ページの本文へ

NHK名古屋のおすすめ

  1. NHK名古屋
  2. 名古屋のおすすめ
  3. 「部活動コーディネーター」部活改革 愛知豊田

「部活動コーディネーター」部活改革 愛知豊田

  • 2023年05月10日

「部活動コーディネーター」 部活改革 愛知豊田

「部活動コーディネーター」愛知県豊田市の公立中学校に令和5年度から配置された新たな役職です。
その役割は、教員にかわり部活動の指導ができる人を地域の中から探すこと。なぜこの役職が配置されたの?どんな仕事をするの?その1日を取材しました。
(NHK名古屋放送局 吉川裕基)

地域の中から指導者を探す

豊田市の豊南中学校で非常勤講師を務める若月洋さん(64)です。教員を定年退職後、午前中だけ授業を担当しています。
若月さんは、4月から新たに「部活動コーディネーター」の仕事を担当しています。豊田市が令和5年度から新たに市内28校すべての中学校に配置を進めている役職です。主な仕事は、学校と地域の間に立って土日など休日の部活動を指導できる人を地元で探すこと
教員の経験者や生徒の保護者、地域の民生委員などが採用されています。どうして、教員に代わってこの役職が必要なのか、中学校の校長先生に聞きました。

豊田市立豊南中学校 校長
「授業や生徒指導をやりながら教員が地域との結びつきを強めることを勤務時間内にやろうとするとなかなか苦しい。また、教員は何年かに1度転勤がある。コーディネーターが学校に入っていただけることになると大変学校としても助かるし、地域の方々の力を借りながら、少しずつ教員とともに子どもたちの部活動を運営していきたい」

休日部活が長時間勤務の主な原因に

どうして、土日など休日の部活動を教員ではなく、地域の指導者にお願いをする必要があるのでしょうか。

令和5年4月に文部科学省が公表した全国の教員の勤務実態調査では、中学校の教員の36.6%が過労死ラインを超えて勤務している可能性があることがわかりました。実に、3人に1人の割合です。

中学校の教員の長時間労働の大きな要因の1つが「休日の部活動の指導」です。

生徒たちと一緒に走る新任の教員

豊田市内の中学校でも、教員が休日の部活動を指導しているのが実情です。豊南中学校では、令和5年4月に教員になったばかりの陸上部の顧問が4月は大会の引率などで休日も出勤していました。この教員は、陸上部の経験はありません。取材に訪れた日には、授業準備のほか、生徒たちが提出した感想文を1人ずつ丁寧にコメントをしていました。放課後には、陸上の知識を身に着けようと生徒たちと一緒に体を動かしていました。

陸上部の顧問を務める新任教員
忙しいですね。部活動はまずは経験がないので自分も一緒に学ぼうという気持ちでやっています。

豊田市では、教員の負担を減らしながら、生徒たちの部活動の場を維持しようと令和3年度から市独自のモデル校を設置して、部活動についての対応策を検討してきました。
その結果、教員に代わる地域の人材を確保するための役割が必要だと考え「部活動コーディネーター」を令和5年度からすべての中学校に配置することを決めました。部活動コーディネーターと地域の指導者への報酬などの費用は令和5年度はあわせておよそ8300万円です。

卒業生が指導者 教員は休みに

若月さんは、過去にこの中学校で勤務したことがあり、地域にも詳しく学校の事情も知っていることから「部活動コーディネーター」を任されることになりました。
教員生活で長く陸上部の顧問を担当してきた経験を活かし、地元で開かれる陸上の大会などに顔を出して指導者を探しました。そこで、この中学校の卒業生を見つけて声をかけました。
その卒業生は地元のスポーツクラブで陸上を指導していることがわかり、休日の部活動の指導もお願いできないか聞いたところ、快く引き受けてくれることになったそうです。

部活動コーディネーターと指導者

部活動コーディネーター 若月洋さん
「私が現役で教員をしていた時に陸上部で大変活躍していた方で、僕もそのころから知ってます。声をかけさせてもらってなんとか引き受けていただけるっていうことになりました。大変ありがたいです」

新たに陸上部を指導することになった女性
「スポーツクラブで小学生中心でランニング教室はちょっとだけやっています。少しでも先生たちのサポートができたらいいなと思っています」

陸上部では5月から、休日は地域の指導者に生徒たちを教えてもらうことになりました。その日は教員は休めるようになります。

陸上部顧問を務める新任の教員
自分にできないアドバイスをしてくれるので本当に心強い。教師と地域の方たちがうまく連携していけたらいいなと思います」

生徒から期待する声も

取材に訪れたのは、新しい指導者と生徒、教員が初めて顔を合わす日でした。指導者は自己紹介を終えるとすぐに生徒たちの中に入って、ラインニングのフォームやストレッチの方法などを指導する姿が見られました。

陸上部 女子部員
「平日の練習とかでは教わらないようなフォームとか細かいところまで指導してくれると嬉しいです」

陸上部男子部員
「先生の負担が少しは消えると思うし、陸上の人が入ると教える人も楽しいと思うからいいと思う」

学校との連携、安全の確保は?

ただ、知らない指導者が入ってくることに不安を抱える人がいてもおかしくありません。例えば、平日の部活動とどう連携するのか。指導が過熱して子どもたちの安全が確保できるのか。この中学校では指導者向けのマニュアルを作成しています。

マニュアルの中には…
▽指導者が活動したら日誌を必ずつけて学校に提出する。
▽気温が25度を超える場合は、暑さ指数を必ず計測して、基準値を超えた場合は活動を中止にする。
▽土日どちらかは必ず休みとして活動時間は3時間以内。
などと記されています。

部活動を「学校から地域へ」本格化

国は、部活動と教員の働き方改革を両立させるため、中学校の休日の部活動を、地域に委ねる取り組みを令和5年度から段階的に始めています。
豊田市では、「部活動コーディネーター」を通じて指導者の確保を進めて、令和5年度中に市内すべての中学校で1つ以上の部活動を地域の指導者に委ねる計画を立てています。

豊田市教育委員会学校教育課 
若月めぐみ 学校教育指導専門員
「地域のことをよく知っている人が多いので、その人に部活動コーディネーターをやってもらって人材を発掘してもらいたい。将来的に市全体で子どもたちがスポーツをしたり文化的な活動をしたり自分で参加していくような仕組みを作ろうと考えている。その仕組みを作るためにも地域の人たちが学校の中にどんどん入ってくれて、いろんな方がスポーツや文化的な活動を支えてくれる人材をつくっていると思っています」

  • 吉川裕基

    NHK名古屋放送局

    吉川裕基

    盛岡局、岐阜局を経て2022年から名古屋局 教育分野を担当 教員の長時間労働、部活動改革、校則問題などを取材

ページトップに戻る