるだろうか…。(社会部記者 藤島新也 中村雄一郎)
2020年6月にニュースで放送された内容です
目次
“満員”の避難所
「避難所に入れない」
問題がクローズアップされたのは、2019年10月の台風19号。東京と神奈川の県境を流れる多摩川で水位が上がり、周辺の地域に避難勧告が出た。
写真はその時の東京・調布市の避難所の様子。体育館はいっぱいになり、急きょ開放された校舎の廊下も人であふれた。避難所が「満員」となる自治体が相次ぎ、別の施設へ移動が必要になるケースもあった。
現在は新型コロナウイルス対策で、人と人の距離を取ることが求められている。避難所も例外ではない。どのような状態になるのだろうか? オープンデータを使って調べてみることにした。
浸水する避難所
調べたのは多摩川沿いの自治体。まずは、自治体が出している地域防災計画やハザードマップを一つ一つ確認し、避難所となる施設をピックアップした。
その結果、避難所は多摩川沿いの23の市と区で、あわせて759か所。避難所の位置を見ていくと、かなり川に近い場所にも。浸水のおそれは無いのだろうか?
気になったので、多摩川が氾濫した場合の「浸水想定区域」とあわせてみた。
赤い○は浸水想定区域内にある避難所だ。数えると全部で189か所。すべての避難所の約25%にあたる。
実に4か所に1か所は浸水リスクを抱えていることになる。驚きの結果だった。
特に多かったのが東京・大田区と川崎市。平たんな土地が多く、広い範囲が浸水してしまうからだ。さらに、浸水の深さをみてみると…。川崎市中原区の下沼部小学校は3.4m。校舎の2階付近にまで及ぶ浸水の深さだ。「本当に避難所として使えるのか?」担当者に聞いてみた。
「浸水する施設はできれば使いたくありませんが、市内の浸水範囲が広いため、こうした施設を除外すると、避難所として使える施設が非常に少なくなってしまいます…。浸水する施設も使わざるをえないのが現状です」
大田区などは、浸水するおそれのある施設について、あらかじめ「2階以上」「3階以上」などと使用する条件を決めているということだった。
収容可能は半分
ではこの避難所に、どれくらいの人が入れるのか? 試算することにした。
まず、地域防災計画やハザードマップに書かれた避難所の「想定収容人数」を集計。想定収容人数が書かれていない場合は「避難所の面積」と「避難者1人あたりに割り当てられる面積」をもとに独自に算出した。さらに平成27年度の国勢調査の結果から、浸水想定区域内の人口も推計。
「避難所の想定収容人数」と「浸水想定区域内の人口」をまとめたのが下の表だ。
この表をもとに、浸水想定区域内に住むどれくらいの人が避難所に入れるのか「収容可能率」として試算した。率が高いほど、避難所に余裕があることを示す。
多摩川沿い全体では「収容可能率」は約54%。住民の半分程度しか避難所に入るスペースが無い。
自治体別に見ると府中市が18%と最も低く、東京・大田区や川崎市は20%台。2019年の台風19号で避難所が足りなくなるのもうなずける結果だった。
ウイルス対策 利用可能は2割だけ?
ここに「新型コロナウイルス対策」を考慮するとどうなるか。わかったのはより深刻になる状況だ。
内閣府の通知では「人と人の間隔は、できるだけ2m空けるのが望ましい」としている。そこで、仮に避難者どうしが2m以上の距離を取った場合にどうなるのか。避難者1人あたりのスペースは2m×2m=4平方メートルの計算だ。
全体の「収容可能率」は約24%まで低下。
府中市は7%、東京・大田区や川崎市はわずか10%台。これは、住民の10人に1人しか避難所に入れないことを意味する。さらに、従来なら十分に足りていた立川市や多摩市、羽村市でも避難スペースが不足するおそれがでてきた。
避難所“以外”にも選択肢を
都会の避難所不足の現状について、災害時の避難行動に詳しい静岡大学の牛山素行教授に聞いてみると…。
「首都圏などの大都市部では、避難所に十分な収容能力はありません。ただ、そもそも『避難』とは『難を逃れる』ことであって、避難所に行くのはあくまでも選択肢の1つ。必ずしも全員が避難所に行く必要は無いのです」
避難所はあくまで選択肢の1つだという牛山教授。提案したのが、避難所以外への避難。「危険な場所にない」という条件で以下の3つを紹介してくれた。
- 自宅での在宅避難
- 親戚・知人宅
- ホテルなど宿泊施設
こうした避難先を災害が切迫する前に考えておくべきだという。
「いざという時には冷静な判断ができないので、気持ちが穏やかな今のうちから避難先について考えておくことが大切です」
マンション内避難
取材では避難所以外の選択肢として参考になる事例も。マンションでの助け合いだ。
多摩川沿いにある府中市のこのマンション。最悪の場合3m近く浸水するおそれがある。実際に2019年の台風19号の際には、避難勧告が出て1階に住む40世帯あまりが避難を迫られた。
この時、1階の住民が安全な上層階の住民の部屋に避難したケースも。さらに「ゲストルーム」と呼ばれる来客用の部屋を臨時に開放、1階の住民を受け入れたという。安全であれば高い階に移動する。マンションが多い都会では、参考になる取り組みだと感じた。
自治会長の林田健一さんに話を聞くと、マンションでは日頃からお祭りを開くなどして、住民同士の交流を深めているということだった。こうした「近所づきあい」が、いざという時に役立ったという。
「都会のマンションは『隣に誰が住んでいるかわからない』と表現されることが多い、それではいざという時に協力ができない。イベントなどを通じて、顔が見える関係を作ることが、皆で協力して災害に対応する秘訣だと思う」
いま、考えてほしい
災害が迫っている時や不安な時には「ためらわず」避難所や避難場所へ行くことが大原則だ。しかし、見えてきたのは、これまでにも増して「避難所に行っても入れないおそれがある」という現実。自治体は、企業などの民間施設、学校の教室、ホテルなどの宿泊施設など、あらゆる場所をフル活用して、避難スペースを増やす努力をしてほしいと感じた。
一方で、私たちも「避難所のスペースが足りない」という現実を頭に置いておく必要がある。大切なのは、災害が差し迫る前、時間があるうちに、「避難所以外の選択肢」を考えておくことだと思う。
自分や大切な人の命を守るために、いま、考えてほしい。
- 社会部記者
- 藤島新也
- 社会部記者
- 中村雄一郎
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