地震で倒壊“ブロック塀” あなたの近くにも
「ブロック塀が倒れて亡くなった子がいたんだった」
ちょうど1年前、大阪の通学路で起きたことを覚えていますか?小学4年生の女の子の命を奪ったのは、地震で倒れたブロック塀でした。老朽化や強度不足で倒壊の危険性がある“魔のブロック塀”。実は全国のどこに、どれだけあるのか、正確な実態は誰も知りません。身近に潜む危険からどうやって自分や大切な家族を守りますか?(ネットワーク報道部記者 松井晋太郎 鮎合真介 社会部記者 藤島新也 仙台局記者 バルテンシュタイン永岡海)
2019年6月に放送されたニュースに関連する内容です
目次
もう1年たったのか
震度6弱の激しい揺れを観測した大阪府北部地震。大阪 高槻市で小学4年生だった女の子が、倒れたブロック塀の下敷きになり死亡しました。地震から1年、ネット上のツイートからはブロック塀を取り巻くさまざまな状況が見えてきます。
息子の通学路を歩いて
大阪府北部で起きた地震のニュースを見て、私(松井)は、当時、小学2年生だった息子に伝えたことを思い出しました。
「ブロック塀の近くを歩いてはいけないよ」
地震の直後、私は通学路を歩いてみました。学校までのおよそ500メートルの間には子どもの背丈を大きく超えるブロック塀がいくつもあり、もし地震が起きて壁が倒れてきたら、子どもはおろか、大人でも危ないと感じました。
直下型地震であればわずかな猶予しかなく、激しい揺れのなか、ブロック塀の位置を見極めて回避することなどできるはずもありません。
ニュースを見て、息子の通学路はどうなったかと思い、同じ道を再び歩いてみた私。ところが、その光景は1年前と変わっていなかったんです。
えっ 半数も!?
いったい、どういうことなのか、早速、東京 新宿区の担当者に聞きました。
新宿区には公立の小学校が29校、中学校が10校あります。区の教育委員会などでは去年6月の地震のあと、直ちに区立小・中学校の通学路にある高さ1メートル以上のブロック塀や、「万年塀」と呼ばれる高さ60センチ以上のコンクリートの塀を調査した結果、その数は2906か所にものぼることがわかりました。
これらのうち目視による調査で、明らかに法律の基準を満たしていないものは、劣化や損傷が著しいと判断されたものを含め、全体の半数に達していました。教育委員会などは所有者に対しブロック塀の撤去や補修などの指導を行う一方、各学校には、担任が子どもたちに危険な場所を伝えるなどするよう文書を出しました。
さらに、2906か所のブロック塀などのうちおよそ2割は、空き家など所有者や管理者が不明となっています。
個人の負担が数十万円にのぼることなどから、すぐに対応できない所有者もいるとみています。このため区では、ブロック塀の撤去や新たなフェンスの設置に関する助成を拡充しています。
かといって、私有地のブロック塀を強制的に撤去や補修することも難しく、区の担当者は「助成制度を利用してもらえるよう働きかけを続け、通学路の安全の確保に努めていきたい」と話しています。
誰も知らない
そもそも、危険なブロック塀は全国にどれだけあるのか。残念ながら「どこにあるのか?」「どのくらいあるのか?」という基本的なことさえ詳細に把握できていないのです。
いったいどうして?
そこで「建築基準法」を調べてみました。法律では建物を新築した際に、一緒にブロック塀を設置した場合には、自治体への申請が義務づけられています。ところが、家を建てて、あとから塀を設置する場合、一部の地域を除いて自治体への申請の必要はありません。
また施行令では、ブロック塀を設置する際には、高さ2.2メートル以下、倒壊を防ぐため垂直方向に「控え壁(ひかえかべ)」を設置する必要があるなどとされていますが、申請されなければ、チェックのしようも無いのが実態です。
対策 各地では
大阪府北部の地震を受けて、建築基準法に適合していなかったり、老朽化などによって安全性に問題があったりするブロック塀の撤去や改修が全国各地で進んでいます。
このうち静岡県では昨年度、県や市・町の補助を受けて個人などが行ったブロック塀の撤去工事は前の年度の5.66倍に増え、名古屋市でも補助制度の申請件数が昨年度は前の年度の10倍を超えました。
このほか和歌山市は、通学路のブロック塀を撤去する補助金の上限を40万円に引き上げたところ、ことし3月末までで171件のブロック塀が撤去され、今年度から補助の対象を私道などの通学路にも広げました。
また、独自の取り組みをする自治体も出てきました。南海トラフの巨大地震への備えが進む徳島県では来月、県内数か所にモデル地区を設け、住民や行政、防災の専門家などが協力して、通学路や避難路沿いのブロック塀の安全性などを調査します。調査結果をもとに地区独自の対策を今年度中につくり、県内に広げていく方針です。
「批判は承知」
東北では独自の実態調査で危険なブロック塀がある場所の公表に踏み切った自治体もあります。
宮城県石巻市は、去年11月から、調査員が市内をくまなく歩き、道路に面したブロック塀を見つけしだい調査する“ローラー作戦”を進めています。すでに1万1091件のブロック塀を調査し、緊急に改善が必要なものがことし3月までの調査で539件見つかっていて、さらに6000件を調査する計画です。
市では同じような調査を、平成14年と15年にも行っていて、危険性が高いと判断された塀の所有者に、繰り返し改善を求めてきました。その多くが解消した一方、経済的な理由などから改善されないケースもあり、市は去年8月から、危険なブロック塀の場所を示す地図をホームページで公表しています。
石巻市の担当者は、「去年の地震を受け、宮城県が公表を呼びかけたことが後押しになった。市内全域を調査するのは正直に言って大変な作業だが、ほかに実態を知るすべが無く、こうした調査は重要だと考えている」と話しています。
公表を呼びかけた宮城県の担当者は、「公表に対し批判の声があることも承知しているが、調査で危険な場所がわかった以上は、それを知らせていくことのほうが重要だと判断した」と話しています。
宮城県では、石巻市のほかにも6つの市と町で、危険なブロック塀の地図を公表しています。
危険 どこに
行政の取り組みに限界がある中で、身近に潜むブロック塀の危険をどうやって見極めればよいのか。
仙台市内の小学校近くにある路地で専門家とともにブロック塀を調査しました。専門家は主なポイントとして以下の6点を指摘します。
必要なブロック塀の高さは上限が2.2メートル、成人男性が手を伸ばしたくらいです。
厚さは2メートル以下は10センチ以上、それを超える場合は15センチ必要です。
次に「控え壁」。ブロック塀の高さが1.2メートルを超える場合、控え壁は3.4メートル以内ごとに設置しなければいけません。また、塀の高さの5分の1以上の奥行きが必要です。
鉄筋については入っていても十分でないケースもあり、専用の機械などで計測する必要があります。この日の調査では控え壁に不足があるほか、基礎工事が行われていないブロック塀が見つかりました。
所有者の女性は指摘されるまで倒壊の危険性はないと思っていたといいます。
「考えていなかったね。うちは大丈夫だと思っていました」(女性)
なるべく避けよう
いつ起きるか分からない地震で倒壊のおそれがあるブロック塀とどう向き合えばよいのでしょうか?ブロック塀の問題に詳しい東北工業大学の最知正芳特命教授は次のように指摘しています。
「突然、地震の揺れに襲われると、人間はとっさに壁側に寄ってしまう。移動する際にはなるべくブロック塀を避けることが必要だ」「学校や地域が一緒になって問題のブロック塀を無くしたり、通学路を変更したりすることが理想だが、それが難しくても、親子で通学路を歩いてどこにブロック塀があるのかや倒れたらどんな危険があるのかしっかり伝えることが大事だ」
安全なはずの通学路で起きたブロック塀の倒壊。地震はいつ、どこで起きる分からないなか、残念ながら対策を待つだけでは必ずしも安全を確保できない事態が続いています。
いま一度、家族や学校で子どもたちの安全について話し合ってもらえたらと思います。
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