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なぜ過去の災害を振り返る?~高橋和雄名誉教授に聞く~

  • 2022年04月22日

みなさんにクイズです。以下の出来事について、いくつ知っていますか?

すべて長崎県内を襲った自然災害そのものや災害にまつわるものです。NHK長崎放送局放送の「イブニング長崎」内のシリーズ「長崎の災害 あの日に学ぶ」で、取り扱ってきたものでもあります。シリーズでは、例えば、「長崎大水害」や「雲仙・普賢岳の噴火災害」といった戦後の災害だけではなく、古くは江戸時代の「諌早水害」や「島原大変肥後迷惑」も取り上げてきました。また、石碑や記念碑だけではなく伝統行事も取材しました。一覧のうち「念仏講饅頭」は、長崎市内の一地域で連綿と続けられている「住民に饅頭を配ることで災害を忘れない」というユニークな取り組みでした。シリーズでは、それぞれの災害について直接知る人や専門家にインタビューをして私たちが学ぶことができる教訓はないか、考えてきました。

「過去の災害を覚えていて助かった地域と忘れ去られて被害が出た地域があり、同じ被害を繰り返さないために伝承していく必要がある」

長崎県の災害伝承に詳しい長崎大学の高橋和雄名誉教授が、「あの日に学ぶ」で語った言葉です。シリーズ放送スタートからもうすぐ1年、東日本大震災から11年の節目を前に、「過去の災害を振り返る意義とは何か?」について、改めて考える機会にしたいと高橋名誉教授に取材しました。

長崎局 記者 上原聡太

【災害伝承を研究 高橋和雄名誉教授】

高橋和雄名誉教授

高橋さんは、この取材に入るまでの過去8回の放送のうち4回に出演していただいた私たちにとって「ご意見番」ともいうべき存在です。番組の木花牧雄キャスターとともに、長崎・佐世保・島原など県内各地をめぐってきました。

ときには身を乗り出しながら石碑について説明をしていただいたり。

みずからも興味津々で一緒に話を聞いたりという形です。

高橋さんは防災工学を専門としてきましたが、平成23年に名誉教授に就任してから災害伝承について研究を始めたといいます。きっかけのひとつは11年前の震災でした。

高橋名誉教授

災害伝承を調べ始めたきっかけは、東日本大震災のとき、過去の災害を覚えていて助かった地域と忘れ去られて被害が出た地域があり、同じ被害を繰り返さないために伝承していく必要があると思ったことです。自然災害は、同じ地域に繰り返し発生しますが、その発生頻度が小さいため、ほとんど語り継がれずに忘れ去られたのが今までの私たちの反省です。2018年(平成30年)の西日本豪雨では、岡山県倉敷市真備町や広島県坂町では、過去に同じような災害が起きていましたが、それが十分には語り継がれていなくて、同じ被害を繰り返したという反省がありました。

その上で、ふだん私たちがあまり顧みないような、まちの片隅にひっそりとたたずむ石碑や記念碑に注目することの大切さを強調しました。

高橋名誉教授

私たちの先人は『同じ被害を繰り返してはいかん』という思いで、石碑を建てるなど取り組んできました。しかし、こうした過去の教訓を生かすも生かさぬも今を生きる私たち次第なんです。私たちがしっかりと評価していかないと忘れられていきます。先人が残した石碑などを道路工事のときに隅に移しているのが私たちの今までやってきたことですから、それをしっかりと掘り起こしてあげることが大事です。

ここで、「あの日に学ぶ」で取り上げられた特に印象に残るものを聞くと、高橋さんは、先ほども触れた「念仏講饅頭」を挙げてくれました。

念仏講饅頭

この伝統行事が続けられているのは、長崎市太田尾町の山川河内地区。この地区では江戸時代末期に土砂災害で33人が亡くなったと伝わっています。亡くなった人たちを供養する法要が時代とともに姿を変えながら、現在では、まんじゅうを全世帯に配るという形で続いていると伝わっています。こうした伝統が住民の防災意識を向上させ、長崎大水害に生かされたといいます。
 

高橋名誉教授

念仏講饅頭では、土砂災害が起こったことをまんじゅう配りを通じて伝承しました。このおかげで、長崎大水害では、けが人が1人も出なかったということは、非常に貴重な取り組みだと思います。

【100年前の島原地震】

水害や噴火災害以外にも高橋さんに聞きたかったことがありました。それは長崎の地震についてです。私自身は、長崎に着任して丸4年。そこまで地震が多い地域とは感じていませんでした。しかし、ことし1月、トンガの海底火山で発生した大規模な噴火の影響で、長崎県西方に津波注意報が出され、長崎港では県内最大28センチの潮位の変化が観測されました。さらに、その1週間後には日向灘でマグニチュード6.6の地震が発生。大分県と宮崎県でそれぞれ震度5強の揺れを観測し、長崎にも緊急地震速報が出されました。深夜1時すぎに驚かれた方も少なくないと思います。高橋さんに「長崎でも地震は警戒すべき?」と率直な疑問をぶつけました。

高橋名誉教授

島原半島を中心に活断層群があり、60年に1回くらいの頻度でマグニチュード6クラスの地震が起こっています。今から100年前には、島原半島でマグニチュード6.5と6.9の地震が立て続けに起こって26人が亡くなっています。これは熊本地震が起きるまでは九州でも歴史に残る最大クラスの揺れなんです。長崎でも地震は起こることを前提に考える必要があります。

高橋さんが言及したのが、今から100年前の1922年(大正11年)に島原半島で起きた島原地震です。島原半島には「雲仙活断層群」があり、今でも3つの断層帯が1度に活動するとマグニチュード7.1から7.3規模の地震が発生するおそれがあると指摘されており、警戒が必要だということです。ただ、高橋さんは、それ以外の地域でも警戒は必要だと指摘しています。

高橋名誉教授

活断層が見つかっていなくても地震が起きることは過去の教訓としてありますから、『マグニチュード6クラスの地震はどこで起きてもおかしくない』というのが今の防災の基本です。大雨であれば避難する時間が確保できますが、地震の場合は起きてからの対応が非常に難しいので、誰もが日頃の備えを整えることが大事だといえます。

【いま求められる災害伝承の体制づくり】

最後に、災害の歴史を将来につないでいくためにどうすればよいのか。長崎大水害から65年、諌早大水害から40年の節目の年にあたる今年だからこそ、改めて伺いました。

長崎大水害も諌早大水害も今までは基本的に被害を受けた地域が伝承を担ってきたんですが、人口減少や高齢化もあり、イベントそのものを維持するのが非常に難しくなっているのも事実です。だからこそ、防災士会や地域ボランティアが協力して語り継いでいく仕組みを作ることが必要です。それを行政が支援していく形にしないと続きにくいと思います。そして、もう1つ大事なのは、若い人に関心を持ってもらうことです。子どもはしっかりと私たちが伝えることを受け止めて大人になっても気をつけていけます。その知識を伝えるときにデジタル技術を活用することが役立つと思います。

【取材後記】

長崎は毎年のように台風や大雨に襲われます。私も県内各地で被害を受けた現場や人の取材にあたってきましたが、ともすると、目の前で起きる出来事に関心がいきがちで、島原地震のように100年前の災害を顧みる機会は多くありません。それだけに「過去の教訓を生かすも生かさぬも今を生きる私たち次第だ」という高橋名誉教授のことばが私自身にも重くのしかかりました。新年度もこのシリーズを通して、引き続き過去の教訓を伝え続けていきたいと思います。

 

  • 上原聡太

    長崎放送局 記者

    上原聡太

    平成30年入局
     警察担当、 佐世保支局を経て
    現在は遊軍担当
    趣味はロードバイク

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