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認知症の方への声かけ、ポイントは?

  • 2023年09月08日

「ひょっとして…この方認知症?」
周囲で困っている人がいる時、どう声をかけていいのか私はいつも迷います。
9月は「世界アルツハイマー月間」。どう声をかけ支えたらいいのか、自治体が開催した認知症サポーター養成講座で学んできました。

(名古屋放送局 鈴木博子)

焼き鳥屋で・・・

先日、焼き鳥屋に夕飯のおかずを買いに行った時のことです。

「あら、気持ちよさそうね」

と、高齢の女性がベビーカーで寝ている私の娘を見て話しかけてきました。娘を連れていると高齢の知らない方から話しかけられるのは日常茶飯事ですが、この日は様子が違いました。

女性は、焼き鳥屋の店員に何度も話しかけたり、店の前を行ったり来たり。私が商品を待っている間に、一度その場からいなくなったと思ったら、また戻ってきて同じ話をしたり、何度も「帰らないといけないんだけどね」とつぶやいたりと、落ち着かない様子でした。

私は会計が済んでしまったため先にその場を離れましたが、心の中では「ひょっとして、認知症だったのかな。なにかこちらから手助けできたのかな…」というモヤモヤが残りました。

認知症の方への声かけや対応学ぶ講座

モヤモヤを抱えた私に数日後、愛知県東浦町が企画する「認知症サポーター」養成講座を取材する機会がめぐってきました。

「認知症サポーター」は認知症を正しく理解し地域で見守る役目を担ってもらおうという狙いで、各地でこうした講座が開かれています。

この日東浦町で講師を務めたのは、社会福祉士の小倉恵美さん。

講師の小倉恵美さん

小倉さんによると、認知症の症状は2種類あるそうです。

【中核症状】
病気そのものの症状で治りにくい。
◇ものを覚えられない・忘れてしまうといった記憶障害
◇何度も時間を聞くといった見当識障害 など

 

【行動・心理症状】
認知症になった本人の性格や周囲の環境などが影響して出現する。改善できることも。
◇食事や排泄といった身の回りの動作ができなくなる
◇家に閉じこもる ◇徘徊 など

2つ目の【行動・心理症状】は周囲の人の助けや環境が変わることで改善することもあるということで、大切なのは周囲の支えだと強調していました。

声かけを実践

講座では実際に声かけの方法を寸劇を通して学びました。協力しているのはボランティアの劇団です。

まずは”よくない声のかけかた”です。

まちなかをふらふらと行ったり来たりする高齢女性。地域の女性2人が後ろから近づいて声をかけます。

「大丈夫ですか?(大声)」
認知症の高齢女性「知らない人だわ!ついてこないで!」

高齢女性は驚き・・・

高齢女性は驚いて、急いで立ち去ってしまいました。

急いで立ち去ってしまう

”よくない声のかけ方”の例では女性を助けることはできませんでした。

それでは、どうすればいいのでしょうか。

小倉さんが強調したのは次のポイントでした。

《声かけのポイント》

◇後ろから声をかけない
◇できるだけ1人で声をかける
◇穏やかにはっきりと話す
◇相手の話に耳を傾ける 

★場合によっては警察や役場に通報する

こうした点に注意しながら参加者たちは実際に声かけをやってみました。

参加者①「こんにちは~。どうしました?」(腰をかがめながら近づいて前から声をかける)

高齢女性「おまんじゅう買ったの。おじいさんと食べるんだけど、おじいさんの家はどこじゃったかわからないんだわ」

無駄話をしながらも、高齢女性はその場から去らずに会話をしています。しかし…

高齢女性「家は体育館の道をくだったところなんだわ」

参加者①「どうしよう…警察に電話していいですか(苦笑)」

ここで、他の参加者も寸劇に飛び入り参加。

左2人が参加者

参加者②「こんにちは~。どうされました~?(中略)なにか住所わかるものお持ちですか」。
 

高齢女性「財布にね、いつもなくしちゃいかんと思って、書いてあるんだわ」

台本なしのぶっつけの本番でしたが、まちなかを歩いていた目的や名前や電話番号を聞き出すといった具体的な対応を学ぶことができました。

声かけの方法はわかったけれど…

講座の終了後、寸劇に参加した人に感想を聞きました。

家族が認知症で、行方不明になったところを地域の人に助けてもらった経験があるという女性。自分もいつかそういう人に出会った時にどうしたらいいかわからず悩んでいたといいます。

参加者

認知症の人に後ろから声をかけないというのは頭になかったので、わかってよかった。家族にも住所を書いた紙を持たせているので、そういう場面に遭遇したら自分も聞き出してあげたい

一方で、こんな声も。

認知症じゃなくてただ散歩しているとか道に迷っているとか、あるいは認知症の人なのかって見た目じゃわからない。声をかけていいのか、失礼にあたらないか見極めが難しいです。教わったとおりにやってみようと思うが、その一歩が難しいかもしれない

私が先日の焼き鳥屋で出会った女性が認知症だったかどうかはわかりませんが、その時に会話に応えるだけではなくて私から「どうしましたか?」って、声をかけられていただろうか…。
声かけをためらわずにすむよう、なにかわかりやすい基準があれば・・・その気持ちを講師の小倉さんにぶつけました。

講師の小倉恵美さん

見知らぬ方に声をかけることはすごく勇気がいることだと思います。でも一方で声をかけないですぎていく後悔と、声をかけた結果『何事もなく大丈夫だったんだ』ということだったら後者の方がいいと思うんです。認知症の人から私たちに声をかけることは難しいので、『困っていそうだな』と思ったら認知症かそうでないかに関わらず声をかけるという意識が大事なのかなって。

そぶりや言動で認知症であることを見極めるような明確な基準はないということでした。

『困っていそうだな』と思ったら、声をかける。逆にシンプルでわかりやすい基準だと私自身が強く感じました。

東浦町では人口およそ5万のうち、去年3月末時点で1万1899人が講座を受けてサポーターになっているということです。街なかに『困っている人に声をかける人』が一人でも多く増えたら、地域全体での見守りにつながっていくのではないでしょうか。

自分もいつか認知症になるかもしれないですし、認知症であるとかないとかではなくみなさんがこの地域に住む同じ住民として、自分のこととして考えてもらいたい。病気の有無で分断するのではなくて、認知症の方が安心できる街というのは自分にとっても安心できる街っていう意識を伝えられたらいいかなといつも思っています。

  • 鈴木博子

    名古屋放送局 記者

    鈴木博子

    高松放送局で6年勤務後、ことし4月から名古屋放送局。子育てに関する話題に関心あり。

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